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アンモナイトという目的

 息苦しさと暑苦しさでエースケは目を覚ました。

 何かが体の上に乗っている。

 

「暑いし重いし、誰だ俺の上に乗ってんのは」


 部屋は真っ暗でなにも見えない。せいぜい人影が見えるくらいだ。

 部屋にはベッドが三つ置かれていて、エースケは真ん中のベッドで寝ていた。

 右のベッドにはアルーゼが寝ていて左にはツァル子が寝ているはずなんだが……左のベッドに誰もいなーい!

 乗ってんのはツァル子か!


「寝相が悪いなんて言葉じゃ足りないな」


 目線を下に向けるとエースケの胸のあたりにツァル子の頭がある。

 脱出したいが、これで目を覚ましたらお決まりパターンで殴られるだろう。

 いや、待てよ。今起こせば上で寝ている事に気がついて、


「私! そんなつもりは無かったの! お願い、私の寝相の悪さ誰にも言わないで! なんでもするから許して!」


 的な事になる可能性は決して! 決してゼロではない!

 せっかく仲間なんだしスキンシップは大切だよな!


「ツァル子さーん、起きてくださぁい、起きないとイタズラしちゃいますよぉ、いいんですかぁ」


 腕が抜けないため、声で起こしてみる。しかし残念。起きる気配なし。

 今度は上下に体を揺らしてみる。


「んー、なぁにぃ」


 ツァル子がモゾモゾし始めた。


「あっ! ツァル子さん! 動かないで! いやっ! そこは!」

 

「……んっ、あれ、わたし……エースケ!?」


「やっと起きたか! ここは俺のベッ」


「なんで私のベッドで寝てるのよ!!」


「グベシャァ!」


 無慈悲な顔面へのストレートが、エースケを再び眠りへと落とした。



 ********************



「エースケ様? そのお怪我はどうされたのですか?」


「ベロニカさん助けてください! パーティーメンバーが最悪なんです! 男勝りなヤンキー女と理不尽な暴力女なんです! どーか! どーか俺に優しい慰めを!」


「誰が男勝りなヤンキーだ!」

「誰が理不尽な暴力女よ!」


 息ピッタリの飛び蹴りでエースケは受付カウンターに突き刺さった。


「エ、エースケ様、先程さがわ……ファガナ様が討伐レポート完成のためご帰還するとの連絡が入りましたよ」


 飛び起きてベロニカさんに聞き返す。


「帰ってくるんですか!」


「おいエースケ、そのファガナってのは誰だ?」


「あぁ、俺と同じ転移者だよ。説明すると長くなるんだが、まぁ、かくかくしかじかってやつだ」


「元いた世界の町にジャングルが現れただぁ?」


「ゲートがなくて帰る方法が無いから困ってる?」


 かくかくしかじかって便利だよな。

 これから説明面倒になったらこれ使えばいっか。


「というか二人とも俺が転移者って知っても特にノーリアクションだったのはなんでかね?」


「珍しいっちゃ珍しいけど、そんな驚くもんでもねぇだろ」


 だいたいの作品の転移者とか転生者ってみんなに気づかれないんじゃないの?

 この世界、なんか転移が当たり前みたいな感じなんですけど。


「普通に珍しいわよ。もうちょっと昔は転移者って結構いたらしいけど、今はほとんど聞かないし。実際に転移者見るの初めてだし」


 アンモナイトの化石を持っていた人が全員行方不明になってるって言ってたのは、みんな恐竜界に転移しているからだったのか。

 帰ったらおじさんぶっとばそう。よし決めた。おじさんぶっとばすために帰る方法を見つけよう。


 ゴォーン ゴォーン ゴォーン。


 鐘の音が街に響いた。それに鐘の音を聞くなり、集会場にいた人たちが次々と外へ出て行ってしまった。


「ファガナ様が帰還なされたようですね」

 

 外に出ると、集会場から南門までの直線の道に街の人たちが集まり、まるで英雄が帰ってきたかのように歓声を上げていた。


「いやいやいや! 俺よりたった一週間早く転移してきたんですよね!? なんでこんな人気者なんすか!」

 

「ファガナ様は転移してすぐに高難易度討伐レポートを五つ同時にクリアするという偉業を成し遂げた方でございます。ですから期待の新人転移者として街の皆様に慕われております」

 

 十人以上の女性を引き連れ、二足歩行の中型肉食恐竜に乗ったその男とついに対面した。


「おかえりなさいませファガナ様。この度の討伐レポートクリアおめでとうございます」


 ファガナは恐竜から降りると、いきなりベロニカさんに跪き手の甲にキスをした。


「親愛なるベロニカ様、今日も実にお美しい」


「なっ、なっ! なっっにしてんだテメェェ!!」


 ファガナは立ち上がるとエースケのことなんてフル無視で、取り出した手鏡に自分の顔を写した。


「しかしっ! しかしだっ! こんのっファガナも美しいッ! みなすまない! ファガナの美しさのせいで、みなの輝きが霞んでしまう!!」


 後ろの女性たちがキャーキャーと「ファガナ様!」とか「こっち見てぇ!」とか言っとるが、なんだコイツは。いやまじでなんだコイツ。ベロニカさんの手にキスしたかと思ったら、今度は急に自分が美しいとか言い始めたぞ。

 赤みがかった艶のある髪を、たいして長くもないのにクシで整えているのが非常に腹が立つ。


「やぁ諸君! ファガナはファガナ! 『サウロファガナクス』の力を持つ転移者である! ん? あぁそうか! 君が館長の甥っ子さんだね? どことなく似ているようで似てないような! 館長を思わせるような雰囲気を出しているような! 出していないような!」


 ????

 疑問が止まらん。アルーゼとツァル子もキョトンとしている。まずファガナはファガナってなに。


「あ、あー、えーっと、あのー」


「どうした! ファガナの美しさに声が詰まってしまったか! だがしかし! それは仕方ないことだ!

 ゆっくりでいい、ゆっくりとファガナの美しさに目を慣らすんだ」


「なんだこのナルシスト! うざいぞ! 目が慣れる以前にキャラに慣れるのに時間かかるわ! アルーゼとツァル子が意味分かんなさすぎて棒立ちだよ!」


「それともこの世界最強である英雄の剣ゴッド・ソードに驚いたかな!」


「英雄なのか神なのかどっちなんだよ。こいつ……ナルシストだけでなく厨二病まで拗らせてやがる!

 ゴッド・ソード? ただの鉄の剣じゃねぇか」


「エ、エースケ、コイツは仲間にしたくないランキングぶっちぎりの一位だ。気持ち悪い!」


「こんな人がエースケの世界にはいるのね。なんて恐ろしい世界なの」


 初対面でここまで女子を引かせるとは、こいつはあれだな、本当にヤバいやつだ。


「……えーと、あなたがおじさんの博物館でバイトしてた佐川さん?」

 

「佐川ではない! ファガナはファガナだ! この世界の人々は能力である生物の名前を冠していることがほとんどだ! ならば! 我も佐川なんて名前は捨てて! ファガナという名を名乗るのが礼儀であろう!」


 するとアルーゼがピコンッとなにか閃いた顔をして、佐川、もといファガナを指差した。


「エースケ分かったぞ! ファガナはファガナって多分、我が名はファガナって意味だぞ!」


 『我が名はファガナ』が、『ファガナはファガナ』?

 我が名をファガナに変えてる?


 「……ダサッ!!」


 エースケとツァル子は息ぴったりだった。


「いやいやダサ過ぎだろ! アルーゼ、もしそれが正解だったら名探偵になれるぞ」


「ゴールドヘアーの少女よ……正解だ!」


 投げキッスをされたアルーゼはドン引き超えてゴン引きのあまり、サラサラと砂になって砕け散ってしまった。

 それを見てゴン引きしていたツァル子にはファガナからの熱いウィンクが送られ、アルーゼに続いて砂となって風に飛ばされていった。


「アルーゼェェ!! ツァル子ぉぉ!! なぁにが期待の新人!? 激イタの珍人じゃねぇか!!! なんで街の人たちは平然としてんだよ!」


 ファガナは赤みがかった髪をさらぁっとなびかせた。

 

「……ファ、ファガナは本当に転移者だよな? おじさんと知り合いなんだよな? 恐竜界から戻る方法とかおじさんに言われてないのか?」


「知り合いというかファガナはバイトだ! ファガナは雇い主である館長に、ジュラ紀にもし着いたら戻ってくる方法を考えて戻ってこいと言われた!」


「やっぱあのおっさん丸投げじゃねぇか!! 計画性ゼロ!! ファガナのせいでさらに腹が立つ!」


「だが! おかしいとは思わないか! もし本当にジュラ紀に繋がっていたら本当に危険だっ! しかし館長は説明が雑だった! これはファガナの予想だが! 館長はジュラ紀ではなく! この恐竜界に繋がっていると知っていたのではないか!」


「おじさんが恐竜界の存在を知っていた? つーか、いちいち決めポーズしながら話すのやめて欲しいんだけど」


「元々、館長は恐竜界が人間界を侵食してしまう原因を突き止めようとしていた! 君も見ただろう? 町にジャングルが現れる光景を! ファガナは今、元の世界に帰るための『アンモナイトゲート』を探しているが未だ結果は出せていない!」


 確かにジャングルは突然現れたけど、おじさんは解決方法がどうとかは言っていなかった。なんなら説明の途中で転移してしまった。


「人間界に帰るためのゲートが行方不明になっていることは知っているだろう? あれが……すまない、少し待たれよ」


 ファガナが話を止めると、屈強な男がファガナへと近づいてきた。明らかに悪そうなハゲの登場に集まっていた女の人たちも、そそくさと離れていってしまった。


「帰ってきたか期待の新人さんよぉ」


 期待の新人ってのは何かと目をつけられがちなのだろうが、コイツに限っては単純に鼻につく発言が多いからだろう。このハゲみたいな悪人が近寄ってくるのは納得できる。

 だがこの状況でファガナが笑っていたのが気がかりだった。


「みなを怖がらせるような真似はやめたまえよ。ほら、君の欲しい物はコレだろう? 事を荒げたくないんでね、さっさと退散したまえ」


 ファガナが麻袋をハゲに投げ渡すと、男は「まいどあり〜」と不敵な笑みをこぼしながら去っていった。一触即発の空気をファガナが一気にかき消してしまったのだが、ハゲが簡単に立ち去っていったことになんとなく違和感を感じた。


「さぁ! 危機は去った! 話の続きを!」


「お、おい、なに渡したんだよ」


「あれかい? 金銭だが?」


 この男、一応は武器を持っていて勝てる可能性が大きいのに、闘いよりも早急な金銭的解決を優先した。

 案外、合理的なのか。平和的解決を選ぶ点では英雄と言えなくもない。


「いやぁ! ゴッド・ソードを買う時に借金をしてしまったのだよ! これでやっと完済! 危機は去ったというわけだ!!」


「ゴッド・ソード既製品かよ!」


「まぁそれはそれとしてだ! 君にはゲート発見を手伝ってもらいたい! といっても、行方不明の原因すら分かっていない始末! 状況は実に絶望的だ!」


「話を聞く限り、元の世界に戻るのは遠い未来になりそうだな……」


「挫けてはいけないっ! 心が折れそうな時こそ! そうっ! このファガナの美しさを堪能したまえ!

 そーだまだ名を聞いていなかったな!」


「永介だ」


「エースケ! 良き名だ!」


 どいつもこいつも名前を正確に覚える気がないのはさておき、恐竜界に転移して四日目、遂に帰るための明確な目標ができた。

 行方不明になった人間界に戻るためのアンモナイトゲートを見つける。


「あ、そうだ。砂になったアルーゼとツァル子集めないとじゃん。おいファガナ、お前も手伝え」


「このファガナ! 街中の砂を集めてこようぞ!」


「サンドゴーレムでも作る気か!」

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