おはようと現状確認
「ふわあああああ、ん?」
青年は目を覚ました。
寝起きの為上手く頭が回らいのか、ボーっと周囲を見渡している。
彼はベッドに寝ていた。
自分が室内にいるのは分かる。
「何処だ、ここ?」
自分が覚えているのは魔法を発動した所まで。
そこから先は一切覚えていない。
「つか、部屋だよな」
明らかに現代チックな造りをした部屋。
もしかしてと思い部屋の窓を開けるが、外に広がるのは
「森・・・異世界」
一度寝て、その実感がより強まったのか、青年は息を呑む。
「にゃあ~」
振り向くと猫がちょこんと座っていた。
一緒に世界を超えて来た青年の唯一の相棒。
「おお、おはよう」
「な~う」
すりすりと寄って来る猫を抱っこして撫でる青年。
大分落ち着いたようで、その顔には笑みが浮かんでいる。
「この建物、俺がやったんだよなぁ」
彼はしみじみと部屋を見渡す。
ベッドの他には学習机もある。
部屋を出ると、リビングだった。
テレビにクーラー、パソコンまで何でも御座れな様子に青年は戸惑いを覚える。
「まさか使えたりしないよな?」
ソファに座り、猫を横に下ろす。
それからテレビのスイッチを押すと朝のニュース番組が流れ始めた。
画面上の日付は事故に遭った翌々日のものだった。
「使えるのかよ。最早異世界関係ないんじゃ」
青年は開いた口が塞がらない。
そして、これには当然訳がある。
この世界には魔法が存在する。
その構造について研究は行われているが、そのメカニズムは解明されていない。
そんな魔法の中でも青年が使った<管理人魔法>は使用者のイメージを重要視する。
彼が発動した「家門招来」は彼の記憶やイメージを基に建物を作り出す魔法だったため、テレビやパソコンと言った別世界の道具まで生み出してしまったと言う訳だ。
更に、スキル自体に制限と言ったものが掛けられていない為、魔力を通しさえすれば使えると言うとんでもない設計になっている。
まぁ、他にもっと有り得ない設備もあるのだがそれは追々。
「う~ん、受信料とか電波とか一体・・・」
変に真面目な青年はウンウンと悩んでいる。
「にゃ~、うにゃ~」
「それより構ってよ~」と猫が青年の肩に飛び乗る。
最早普通の猫ではない。
「うわっと!お前、身軽だなぁ」
結局1人と1匹は遊び始める。
青年に至っては現実逃避と言えなくもない。
「うみゃ~」
たくさん触れ合って満足したからか猫はすやすやと寝てしまった。
青年は静かに部屋を出た。
それから建物の奥へ進み、階段を上がって行く。
上がった先には扉が3つあった。
明らかに
「空き部屋だよな」
試しに近くの部屋に入ってみると、管理人室と似たような部屋の作りになっていた。
だが、テレビやパソコンと言ったものはなく、管理人室より明らかに置かれている設備に差が見られる。
「俺の寝てた部屋が特別なのか?」
残りの2部屋も同じ作りだった。
どうやら、彼の部屋だけグレードが違うらしい。
「これアパートだよな?」
自分が造ったことは間違いないのだが何故アパートなのか。
青年は神様の言葉を思い返す。
「なるほどね~。家が欲しい、でもお金を稼ぐことも大事。・・・・・・あ、良い事思いついちゃった!」
「あ」
家。そしてお金を稼ぐ。
確かに賃貸ならば条件に合致する。
だが、
「こんな森じゃ人なんて来ないって」
そう、ここは何処かも分からぬ森の中。
恐らくだが近くに街と呼べるものもないだろう。
それに3部屋じゃ稼ぎも知れたものに違いない。
青年はへこむ。
だが、実際は少し違う。
この部屋、現代では只のアパートの一室程度の扱いだが、この世界の高級宿屋に匹敵するほど、いやそれ以上の快適さを誇る。
テレビはないが、風呂、クーラー、冷蔵庫、洗濯機などの超高水準な技術が快適な暮らしをサポートするのだ。この事が分かれば恐らく部屋の奪い合いになることは間違いない。
しかし、異世界2日目の青年がそんなこと知る筈もなく、現在へこんでいる。
青年が元居た部屋に戻ると猫はまだぐっすりと寝ていた。
その顔は安心しきっているのかとてもだらしのない顔だった。
「もう昼ぐらいか。ご飯の準備しとくか」
青年はキッチンに入り、昼食の準備に取り掛かろうとするがあることに気付く。
「食べ物ないよな?」
だが、良い意味で予想は裏切られる。
冷蔵庫には食材が入っていた。飲み物や調味料まで。
「すげえな管理人魔法」
自分がやったことなのに何処か他人事なのは与えられた力と言うのを理解しているからか。
「あるなら大丈夫だな」と青年は平然と料理を始める。
昼ご飯は冷凍うどん。
具材はネギ、蒲鉾、卵。
作り終えると、匂いに釣られて猫も起きて来た。
「うにゃ~」
どうやらお腹が空いたようである。
「お、ちょっと待っててな~」
少し温めた牛乳とささみがあったのでそれぞれ皿に盛る。
テーブルまで移動し、いただきますをする。
猫はガツガツとささみを食べている。
青年も負けじとうどんを啜る。
異世界だからかそのチープな味が体に染み渡るのを感じる。
ズルズルと啜る音ははしたなくも聞こえるが同時に食欲もそそる。
半生の卵を箸で割いて、うどんの麺と汁に溶く。
それがアクセントとなって更に箸が進む。
あっという間に青年はうどんを食べ終えてしまった。
猫の方も丁度ミルクを飲み終わったようだ。ささみはとっくに腹の中に消えていた。
青年は皿を片付け洗い物に取り掛かる。
蛇口を捻れば問題なくちゃんと綺麗な水が出て来た。
青年は「異世界って何でもありだな」と思ったが正確には<管理人魔法>が異常なのである。
洗い物が終わり、彼はソファーで一息つく。
腹が膨れて眠気が顔を出すが、何とか抑える。
猫は彼の隣でまどろんでいる。
「はぁー、異世界に来たのは良いけど何すれば良いんだろう?」
そう、来たのは良いが彼には夢や目標と呼べるものはない。
只々、安定した暮らしがしたいだけなのだから。
「住人呼んだって3部屋だからなぁ。あ、部屋数って魔法で増やせたり出来ないかな?」
早速やってみようとする青年。
しかし、
(条件を満たしていないので発動できません)
この様な声が響くばかりで魔法が発動できないのである。
彼の《管理人魔法》は出鱈目なポテンシャルを持っているが発動条件を満たさないと一切発動しない扱い辛い面も併せ持っている。
「ええ~、条件って何だよ~」
落ち込む青年。そんな青年に声は答える。
(条件:初めての住人をゲットせよ!)
「軽いノリで言われても難易度MAXだって~」
森の奥に人が来る筈もなく、ましてやこんな場所に居着く筈もない。
「そうだ!別の場所に新しく立て直すのは!?」
(その場合2度と同じものは建てられず、ペナルティーとして設備の殆どにロックが掛かりますがよろしいですか?因みにロックを解除するにも条件を満たすことが必要になります)
人生そんなに甘くない。
こんな場所に安易に建ててしまった前日の自分を青年は酷く後悔するのであった。
この快適な暮らしを損なわない為には人を呼ぶしか道はないのである。
「はぁぁぁぁ」
溜息と共に青年は天井を仰ぐのであった。
そんな彼はアナウンスの声が意思を持って返答していたのは最後まで気付かなかったのである。




