気まずさ。
午後1:50.
ピークが終わり、やっと落ち着いた空気が流れ始めた。
「木下、ちょっといいか?」
一息している私を菅野さんが呼んだ。複雑そうな表情をしている。
私もバカなわけではない。
菅野さんは、何よりも仲間のことを考えている。呼ばれた理由はすぐに理解できた。
「…どうしたんだ?諌早をやけに避けてるじゃないか。…何かされたのか?」
菅野さんはストレートに聞いてきた。
アルデンテくんにそんな度胸はありませんよ、とでも言おうかと思ったが、止めた。
「いいえ、そんなことないですよ?」
笑顔で答えると、菅野さんはさらに複雑そうな顔をした。
「…そうか。でもな、違うとしても仕事とプライベートは分けろよ?それくらい、木下だってわかってるだろう?」
「…はい」
私が素直に返事をすると、菅野さんはやっと笑顔を見せてくれた。
久しぶりに見るその表情にドキッとしてしまう。
「今のうちに休憩取っとけよ。あ…俺が今日のまかない当番だから、期待しとけよ」
「それは、ちょっと楽しみですね」
「なんだよ、ちょっとって。可愛げのないやつだな…」
「っ…」
その言葉に、少し傷ついた。
私って、そんなに可愛げがないのかな…?
確かに、穂波に比べたら女っぽくないけど…普段着もズボンばかりだし…。
菅野さんに言われると、やっぱり少し気にしてしまう。
「…美空っ!聞いてる?」
「え…わ、穂波!?」
ぼーっとしていると、穂波が怪訝そうな顔で私を見てきた。
「菅野さん、何だって?」
「べ、別に大したことじゃなかったよ。…それより、お腹すかない?今日は菅野さんが作ったらしいから、期待できるよ!」
話をそらして今日のまかないをもらいにいく私を、穂波は怪訝そうな顔のままで見ていた。
「うーん、やっぱり美味しいね!」
「本当にねー。アルデンテくんのよりずっと美味しいよ」
「…そ、そうだね」
穂波がいきなりアルデンテくんの話題を持ってきたので、思わずむせてしまった。
「ねぇ、美空。…私、アルデンテくんにフラれたけどもう気にしてないから!だから、美空も気にしないでいいよ」
そう言って寂しそうに微笑んだ。
ズキ、と胸が痛む。
私だって、気にしたくない…けど、私告白されて…。どうすればいいの?
午後5:50.
もうすぐディナータイム。
この時間くらいから一気にお客さんの数が増えてくる。
玄関フロアで待機しては案内するを幾度か繰り返す。この時は厨房との接触がないため、なんとか落ち着きを取り戻そうと努力した。
管野さんに言われたばかりなんだから、公私を分けなきゃ!!
「木下さん…あの、2番にピッツァお願いします!」
「…はい」
「木下、こっちのカルボナーラは9番に!」
「ありがとうございます」
アルデンテくん、そして管野さんの皿を受け取った。明らかに違う対応に、菅野さんは呆れたような表情をした。
仕方ないじゃないですか…これでも精一杯なんですよ?
「お待たせいたしました、カルボナーラでございます」
「ありがとう」
すっごく綺麗な女の人が微笑みながら言った。思わず頬が熱くなる。
女の私でさえも見とれてしまうほどにその人は綺麗だった。いるんだよね、たまにそんな人ってさ。一番身近じゃ穂波みたいな人。
って、あれ?…なんか、この人の雰囲気穂波に似てる気がする。
私の中の綺麗な人って、大体そうなのかな?
「ね、穂波?あの人、すっごい綺麗じゃない?」
「んー?…えっ、お姉ちゃん!?」
「おっ…お姉ちゃん!?…穂波、お姉さんいるの?」
「何だよ、木下。お前知らなかったのか?」
驚く私に管野さんが不思議そうに聞いてきた。
「って、何で菅野さんは知ってるんですか?」
「え…ああ。昔いろいろ世話になってな…」
菅野さんは珍しく語尾を濁して言った。
何ですか、そのイロイロって?気になるじゃないですかっ!!
「ほら、諌早も見とけ?本当に綺麗な人だからな、中々お目にかかれないぞ」
「え…そんなにですか?」
ズイッとカウンターから身を乗り出して、アルデンテくんは穂波のお姉さんを探す。
見る気満々じゃないの…。って、何か、近い。私のすぐ隣にアルデンテくんの顔が…。
そう思った途端、顔が熱くなった。多分、真っ赤になっていると思う。なっ…何で!?
「えー…?どこにいるんですか、その人?」
ふ、と急にこちらを向いてアルデンテくんが聞いてきた。あまりの不意打ちに心臓がおかしくなりそうになる。
そして私のささやかな抵抗であるだんまりは、いとも簡単に終わりを迎えてしまった。
「はぇ、あ…か、管野さんに聞けば?」
「でも、木下さんが届けたんですよね?」
きょとんとして聞き返してくる。
ああ、もう!!こいつに常識は通用しないんだ!
心の中で毒づいて、仕方なく教える。
「…ああ!あの人ですよね?…本当、綺麗な人ですねー」
「何よ、好みなの?」
言ってから後悔した。
だって、あの人は穂波のお姉さんだよ?つまりそれは遠回りでも穂波とつながってる訳で…ああ、私なんて軽率なことをっ!!
「うー…ん。何か、俺にはもったいない感じですかね?」
「はは、違いないな。おい諌早、仕事戻るぞ?」
「あ、はい!」
菅野さんの一言で助けられた。アルデンテくんは私の質問を、真剣に考えて答えるのだ。
あの真っ直ぐな目で見つめられると、どうしようもなく意識してしまう。普通でいようと思えば思うほど不自然になってしまって、余計意識してしまうのだ。
穂波の方を見てみた。
悲しそうな、怒っているような…複雑な表情をしている。
当然といえば、そうなんだけど。なんだか嫌な空気だなぁ…。
「木下ぁ、手ぇ休めてるひまないぞ?この赤、20番な!」
「あ、はいっ!ありがとうございます」
原田さんが差し出してくるワインを受け取る。
「うじうじ悩んでんじゃねーぞ」
渡し際に原田さんはささやいた。驚いてその顔をまじまじと見ると、ニッと笑いかけてくる。不思議とそれだけで気分が軽くなったきがした。
ありがとうございます、口パクでそう言ってフロアへ戻る。
今は集中しよう、変に気を使わせちゃ悪いしね!
更新遅れましたあぁぁ…。こんな作者ですが、お付き合いください…。意見・感想きかせてください!!




