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異世界にて管理人  作者: うまひ餃子
11/18

漸くお休み

 そいではどうじょ(/・ω・)/



 じー


 無垢な視線が一点へと注がれる。

 しかし視線を向けられている猫は全くの知らん振りである。

 その飼い主(?)たる青年黒須は針の筵であった。


 ネム助に興味津々のマレリーン

 その孫娘を気にしてかちらちらと孫娘と青年に視線をやる老人。

 青年に対し常に一線を引いている執事と護衛達。


 軍鶏助は完全にかくれんぼ状態で滅多に青年の服から出て来ない。

 出て来る度に強い興味の視線に晒されるのが嫌なようだ。

 そしてカンリだが、姿を消している。

 彼女の存在は説明不可能で、尚且つ青年の異端さを証明してしまうものなので当然の対策と言える。



 「あの~アーデウス様、聴き忘れてたんですけど、アーデウス様の住む街までどのくらい掛かるんですか?」


 青年はこの場の息苦しい雰囲気から逃れたく、老人に話を振る。


 「おお、そう言えば言ってなかったな。大体だがここからならばあと三日と言った所だ」


 「なるほど、そうですか」


 

 会話終了。

 彼の実力はこの程度だったようだ。責めてはいけない。彼は人見知りなのだ。

 だが、人生経験豊富な老人は彼の意図が分かっていた為、話を続ける。


 「クロス殿は随分お若く見えるが家族の方はいるのかね?」


 しかし、それは只のコミュニケーションとしての会話ではなく、青年の事を探る為だった。

 この老人も100%お人好しという訳ではないのだ。


 「家族、ですか?俺にはこいつ等しかいません。親や妹とはもう・・・」


 「そうであったか、すまない。いらぬ事を聞いてしまった」


 青年の紛らわしい言葉に、老人は青年の事を家族を失った天涯孤独の身と誤解する。

 勿論、老人も簡単に騙される輩ではないのだが、青年の心からの言葉をミスリードしてしまった。

 まぁ、青年の家族が死んでいようが生きていようが、この世界で会えることは無いのだから、老人の考えも強ち間違えではないのだが。


 「いえ、お気になさらないで下さい。こいつ等のおかげで寂しくはないんで」


 そう言って優し気にネム助と軍鶏助を撫でる姿に老人はこの言葉は嘘ではないと推測する。

 これもまた青年の心からの言葉であったからだ。


 これにより老人の青年に対する警戒度は一先ず下げられる。

 そして、逆に青年に質問させる。


 「クロス殿は何か他に聞きたいことはありますかな?」


 これも、気遣いからではなく、青年の質問から彼の性格や目的などを見る意味が大きかった。


 「そうですね。それでは今から向かう街についてお話して頂けませんか?何分、国の事など全く知らずに育ったものでして」


 この言葉に車内にいる青年以外の者全員が気を抜かれてしまった。

 彼等が向かっているのは四国の一角、ウェステムにおける最大友好国メルギネス、その王都であるのだ。更にこの場所から目指せる国と言えば実質メルギネスしかないのである。

 いくら、田舎で育ったと言っても、この地方に住んでいたのならまず間違いなくメルギネスの名は聞いた事ぐらいはあるはずなのだ。


 だが、老人はある意味納得もしていた。青年が自分の名前を聞いても無反応であるのはそもそもメルギネスと言う国を知らないのであろうことに。もっと酷い場合、この大陸に存在する国の名前すら知らないのではと考えていた。


 そして、それらの推測からとある疑問が生まれる。

 この青年は一体何処でどの様に育って来たのか、と言う事だ。

 一見、無知に見えるが、最低限ながら礼儀を心掛けている点においては教養を感じなくもない。

 複数の盗賊を一度に撃退する腕を持ちながらも、その態度は何処かビクビクしていて頼りない。

 何と言うかちぐはぐなのだ。今まで出会った事がない質の人間だった。


 詳しく青年に話を聞こうかと思ったが、それも止めておいた。

 もし、自分が根掘り葉掘り詮索したら、目の前の青年が自分の前から消えてしまうのではないかと、瞬時に悟ったからであった。

 当然、老人の推測は正しく、青年に対し詮索するような素振りを見せていれば彼は間違いなく転移によって逃亡していた。


 「そうですな。では、お話いたしましょうか。我々が向かうのはメルギネス王国と言う国です。クロス殿はご存じないかな?」


 「はぁ、すみません。四国?と言う大きな国があるのは知っているのですが」


 「なるほど、四国についてはご存知でしたか。しかし、詳しくはないと言った所ですかな?」


 青年は老人の言葉に頷きを返す。

 

 「うむ、そこから話した方が良いかもしれんな」


 マレリーンの顔が「ゲッ!」となった。

 何か不味いことでもあるのだろうかと青年は考えたが、特に思い当たる節はない。

 それは当然だった。彼女が危惧したのは自分の祖父の長話が始まることに対しての物だったのだから。青年に分かる筈もなかった。

 青年は少女の心情に気付いた時、心の中でそっと少女に詫びたのであった。


 




 ・・・・・・と言う事だ」


 

 大体2時間ほどだったろうか、老人の長い講義が一段落したようである。

 孫娘に至ってはスヤスヤと眠ってしまっている。

 しかし、青年はちゃんと起きていた。

 そう、起きていたのだ。話をちゃんと聞いていたかはまた別の話である。


 幸運いや、不運だったのかその間、一行は盗賊にも魔物にも襲われることはなかったのだ。

 その間老人は喋り続けた。ひたすら喋り続けたのである。


 四国の説明を青年なりに整理するとこの様な感じであった。

 リンガイア帝国は積極的に大陸制覇を狙う国で異世界人についても頻繁に召喚を試みている。

 ドルゴーン皇国は武が盛んでよく闘技大会が催されるが、表向き侵略などはしない方針を取っている。

 フリューン聖国は国教推しが強く、リンガイアと2トップで他国とよく揉める。

 ウェステム王国は流れて来た異世界人による食の発展が目覚ましく、それとは逆に戦力としての異世界人の雇用はほとんどない。

 

 はっきり言って説明の1割も抑えられていないのだが、青年には土台無理な話だったので仕方ない。

 

 (お、軍鶏助もおねむか)


 気付くと、青年の懐でぴゅ~と寝息を立てていた黒須家次男坊。

 器用に寝返りを打つのは良いが青年には少しくすぐったい。

 しかし、耐えられない程ではないので青年はそのまま寝かせておく。


 その一方老人が話している間中丸青年の膝の上で丸まっていたネム助は「やっと終わった」と言わんばかりに欠伸をして体を起こす。

 興味のない長話をされて退屈なのは人間だけではないのだろう。


 「アーデウス様、ありがとうございました」


 「何々、隠居の長話に付き合ってくれてこちらこそ礼を言いたいぐらいだ。マリーももう聞いてくれなくなってしまったしな」


 老人は少し悲しそうな、だが優しい目で眠っている孫娘の頭をそっと撫でる。

 そこにある愛情は隠せない。車内は温かい雰囲気に包まれた。


 「んにゃ!」


 だが、そんな中ネム助が声を上げる。

 どうしたのかと皆が目を向けると、外から声がした。


 「先代様!もうすぐ宿場にする街に到着いたします!」


 どうやら街が近いらしい。

 ネム助はこの事を感じ取ったのだろうか。だが、それに気付いた者はいなかった。

 青年は凄いなぁとなでなでしているが。


 「んん~、今何か言ったぁ~?」


 小さな女の子は漸くお目覚めの様だ。

 目を擦る仕草にはまだ幼さが感じられる。


 「マリー、もうすぐ街に着く様だ」


 「ホント!?」


 老人の言葉が余程嬉しかったのか少女の目が見開かれる。

 完全に意識が覚醒した様だ。


 

 それから街に到着し検問となる筈だったが、アーデウス一行はなんと顔パスで通過してしまったのである。

 身元が定かではない青年からすればとても有り難いことだったが、警備としてこれで良いのだろうかと心配になったり、この老人の予想以上の影響力に少しビビったりと落ち着かなかったのは確かである。



 そしてその日はアーデウスが取った宿で青年は一泊した。

 勿論就寝時は1人と2匹揃って仲良く寝ましたとさ。

 因みに寝る直前までマレリーンがネム助、軍鶏助とお近づきになろうと奮闘していたのだが、その努力は実を結ばなかったようである。

  



 ◇◇◇



 「先代様、やはりあの男とは別れるべきではないでしょうか?」


 老人の護衛は正体不明の男を警戒していた。

 だが、現代の世界より命が簡単に失われるこの世界では至極当然の考え方だった。

 

 「ふむ、何故そう思う?」


 この場には護衛と老人しかいない。

 老人やその孫の事を思っての意見であるのは承知している、更にこの場に青年はいない。だから、ここで叱ったりはせず、目の前の兵士の意見を聞いてみることにする。


 「はい。あの男、田舎から出て来たと言うのに変わった格好をしていました。しかも体の隅々まで見ましたが旅の汚れと言った物はほとんど見当たりませんでした。あのような嘘と分かり切った事を宣う輩は近くに置くべきではないかと」


 そう、青年の服は洗濯機のおかげでこれといった汚れもなかった。更に上は白シャツ、下はスーツと言った格好が余計に青年の異質さを示していた。

 これは青年のミスと言えるだろう。

 カンリは人と出くわした時点でこの問題に気付いたがあえて青年には何も言わなかった。

 何も知らない方が青年が自然に振る舞えると考えたからである。

 その判断は正しく、青年はこの1日比較的真面に対応出来ていた。


 「まぁ、何かあるのは確かであろうな。だが、お前はあの者の話に嘘を感じたか?私は感じなかったぞ。それに何よりマリーが気を許しとる。ならばどうと言う事はない」


 マレリーンは本来人見知りが激しい子である。

 それは彼女の生い立ちに理由があるのだが、そんな彼女があの青年─いや彼の従える獣にぞっこんである。老人自身彼女のあそこまで活き活きとした顔は久々に見る。

 だからこそ、その素となった青年達は傍に置いておきたかった。

 兵士もそれが分かっているので二の句が継げないでいる。


 「何、心配はしておらんさ。あの者がもし刺客だったとしてもお主らがおる。それに」


 途中で「いや」と老人は頭を振って軽く笑う。

 そこに確かな信頼を感じ兵士は気を付けの姿勢を取り返礼する。

 主の言い掛けた言葉も気に掛からなかった訳でもないが兵士は今はそれを頭の隅に追いやることにする。

 

 「はっ、お任せ下さい!」


  

 当然裏でこの様な会話が行われているとは青年は知らない。

 だが、


 「・・・一先ずは大丈夫そうですね」


 黒須家長女は聞き耳を立てていた。

 働き過ぎな気もするが、彼女も青年の為に一生懸命なのである。


 こうして盗賊撃退から始まった1日が終わった。

 

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