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12/20

Episode 12 読み返される文章


あの日から。

不思議なことに、変わったのはソジュンではなく、ジウのほうだった。

ソジュンは、相変わらず何も変わらなかった。

撮影現場で顔を合わせれば、先に笑って挨拶をしてきたし、

ジウが好きなコーヒーを見つければ、何でもないことのようにもう一つ買ってきた。

撮影に入る前には台本を読み、

撮影が終われば、いつものようにいたずらっぽい顔で近づいてきて話しかけた。

告白したからといって、返事を急かすこともなかった。

それ以上、距離を縮めようとすることもなかった。

なのにジウはもう、

そのすべてを以前と同じようには受け取れなくなっていた。

「先生。」

遠くから自分を呼ぶ声にも。

「コーヒー、飲みませんか?」

何気なく差し出される一杯のコーヒーにも。

撮影を終えたあと、

人混みの中から自分を見つけて、ぱっと笑うその顔にも。

どうしても、一つの言葉がついて回った。

――この人は、私のことが好きなんだ。

ジウは何となく視線を逸らした。

今まで気づかなかったものが、

一つずつ見え始めていた。

いや。

もしかしたら、見えていなかったんじゃなくて。

見ないようにしていただけなのかもしれない。

そうして、数日が過ぎた。

ドラマ『初雪と括弧』の最初のティザー映像が公開された。

公開から、わずか三時間。

再生回数は百万回を突破した。

ドラマの公式アカウントはもちろん、

さまざまなコミュニティやSNSでも、映像は瞬く間に広がっていった。

『トップスター、ハン・ソジュン――チョン・ウジンという役を纏う』

『ハン・ソジュン、新たな代表作を予感させる演技』

『原作ファンも驚く、圧倒的なシンクロ率』

次々と記事が上がった。

コメントも、途切れることなく増え続けていた。

『ビジュが仕事しすぎ。』

『チョン・ウジンそのものじゃん?』

『一瞬しか出てないのに演技力えぐい。』

『さすがハン・ソジュン。』

『相手役とのケミ、やばくない?』

『キャスティング、ハマりすぎ。』

『ソ・ヨヌ、美しすぎる。』

『女子大生役、めちゃくちゃ似合ってる。』

『原作超えてきそう。』

何千ものコメントが、

リアルタイムで書き込まれていた。

ジウはしばらく、

スマートフォンの画面だけを見つめていた。

ドラマがうまくいくのは、

もちろん喜ばしいことだった。

本来なら、嬉しいはずだった。

これほど多くの人が、

自分の物語を待ってくれているということなのだから。

なのに。

なぜか、心が重かった。

画面の中には、

ハン・ソジュンとソ・ヨヌがいた。

いや。

チョン・ウジンと、

あの頃のイ・ジウがいた。

ティザーの中でソジュンは、

自分の記憶に残るチョン・ウジンの眼差しで、ヨヌを見つめていた。

けれど今のジウは、知っていた。

カメラの外で、

ハン・ソジュンが誰を見つめているのか。

――私、先生のことが好きです。

――すごく、好きです。

数日前に聞いた声が、

ふいに耳の奥によみがえった。

ジウはスマートフォンを置いた。

けれど。

心を重くしているのは、

それだけではなかった。

ドラマが成功すればするほど、

人々は原作を探すようになるだろう。

そして、原作を読み始めれば。

その中に込めた感情まで、

もう一度、掘り起こされていく。

……ドラマ化なんて、許可しないほうがよかったのかな。

ただ本の中だけに、

残しておけばよかったのかな。

ジウはゆっくりと目を閉じた。

そのときだった。

ピコン。

スマートフォンが短く鳴った。

ハン・ソジュンだった。

先生。ティザー、見ましたか?

ジウは少し迷ってから、返信した。

はい。

すぐに返事が届いた。

どうでした?

ジウはしばらく画面を見つめたまま、

ゆっくりと返信を打った。

よかったです。

少し迷ったあと、

もう一行だけ付け加えた。

少し、怖くもあります。

送信ボタンを押した瞬間、

後悔が押し寄せた。

余計なこと、言ったかな。

けれど、

ソジュンからの返事は思っていたより早かった。

大丈夫です。

そしてすぐに、

二通目のメッセージが届いた。

先生の過去が、最後まで美しいまま残るように。

私が守ります。

ジウはしばらく、

その言葉を見つめていた。

不思議だった。

不安が消えたわけではない。

それなのに。

息が詰まりそうだった苦しさは、

ほんの少しだけ薄れていた。

まるで誰かが、

何も言わず静かにそばに立ってくれているようだった。

ジウは無意識に、

小さく微笑んだ。

そして、その瞬間。

画面の上部に、

新しい通知が一つ浮かび上がった。

『初雪と括弧、一気読み完了』

ジウは思わず、

その投稿をタップした。

最初の一文が目に入った。

「それで、結局――作者は誰を愛していたんだろう。」

ジウの指が止まった。

その下には、

コメントが途切れることなく続いていた。

『私はチョン・ウジン派。』

『いや、教授のほうが本当の愛でしょ。』

『チョン・ウジンは初恋で、教授は一生の愛って感じ。』

『読み返すほど、教授のほうが切なくなる。』

『チョン・ウジンはタイミングを逃しただけで、何も悪くないじゃん。』

『それで結局、作者はどっちをより愛してたの?』

ジウはゆっくりとスマートフォンを置いた。

理由もなく、

心臓がどくんと大きく鳴った。

世界はもう。

自分がずっと昔に終わらせたと思っていた物語を、

もう一度、読み始めていた。

そして、数日後。

ネットはさらに熱を帯びていた。

まだ第一話さえ放送されていない。

それなのに、

人々はすでに二つに分かれていた。

チョン・ウジン派。

そして、

教授派。

『絶対チョン・ウジンエンドでしょ』

『英文学科の教授こそ本当の愛じゃない?』

『チョン・ウジンはタイミングが悪かっただけで、何も悪くない』

『英文学科の教授は最後までジウの幸せだけを願ってたじゃん』

『ドラマではせめてくっつけて』

『原作のラスト、嫌だった』

『小説と同じ終わり方なら離脱する』

『作者さんお願い、英文学科の教授を救ってください』

『どうせチョン・ウジンは結婚しちゃったから無理。だったら当然、独身の足長おじさん教授でしょ』

コメントは、どこまでも続いていた。

数千。

数万。

そして今この瞬間も、

増え続けていた。

初めて『初雪と括弧』を連載したときにも、

こんな論争はあった。

チョン・ウジン派。

教授派。

どちらをより愛していたのか。

どちらがより切ないのか。

けれど、

あの頃と今とでは違った。

原作は、静かな湖だった。

ドラマは、海だった。

小さな波紋だけで終わっていた物語が、

今ではもう、

ジウには抱えきれないほど遠くまで広がっていた。

人々は、

彼女が書いた一つ一つの文章を、

もう一度取り出すように読み返していた。

そして、

その中に愛の痕跡を探した。

どちらをより愛していたのか。

なぜ引き止めなかったのか。

なぜ最後まで、

誰も選ばなかったのか。

ジウは無数の文章をゆっくりと追っていた指を、

ふと止めた。

――それで、作者は誰を愛していたんだろう。

また、

同じ問いだった。

ジウはしばらく、

その一文を見つめていた。

ずっと昔は、

その問いに答えられなかった。

いや。

答えたくなかったのかもしれない。

一人は、

初雪のように舞い降りて、

自分の心臓を壊してしまった人だった。

そして、もう一人は。

長い冬を、

耐え抜かせてくれた人だった。

二人はあまりにも違う形で、

自分の青春の中に残っていた。

だから、

あえて一つの名前を選びたくはなかった。

けれど、ふと。

ジウの頭の中に、

まったく別の顔が浮かんだ。

笑いながら、

コーヒーを差し出してくれた顔。

山の中で、

初めて自分の名前を必死に呼んでくれた声。

怪我をしたと知って、

薬を種類ごとに買ってきてくれた人。

そして、数日前。

自分の中にあるすべての部屋が知りたいと、

そう言った人。

――私、先生のことが好きです。

――すごく、好きです。

ジウはその瞬間、

スマートフォンの画面を消した。

「……どうして。」

誰もいない部屋の中で、

小さく呟いた。

「どうして今、俳優さんのことが浮かぶんだろう。」

答えてくれる人はいなかった。

けれど、

心臓だけは。

もう自分より先に、

何かを知っているかのように、

脈打っていた。

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