Episode 13 制作発表会、そして初放送
初放送を二日後に控えた日。
ドラマ『初雪と括弧』の制作発表会が開かれることになった。
ドラマの第一印象を決める場であり、
初回視聴率さえ左右しかねない大切な場だった。
ジウも原作者として招待され、
関係者席のいちばん端、
なるべく目立たない場所に座った。
キャップを深くかぶり、
マスクまでつけた。
できることなら、
誰の視線にも留まりたくなかった。
会場はすでに、
カメラと記者たちで埋め尽くされていた。
シャッター音が途切れることなく鳴り続けている。
これほど多くの視線にさらされるのだと思うだけで、
ジウの心臓は激しく打ち始めた。
しばらくして。
主演俳優たちがステージへ上がってきた。
まず、ソ・ヨヌ。
その両脇を、
ハン・ソジュンとキム・ソヌが歩いてきた。
同じ黒いスーツ姿なのに、
まとっている雰囲気はまるで違っていた。
キム・ソヌは柔らかく、端正で。
ハン・ソジュンは、
姿を現した瞬間から、
その場にいるすべての視線を引き寄せた。
ジウは思わず息を止めた。
まるで世界中の照明が、
彼一人にだけ降り注いでいるようだった。
質疑応答が始まった。
監督は落ち着いた口調で言った。
「最近は、刺激の強い恋愛ものが多いですよね。」
「私は、長く心に残る恋を描きたかったんです。」
「『初雪と括弧』を読んだとき、
この物語なら、それができると思いました。」
キム・ソヌの番になると、
彼は笑いながら答えた。
「出番は多くないんですけど、
どうしても演じてみたかった役でした。」
少し笑ってから、付け加える。
「実は……僕も原作の長年のファンだったんです。」
客席のあちこちから、
小さな笑いがこぼれた。
やがて、
マイクがハン・ソジュンへ渡った。
「今回の役は好き嫌いが分かれやすいキャラクターですが、
それでも自らオーディションを受けた理由を教えてください。」
ソジュンは一度静かに息を整え、
客席をゆっくりと見渡した。
そして。
その視線が、
ある一点で止まった。
深くかぶった帽子。
マスクで隠れた顔。
けれど、
彼には一目でわかった。
イ・ジウ。
ソジュンは視線を逸らさないまま、
静かに口を開いた。
「ソヌ兄さんと同じように、
私もずっと前から、この小説のファンでした。」
「初恋を、
こんなにも静かに描くことができるんだと、
あのとき初めて知ったんです。」
「だから、この男を。」
「どうしても理解してみたかった。」
短い沈黙。
「私にとっても……」
「『初雪と括弧』は、
初恋のような作品です。」
何百ものフラッシュが、
絶え間なく瞬いていた。
それなのに。
その瞬間だけは、
すべてが遠のいたように感じた。
ステージの上のハン・ソジュン。
客席の端にいるイ・ジウ。
二人は何も言わないまま、
ただ互いを見つめていた。
ほんの数秒。
けれどジウには、
やけに長く心に残る時間だった。
制作発表会を終えてから、
二日が過ぎた。
ついに、
初放送の日。
ジウは緊張するときの癖のように、
髪をひとつに束ね、
眼鏡をかけたまま、
従妹のスジンと並んでソファに座っていた。
「始まるよ。」
スジンの言葉と同時に、
画面が切り替わった。
晩秋のキャンパス。
そして、
教壇に立つ一人の男。
チョン・ウジン。
いや。
ハン・ソジュンだった。
出席を取っていた彼の指先が、
ある名前のところで、
ほんのわずかに止まった。
「……イ・ジウ。」
その瞳が、
ごく小さく揺れた。
画面は続いて、
教室の片隅にいるソ・ヨヌを映した。
二人の視線が交わる。
言葉はなかった。
けれど。
その短い沈黙が、
多くのことを代わりに語っていた。
ジウは何も言わず、
画面を見つめていた。
撮影現場で、
何度となく見てきた場面だった。
台本でも、
何度も読んだ。
なのに。
完成した映像の中で見るその瞬間は、
不思議なくらい見慣れないものに感じられた。
よく知っている物語が、
まったく別の顔をしていた。
五十分が、
あっという間に過ぎた。
エンドクレジットが流れ始めるや否や、
スジンがスマートフォンを見ながら声を上げた。
「お姉ちゃん。」
「なに?」
「これ見て。」
スジンがスマートフォンの画面を、
ジウのほうへ差し出した。
リアルタイム検索ワードには、
『初雪と括弧』、
ハン・ソジュン、
チョン・ウジンが、
並んで上がっていた。
「うわ。反応、ほんとにいいよ。」
スジンは興奮した様子で、
画面を次々とスクロールしていく。
「ハン・ソジュンの演技の話、すごく多い。」
「チョン・ウジンが、
本当に本の中から出てきたみたいだって。」
ジウは小さく笑った。
「よかった。」
そこでようやく、
少しだけ緊張がほどけた気がした。
ジウはソファの背もたれに、
ゆっくりと身体を預けた。
そのときだった。
テーブルの上に置いていたスマートフォンが鳴った。
画面に表示された名前を確認したジウは、
もう一度身体を起こした。
出版社だった。
「はい、もしもし。」
――先生。初放送、ご覧になりましたよね?
受話器の向こうから、
弾んだ声が聞こえてきた。
「はい。今、ちょうど終わったところです。」
――今、反応が本当にいいんです。
――書店からも問い合わせがどんどん入ってきていて。
「え……そうなんですか?」
――はい。それで、
さっきから社内でも話していたんですけど。
担当者は少し間を置いてから言った。
――先生、もしよかったら、
読者サイン会を一度やってみませんか?
「サイン会ですか?」
ジウは思わず姿勢を正した。
――はい。ドラマ放送記念で。
――原作もまた注目されていますし、
今がいちばんいいタイミングだと思うんです。
ジウはすぐには答えられなかった。
人前に出ることは、
今でも負担だった。
知らない人たちと向かい合って座り、
自分の名前を書き、
自分の物語について言葉を交わさなければならないことも。
けれど。
長いあいだ、
自分の物語を読んでくれた人たちに、
直接会える場所なのだとしたら。
一度くらいは、
悪くないのかもしれないと思った。
「……考えてみます。」
――はい、先生。
――ぜひ前向きに考えてみてください。
電話が切れた。
「なんだって?」
スジンが興味津々の顔で尋ねた。
ジウはまだスマートフォンを手にしたまま答えた。
「サイン会、やらないかって。」
「ほんと?」
スジンの目が大きくなった。
「お姉ちゃん、これから本当に有名作家になるんじゃない?」
「そこまでじゃないって。」
ジウは笑いながら、
スマートフォンを置いた。
そしてもう一度。
真っ暗になったテレビ画面を見つめた。
ほんの少し前まで、
その中では、
自分がずっと昔に書き残した物語が流れていた。
そして今度は。
その物語を読んでくれた人たちと、
直接会うことになるのかもしれなかった。
そのときのジウは、
まだ知らなかった。
その場所で出会う相手が。
読者だけではないということを。




