ケラト・ファレーナという探検隊
「おい、ちょっと待て、全く話が見えないぞ」
大男は右手に収まっている水晶球から放たれる声に呆れた口調で答えた。
「だーかーらー俺の"ダチ"が行方不明になったから探しといてってこと」
「なんだその大雑把な情報は!!」
「じゃそゆことで〜」
「なっ!おい待て!意味が分からな……切りやがった…」
軽い口調の男は伝達の水晶をガチャ切りし、その相変わらずの適当さに相手の大男はため息をついた。
「おいエオ、なにを大きな声を出している。というか相手は誰だ。まさか女じゃないだろうな」
振り向いた灰色髪の女性は暗い目で"探検家エオ"を睨んだ。
「待て待て、短剣から手を離せ…。あのアホ声が聞こえてただろ、スーからだよ」
「そうか、スー坊か。ならいい」
冷たい殺意が目から消え、エオは再びため息をついた。
「どうした」
「最近忙しいのにスーのアホのせいで疲れがぶり返した…。はぁ、これが実は緊急事態案件で、俺が責任負わされるのだけは勘弁だぞ」
「お前はいつもスー坊に振り回されているな。かわいそうだ」
「なら荷物少し持ってくれよ。なんで俺だけこんな大荷物持たされてんだ、一応隊長だぞ」
探索用の装備に加えて、エオは隊の中で最も大荷物を背負っている。
ここはメテオストル島北東地点。エオ率いる探検隊は中心部調査のために深い森を南下している最中だった。
「私は非力でエオは力持ちだ。体力もある。だから荷物持ちは当然の役割だ」
最低限の装備のみでバックパックすら背負っていない(エオが持っている)女性は淡々と説明しているが、エオは全く納得していない。
後ろを歩く隊員たちと分け合えば均等になるのに、明らかに押し付けられている。
「隊長への愛はないのか?それに、誰が非力だって?」
エオは気づいている。隊員たちは自分が振り向くタイミングに合わせて疲れたふりをしていることを。
「ん?ならば私の名前を呼んでみろ」
「ダイア」
「…ほら、非力そうな名前じゃないか」
「意味が分からん!」
肩ほどまで伸びた灰色髪と灰色の瞳、細身の長身にランプや短剣、軽食、応急キットを身につけた副隊長ダイアは「?」と首を傾げた。
「まさかお前は、私のような乙女をがさつで男っぽい、さらには魅力のない女と言いたいのか」
「なぜそうなる…」
「つまり男っぽい私は嫌い、ということか」
「話が飛んでないか…」
先頭を歩くダイアがおもむろに立ち止まった。なにか言ってほしそうな甘えた表情で両腕を上げると、エオは軽々とダイアを抱えた。
装備と共有品の大荷物にダイアが加わったところでなにも支障はない。ただ、ダイアの質問に誠意を持って答えないと本人には絶対に言えないが正直一番支障になる。
「俺は男っぽいとか男らしいとか女っぽいとか女らしいとか関係なくダイアを愛しているよ」
「そうか。嬉しい」
「それだけか?」
「うむ……さっきお前は愛がないのかと言ったがな」
お姫様抱っこされているダイアはエオの頬にキスした。
「エオ、私はお前を愛している」
「俺もだよ」
キャッキャしているダイアとそれを優しさで包み込んでいるエオ。隊長と副隊長がそんな関係だと、隊員たちは「まぁた始まった」と呆れた視線を送っている。
「おい隊長、こんなとこでイチャつくなよなぁ」
「ひゅーひゅー」
調査隊第一班はエオとダイア含め九名。エオが選出したエリートメンバーは長い付き合いの中で二人のイチャイチャを散々見てきている。
「はわわわぁ」
そんな中でたった一人、エオとダイアの関係に頬を染める少女がいた。
「え?フクちゃんなんで恥ずかしがってんの…」
「だ、だって!キキキスしてるんですよ!あんな堂々と人前でキスしてるんですよ!恥ずかしいにきまってるじゃないですか!」
短く切り揃えられた茶髪と幼い顔だちが可愛らしい少女は大人のキスにあたふたしている。
「まだ慣れてなかったの!?フクちゃん入って結構経ったよね?」
「まだ一年ですよ!それにこれからもずっと慣れません!」
フクちゃんこと新人隊員のフクはダイアが彼女の能力をかったことで一年前に入隊した。文字通り探検家の卵で現在絶賛勉強中なのだが、慣れてきたことも増える中、たった一つ慣れないことがある。
「ねぇもう一回して」
「…ん」
「またしてるー!」
これが一年間、一日も欠かさずイチャイチャしているのだから凄まじい。
「フク、大きい声出して、どうかしたの」
「ダイアさん!ちょっとは場所をわきまえてですね!」
隊員でそんな注意をする人物は一人もいない。慣れたし、止める理由がないしでみんな気にしていないのだが、フクは度々ダイアやエオに注意している。
航海中に嵐が直撃した時も、砂漠のど真ん中で水と食料が尽きた時も、地下洞窟が崩落して閉じ込められた時も、感染病で隊員のほとんどが死にかけている時も、二人はずっっっとイチャイチャハッスルハッスルしているのだ。
「もっと集中してください!ここは一応メテオストル島なんですよ!未知の世界なんですよ!」
エオたちが歩いている森は既に大方の調査が完了している。問題はこの先、なにがあるか全く把握されていない未知が待っているのだ。
どこに危険が潜んでいるか分からない死と隣り合わせの場所で、しかも目の前でイチャイチャされたら怒りたくなるのも無理はない。
ダイアはエオから軽やかに降りるとフクの前についた。
「…妬いてるの」
「違いますよ!」
「エオはあげない」
「いりません!」
ダイアは腰に下げた小さな鉄箱から葉巻を抜いた。鉄箱に付いた刃で頭を切り落とし、咥えて、マッチを取り出し火をつけた。
「あんまりひどいと葉巻、没収ですからね!」
「いじわる」
嗅ぎ慣れた紫煙が広がり、ダイアと目が合う。
なんて綺麗な女性だろう。フクはダイアの美貌に息を呑んだ。
「(はっ!だめだめ!)」
「ふふっ、顔赤くして、かわいいね」
「からかわないでください!今日から見惚れさせるの禁止ですから!」
フクが注意し、ダイアが愛を自慢し、葉巻を吸って、フクが見惚れてまでがお決まりになっていることをフクは気づいていない。
「……停止だ」
美しさに見惚れてエオの言葉に反応が遅れた。額にダイアの指先が当たり、はっと足を止めると先頭を歩いていたエオが左腕を水平に停止合図を出していた。
「全員、フクの言う通りここからは未知の領域だ。一段と気を引き締めて行くぞ。カリウム、第二班との合流地点までどのくらいだ」
森の終わりは近い。別ルートから森を進んでいる第二班もそろそろ抜ける頃だろう。
「十分も歩かずに合流できるかな。向こうのほうがルート的には早く到着してるはずだし、今頃待ってんじゃね?」
フクの一つ後ろ、フクの恥ずかしがる姿に驚いていた男、カリウムが地図と羅針盤を見ながらそう言った。
「待たせてんのはまずいな。ロニテリスが不機嫌になるぞ」
「俺のせいにしないでよ?」
「ロニテリスが不機嫌だったら責任じゃんけんな」
「えぇ…隊長と副隊長が先頭歩いてたじゃん」
「ロニテリスに怒られるのは嫌だ!お前ら急ぐぞ!」
「怒られるのは嫌って…。ちょ、そんな走んなくても!今さっき気引き締めろって言ってなかった!?」
カリウムの声を振り切るようにエオが足速に森の終わりへと走り出す。そしてそれに続く六人。
しかしフクはその後に続かなかった。
「ダイアさん?行かないんですか?」
「走りたくない」
「ぇぇ…」
ダイアの気まぐれにフクは度々付き合っている。チームであることは確かだが、エオもダイアへの信頼から無理に引っ張ることもしない。
ゆえにエオたちはぐんぐん進んでいき、あっという間にフクとダイアは二人きりになった。
「ありがとうフク。一緒にいてくれるの、嬉しい」
「それは…!その、ダイアさんを、一人にさせるわけには…いきませから」
無論ここはメテオストル島未知の領域のため置き去りは殺人に等しい。
フクが残った理由はその危険性もあるが、
「フクは優しいな」
葉巻を咥えた端正な顔立ちに微笑まれながら頭を撫でられる。
このために生きていると言ってもいい幸せを味わうためにフクはダイアの側にいたのだ。
表情も、声も、仕草も、葉巻の香りも、彼女の全てが憧れで、そしてどんなに手を伸ばしても届かない。そんな満たされる幸せとほんの少しの悔しさにフクは少し俯いた。
「フク?」
「はっ!また私は!」
今まで何度ダイアによって我を忘れたことか。だが今は忘れるわけにはいかない。
いくら走りたくないとはいえ早く合流しなくてはロニテリスに怒られてしまう。
エオ率いる探検隊『ケラト・ファレーナ』の頭脳ロニテリスはフク集計怒ると怖いランキング第二位の男性で、怒られたくないフクはしれっとダイアの手を取って歩きだした。
「あそーだ。エオ隊長とのイチャイチャはみんなの見えないところでしてくださいね。拠点でだって周りの人たちの目線、恥ずかしいんですよ?」
「フクは私にエオを嫌いになれって言うのか」
「そこまで言ってないでしょ…」
「…まぁ、善処する」
「それ前も言ってました! はぁ、なぁんでうちの女性陣はこんな感じなのかなぁ…」
『ケラト・ファレーナ』は十八名で構成された世界最高峰の探検隊。女性は六名でフクは最年少。フクは人生の先輩たちから大人の女性を勉強しているのだが、ダイア含めみんな揃って個性的なため、学ぶどころか自分が注意する立場になってしまった。
「フクは彼女たちが嫌いか?」
「もー、なんでダイアさんは好きか嫌いか極端なんですかぁ。みんな大好きに決まってるでしょ」
「じゃあ、キス、して」
「ふぁっ!?」
爆速で振り向く勢いのまま手を離そうとしたフクをダイアは逃さなかった。
「なぜ逃げようとする」
「なぜキスしようとする!!ダイアさんにはエオ隊長がいるんだから浮気はダメですよ!」
「これは浮気じゃない。愛の証明だ」
「証明されたら私が隊長と気まずくなるんです!」
フクが参りに参っているダイアのキス癖は「ケラト・ファレーナ」全体でも時々話し合いが行われている。反対派は今のところ三人で、フクとロニテリスが風紀的な理由、エオがヤキモチという理由で反対している。
ダイアに対しての敬意や憧れは本物だが、なにもキスしてほしいわけでは………ない……はず。
「エオたいちょぉ!!たすけてぇぇ!!」
ともあれ簡単に唇を奪われるわけにはいかないフクは腕をぶんぶんしながらなんとか抵抗するが、ダイアに意味はない。見事にぶんぶんリズムに合わせてフクの抵抗を相殺している。
「…ぅぅ」
「はっ!」
弱々しく悲しげな声にフクは腕を止めた。
ケラト・ファレーナの副隊長、頼れる強さと勇敢な精神力で隊を支えるダイアの変化にフクは一際敏感に反応する。
「……フク、ひどい」
手を離したダイアが膝を抱えてしゃがみ込む。これもまたおなじみ、いじけモード。姉御肌なダイアが度々見せる泣き虫女の子にフクは一瞬手を差し伸べそうになったが、なんとか踏みとどまった。
これは罠だ。
「嘘泣きはききませんよ!」
特にエオに効果抜群なダイアの嘘泣きにフクも騙されてきている。ここで「しょーがないですねぇ」なんて言ったもんにゃ、光の速度で唇をもっていかれる。
甘やかしは厳禁厳禁。ここは心を鬼にしてしっかりダイアの欲望を拒否しなくてはならない。
「すんすん泣いても私は騙されませんよ!」
「すんすん」
「くっ、かわいい…。でも私は取り込まれませんよ!ダイアさん強いんですから私に拒否されたくらいで泣かないでしょ!」
地面を指でなぞる仕草にキュンとしつつ、フクは一歩一歩と下がっていく。
「嘘泣き作戦は無意味ですよ!本性見せなさい!!」
「………ちっ」
「舌打ち!?」
はい、本性でましたねぇ。
油断も隙もないダイアにフクは気を引き締めて唇を両手で隠した。
「イケると思ったのに」
「イケる!?なにするつもりですか!」
「キスだが……フク、変なこと想像してないか?」
「へんな…!?っしてませんよ!!」
ダイアはシラフだろうと酔っていようと(シラフだと女性陣のみ)やたら唇を奪おうとする。
冷静沈着で勇猛果敢なダイアを鵜呑みにすると痛い目にあうのは隊員たち、というのがあるあるとなっていて、風紀委員的立場になったフクからすると憧れであっても危険視せざるおえない。
「なぜフクはいつも私を拒むんだ。エオはすぐに甘えてくるのに」
「なんでちょっとキレぎみなんですか…。というかエオ隊長は恋人なんだからそりゃ甘えますよ。私とは愛の形が違うんです」
「エオは恋人じゃない」
「まーた言ってる。あんなにイチャイチャして恋人じゃないって、人によっては嫌味って言われますよ?」
ため息のように吐かれる煙が溶け消え、ダイアは少し悲しそうに微笑んだ。
「嫌味か、たしかに言われてしまうかもな。私は恋人どころか夫だと声を大にして言いたいんだが…」
誰が見ても相思相愛の二人。特にダイアのエオに対する愛は時折狂気すら感じるほどなのだが、二人の関係性について聞くとダイアは大抵寂しそうにする。
「あいつは……エオは、どれだけ私が目を合わせても、いつもどこか遠くを見ている。恋や愛より世界を解き明かすことが生きる理由のエオに、私は役不足だよ」
役不足なんて…。そう言おうとしたフクはエオの無邪気な笑顔を思い出した。
数多くの時間を過ごして、数多くの謎や発見に直面し、それらを解明していく中でエオは数えきれないほど子供のように笑っていた。
『世界の謎に夜明けを!』
世界に満ち溢れた謎に夜明けを導く探検隊「ケラト・ファレーナ」。それを率いる探検家エオの口癖が記憶から響く。
超がつく冒険、探検好きな大男はいつも豪快で勇敢で、世界を突き進み続けている。そんなエオを愛したダイア。彼女の言う通り、エオの探検に対する情熱は愛に勝るものがあった。
ゆえにケラト・ファレーナの女性メンバーは「ダイアが早く報われますように!」といつかに見た黄金の流星群に祈っていた。
「愛してるという言葉の意味を分かっていたのが救いだったな」
「さすがにそのくらいは分かるでしょ…」
「そういうフクは私の愛してるを分かっていないぞ」
瞬間、フクは悟った。
この人まだキスを諦めていない!と。
最短で決めてくるとすれば、「え?どういうことですか?」「ふふっ、こういうことだよ。ズキューン!」だろう。
しかしダイアは煙を吐き出すだけで特に何もしてこなかった。
それはそれで寂しい。
「だってダイアさん、みーんなに愛してるって言うじゃないですか。私への愛してるなんて挨拶と同じくらい軽いですよ」
「そんな風に思ってたのか。私は常に本気で愛を伝えているはずなんだがな」
「ちゃんとエオ隊長だけに本気になってあげてください」
「私はただ、性別に関係なく愛や絆はちゃんと言動や形にするべきだと考えているだけだ。フクも本気になって構わないぞ。エオは渡さないけど」
「形にした途端、壊れてしまう想いもあるんですよ。エオ隊長が私のこと恋愛的に好きって言ったらどうです?」
「フクの皮を剥いで私がフクになる」
「怖!!着ぐるみになんてなりたくないですよ!」
冷徹な目つきは冗談が冗談でなくなる。もちろんエオ隊長に尊敬はあっても恋愛感情はない。
寧ろフクが恋愛感情を抱いているのは…。
そんな想いを伝えきれずに一年も経ってしまった。
「エオは私の生きる理由だ。エオのためなら私はなんでもする。エオが私を愛してくれるから、私は私でいられる。…だから」
あぁ、私は、とんでもない人を好きになってしまった。
「私を邪魔する奴は絶対に許さない。もしエオが私を裏切ったら、エオの皮を剥いで私がエオになる。私が私を愛してやる」
フク集計怒ると怖いランキング第一位のダイアの強烈な殺意に、木々に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立っていった。
想像でここまで本気になれるのだからエオ隊長も色々大変だろう。
それでも、フクはダイアに恋焦がれていた。
命の恩人、憧れの女性、強くて美しく、鋭くて冷たい。そんなダイアを愛していた。
「……あ。 私、また」
ダイアは何かに気づいたように動きを止めた。
怒りで我を忘れる。ダイアが一番気にしている自分の性格に、ダイアはその場で膝を抱えた。
「……フク、ごめんなさい」
幼い子供のようにしゃがみこんで、あからさまに落ち込んでいる。
「…ぅぅ」
「もぉぉダイアさぁぁん」
怒って泣いて、ダイアは感情の緩急が激しい。普段は冷静沈着、鋼鉄の女など呼ばれているがエオ関係や一度感情に火がつくとそこからグルグルと喜怒哀楽が顔を出し始める。
「こんなとこで座りこまないでくださいよぉ」
「……だって、私、エオを殺して皮を」
「まだ殺してませんよ。って、ほんとに泣いてるし…。もぉ、はい、涙拭いてください」
「……拭いて」
「もぉ、エオ隊長たちに置いてかれちゃいますよ。……はい、綺麗になりました」
ハンカチで涙を拭いて、葉巻を咥えさせて、頭をぽんぽんする。
「…どうせ、私のことなんて、誰も、愛してくれない」
「知らないんですか?ケラト・ファレーナのみんながダイアさんのこと大好きなんですよ?」
「…嘘つき」
「じゃあみんなに追いついたら聞いてみてください。ロニテリスさんだって大好きって言いますよ」
「…ロニテリスからの好きは…いらない」
哀モードが終了し、ダイアが立ち上がる。少し落ち込んでいる節はあるが、とりあえずは一安心だ。
「合流に遅れて、そのロニテリスさんに怒られるの私なんですからね」
「大丈夫、フクは私が守るから」
さっきの怒りも哀しみも幻かのようにダイアは冷静な表情で答えた。
森林の終わりはすぐそばまで迫っている。遅れているとはいえ、追いつくのはあっという間だろう。
しかしこれも毎度のこと。ダイアに巻き込まれて何度ロニテリスに怒られたことか。
「もうとことん守ってくださいね!というかまずここメテオストル島ですし、ロニテリスさんどころか全部の危険から守ってください!」
「ふふっ…分かった。……お礼、考えとく」
なにか企みが見える微笑み方にフクが目を細める。
「そんな目をするな。変なことは言わない」
「ぜっーたいうそですよね」
「……さぁ」
「さぁって…。って!なぁんで普通に置いてくんですか!!私荷物持ってるんですけど!!」
「大丈夫。守ってあげるから」
「半分持ってくださいよぉ。ダイアさぁん!」
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「うっわぁ、こりゃぁ壮観ってやつだな」
ケラト・ファレーナで地図製作者を務めるカリウムが自身の記録してきたメテオストル島の地図を見比べながら、眼前の景色に驚いている。
無数の角柱型の岩石が底の見えない闇から生えた自然生成とは思えない異質な地形。太さ高さが様々な角柱岩石が乱立した、そんな不可思議な地形に最も驚いていたのは
「おおおおお!!!!!なんだぁこれぇ!!なにがどうなってどうなるからこうなるんだ!?!?」
隊長のエオである。
「おいナウマン!!俺ぁこんな地形初めて見たぞ!!!じゃんじゃん記録してけぇ!!」
「んなデケェ声出さなくても聞こえるっつーの。ったく、なんでウチの隊長は興奮すると知能が下がるんだか」
別ルートから向かっていたロニテリスたちと合流したエオたちは、この角柱岩石林に行手を阻まれつつ、地形を記録している最中だった。
大興奮するエオを横目に、地図製作者カリウムと地史学者ナウマンが地形と地質を記録している。
右目に特注の小型望遠鏡を片眼鏡のように装着したカリウムが倍率を調整しながら地形を見るなか、ナウマンは各地の地質情報を書き込んだノートをペラペラとめくっている。
「にしても確かに珍しい地形だなこりゃ。一本持ち帰りたいところだ」
「なぁ、ナウマン。ここ霧の岩場思い出さねぇか?」
「岩質がちげぇよ。こっちは石灰岩だ」
「いや素人は見ても分かんないって」
エオと同等の体格である巨漢ナウマンだが、器用に地形の様子と岩質をノートに書き込んでいく。
ケラト・ファレーナには世界最高峰の学者が七人いて、なかでもナウマンは地質学全体に精通した世界的権威であるが、本人は「地史学者」と名乗っている。
「あ、そうだ。さっきさ竜王から連絡あったんだよ」
「は?なんで竜王が連絡なんてよこすんだよ」
「ダチが行方不明だとか言ってたけど。隊長もよく分かってないっぽい、ため息ついてたし」
「あの竜王からの連絡だろ。放っておいていいのか?…あの様子じゃ、あいつもう忘れてるぞ」
「だよねぇ。…なんだったんだろうなぁ、あれ」
ナウマンの言う通り、初めて見る異様な地形にエオは興奮のあまり竜王からの連絡を忘れていた。
与えられた情報も雑だったことから悪戯か大したことのない話だったんだろうと、内容が聞こえていた隊員たちも気にしていない。
無論、そのダチというのがラプトル騎士団団長ロキだということに気づくはずもなかった。




