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今日のまかない当番。

「おはようございますっ!」



基本的にギリギリ通勤の私を厨房のシェフたちが恨めしそうに見てきた。


うう…すみません。


シェフたちはウエイターよりも2時間は早く店に入るのだ。



「諌早っ、早く持って来い!」


「はい!」



朝から、アルデンテくんはこき使われている。



「おはよ、美空」


「あ、おはよう、穂波」


「今日は忙しくなるわよー。三連休初日だもんね」


「あー、そうだった…」



私たちには連休なんてものは存在しないから、すっかり忘れていた。


このぺペロン、店の雰囲気も味もなかなかのもので、けっこうお客が入っていたりする。

連休ともなれば、朝から満席、なんてことも珍しくない。




「あー、今日から連休って訳で忙しくなる。手を抜かずに速く!あと、けがには注意しろよ!」


「はい!」



チーフのテキトーな朝礼も、今日ばかりは少し気合いが入っている…気がする。




開店時間10分前。最終チェック。


テーブルクロス、照明、BGM…ひとつひとつウエイターたちが確認していく。



「よしっ、異常なし!」


「木下、声でかい。厨房まで聞こえてっぞ!」


「すっ、すみませーん」



キッチンから原田さんが笑いながら言ってきた。30歳くらいでキリッとした感じの人だ。


ちょっと!アンタの方が声大きいって!


店内にさざなみのような笑いが起こった。


ああ、もう…恥ずかしい。いつも、原田さんのせいで笑われちゃうんだから。




カラン、カラーン


店の玄関を開けて、“今日のオススメ”の看板を外に出す。“CLOSE”のプレートを“OPEN”にかえした。


この作業は、いつも穂波の仕事だ。

理由は単純、穂波が美人だから。看板娘というか、ガツンと客寄せするためとか…私もいつかやってみたいな。なんて夢見たりする。




「いらっしゃいませー!」



朝から営業スマイル全開で、接客にいそしむ私。毎朝洗面台の前で練習しているから、引きつる心配なんてなし!



「オーダー入ります!」


「き、木下さん!これっ、16番…です!」



アルデンテくんが[トマトとバジルのスープパスタ]を差し出してきた。



「あ、熱いので気を付けて…」


「わかりました」



営業スマイルのまま受け取り、テーブルに向かう。



「お待たせしました、トマトとバジルのスープパスタでございます。熱くなっていますので、お気をつけください」



さすがに2年目になると接客も板についてくる。さりげない一言もちゃんと加えられるようになった。




「ふぅー、疲れた。やっと落ち着いたね」


「本当。あー、お腹すいた」



穂波が言うと私もお腹がすいてきた。時計を見れば2時を過ぎている。



「私、まかない持ってくるね」


「ありがとー、美空」



まかない当番表を見ると今日は…



「うわ、諌早くんか」


「そんな、言わないでくださいよ」


「わっ、諌早くん!びっくりした」



いつの間にか後ろにアルデンテくんが立っていた。一番年が近いからか、わりとよく話しかけてくる。


基本的に不器用なこのアルデンテくん、まかないにまで気を配る余裕なんてないだろう。



「大丈夫です。今日は、自信作なので」


「う、うん。じゃあ、2つもらうわ」



まぁ、お腹すいてるからわがままは言えないし。期待せずに食べてやるか。



「木下さん、以外と食べるんですね…」


「ちっ、違うわよ!私と穂波の分よ、決まってるじゃない」



失礼なやつ、人を大食いみたいに言わないでよ。


アルデンテくんの手から乱暴に皿を受け取る。



「…まだディナータイム残ってるんだから、がんばりなさいよ!」


「はっ、はい!」



さりげない一言、接客に限らず人間関係には不可欠ね。




「遅かったじゃん、どうしたの?」


「ごめんごめん。はい、今日の担当はアルデンテくんだったよ」


「えっ、本当!?」



穂波はさっと皿を取って、一口ほおばった。



「うっ…」


「何?やっぱり、不味い?」


「うーん、そうね。努力はしてるわよ!」



微妙な感想。これは、期待できないな。とりあえず私も一口食べてみる。



「う…。これ、アルデンテくんが作ったくせに、芯が残りすぎじゃない?ソースは、普通だけどさ」



時間がなかったとはいえ、これはひどい。これでよく自信作、なんて言えたものだ。


一応全部食べて皿を戻しに行く。



「あっ!…どうでした?」



うーん、正直に言うべきか…。



「そうね…ソースはまあまあだけど、パスタに芯が残りすぎね」



さすがに、本人を目の前にズバッと言えないわ。



「そうですか。あ、でもっ、ありがとうございます!ちゃんと食べてくれて」


「諌早ぁ!サボってねぇで、ちゃんと仕事しろ!」


「はいっ!」



奥の方から原田さんが言った。アルデンテくんは止めていた手を動かし始める。


さて、私もがんばらなくちゃ。




午後10:00.


連休一日目終了。いつもの倍以上動いたのでとにかく疲れた。




「あー、お疲れさん。まだ初日だからな、あんまり気を抜くなよ!」


「お疲れ様でした!」



やっと、終わる。一日が本当に長く感じた。




「菅野さんー。俺、無理…」


「初日からうだうだ言うな」



スパーン!


厨房内に小気味よい音が響いた。また、やられてる。私は苦笑した。


アルデンテくん(以下アル)、まかないはひどいけど料理はがんばってます!!

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