洞窟という隠れ場所
腕ほどの大きさがあるトカゲらしき爬虫類が針葉樹を登っていく。それを横目に、ラプトル騎士団団長ロキは周囲に気を張りながら隠れ場所を探していた。
地面が波立つかのように傾斜の繰り返される森の中は歩いているだけで体力が奪われていく。視界や気温、湿度に苦痛を感じることはないが、恐竜や戦士を警戒し続けるとなると、いくらロキでも精神的負荷がかかってくる。
「…あれは」
目に入ったのは苔むした岩壁だった。頂上へと続く急斜面に剥き出しの岩肌は縦に大きく亀裂が入っている。
「来てくれ!」
黒い亀裂がロキの声を吸い込み、冷たい空気を吐き出している。見えるのはせいぜい一メートル先。そんな暗黒を覗き込んでいると、後方からエースケの絶叫が響いた。
不安をかられる尋常ではない絶叫だったが、エースケの声だと何故か心配よりもため息が出てしまう。これで実は襲われてたら洒落にならないが、アルーゼが頭の後ろで手を組みながら現れるのを確認してエースケに対しての心配は一切なくなった。
「なんだ今の叫び声は」
「エースケが毒蛇に乳首噛まれたんだよ」
「……」
言い方からして冗談なのは分かるが、あまりの緊張感の無さにロキは副団長のユタを思い出した。常にどこか上の空で、任務中でも鼻歌混じりに「ねぇロキぃ、ねぇねぇ」と緊張感ゼロの男。そんな彼をアルーゼは彷彿とさせる。
「んだこれ、洞窟か?」
森の中に突如現れる暗黒にアルーゼは興味津々だった。腕を伸ばし入れると冷気がからみつき、「寒っ」と思わず引っ込め
「ビリビリもやってみろよ」
「入れずとも分かりきったことだ」
と暗闇のような冷たい返答にアルーゼは目を細めた。
「入ったのか?」
「まだだ」
アルーゼは眼球を恐竜化させるが
「ダメだな。ぜっんぜん見えねぇ」
暗闇に安易に入るのはあまりに危険すぎるし、アルーゼもそこまで無謀ではない。雷の水晶の光を頼るのが最も楽だったが、これ以上の放電は今後に支障が出てしまう。
「おし、松明作るぞ」
アルーゼは針葉樹に目を向けて、母親であるノアから教わった松明の作り方を思い出していた。早速松明作りに取り掛かろうとするアルーゼだったが
「あ、来やがった…」
目線の先、青黒髪の少女を背負ったエースケが一歩一歩を踏みしめながら、ゆっくりと向かってきている。
「フシュー…フシュー…フシュー」
エースケの呼吸は噴き出る蒸気のようで、恐竜化せずとも圧迫されるようなオーラを放ち、まるで背負っている少女を護るために力を解き放った怪物のようだった。
ロキも「(…本人か?)」と多少だが威圧感を感じていた。だがロキのイメージ通り、エースケは基本頼りない。身体能力がずば抜けているわけでもないし、体格は細くも太くない至って普通の思春期厨二病男子である。しかしエースケはルゼアチノ戦しかり、身体能力、戦闘能力が感情に左右されやすい。ビビっていれば力が入らず、キレていれば力が入る、エースケは実に単純な構造をしているのだ。
「…アルーゼェ」
「見ろビリビリ。あいつこそ我らがパーティー、自慢の…」
「…てめぇの乳首を寄越せぇぇ!」
「変態野郎だ」
「てめぇの乳首は何色だぁぁ!!」
潰された右乳首の復讐を果たすため、アルーゼの乳首を奪い取るため、エースケはアルーゼに向かって走り出した。
「覚悟しろアルーゼ!真の男女平等主義である今の俺を誰も止めることはできん!」
「お前、いくらなんでも私の乳首奪う発言はどうかと思うぞ?その、倫理的に」
「理不尽暴力女が倫理を語るな!!俺の乳首の仇、潔く受け入れろ!」
「ビリビリ、あいつどう思うよ」
「くだらん」
「な!?ロキてめぇ!てめぇの乳首も引きちぎってやろうか!」
森に響く茶番に、ロキは深いため息をついた。あまりの馬鹿馬鹿しさとエースケの本気具合、そしてなによりこの茶番に巻き込まれていることが情けなくてしかたがなかった。
「フシュー!フシュー!」
興奮状態のエースケはまさに獣と化していた。なんとしてもアルーゼの乳首を奪う。ただその一心でエースケは狙いを定め続けている。
とは言うものの相手はあのアルーゼ。下手に手を出せば返り討ちに会うのは分かりきっている。呆れているロキも手を出してこないとは限らない。
「ビリビリ、手ぇ出すなよ」
警戒していた矢先、アルーゼからロキを抑えるとは意外だった。しかしこれで一対一、アルーゼに対して集中することができる。
「来いよエースケ。強くなったんだろ?さっきのヘタレっぷりの汚名返上、したいよなぁ?私にお前の強さってやつを教えてくれよ」
「フシュー!!…アルーゼェ、アルーゼェ!」
対アルーゼ乳首奪取特化型突撃戦艦エースケ、またの名を獣エースケ。もとい、ただのクズ人間はアルーゼの挑発にプッツンした。
「上等だゴラァッ!!」
男として、否、漢としてエースケはアルーゼに教えなくてはいけないと雄叫びを上げた。一触即発のエースケとアルーゼの乳首戦争。両者向き合い、遂に衝突する。
その直前で
「……んっ」
あと一歩のところで少女の声が両者の足を止めた。
「(やばい!)」
「(起きる!)」
決して忘れていたわけではないが、エースケは自分のやらかしたという焦りが表情に出ていた。茶番に巻き込まれていたのはロキだけではない。エースケが責任持って背負っている少女が居心地と環境の悪さに薄らと目を開けてしまった。
目を合わせ、無言の作戦会議を開こうとするアルーゼとエースケだったが、ただ一人、ロキだけは冷静だった。
「声を荒げるな」
ロキの一言に二人は息を止めるように口を閉じ、少女はうっすらと開けた目を優しく擦った。ほんの少し顔を上げたが、それも一瞬のこと。よほど疲れているのか、再びエースケの肩に顎を乗せて気絶するように眠ってしまった。
「セ、セーフ…」
「今は貴様の乳首問題よりも、その子の介抱を優先すべきだと分かっただろ」
痛いところを突かれて言葉に詰まるエースケにアルーゼは「うんうん」と頷いている。
「なにも貴様の乳首がどうでもいいとは言わない。だが、状況を今一度考えろ。その子を巻き込むことが正しいことかを」
重いど正論パンチがエースケの心に風穴を開け、露骨にテンションが下がり、さっきの勢いは何処へやら、エースケはトボトボと歩き始めた。
しかしロキの言い分は状況を鑑みても正論に変わりない。エースケは少女への罪悪感で肩を落とし
「…悪かったよ」
いざ冷静になるとエースケはあまりの馬鹿馬鹿しさに気づいてしまった。俺は何をやろうと、何を言っていたんだと。
羽のように軽い少女をロキが抱き抱えた。騎士と少女。実にお姫様抱っこの図が似合うロキだったが、もちろん本人にエースケのような邪な感情は一切ない。
興奮状態から一転、すとんと正気に戻ったエースケにアルーゼは
「反省したか?」
偉そうに肩を叩いた。
「俺にできることはありますか」
「急にしおらしくなったな。…じゃあ、松明作んの手伝いやがれ」
しおらしく、反省していますオーラを出して肩をすくめるエースケと大きい態度のアルーゼ。本人は気付いていなかったが、その瞬間をロキはしっかりと目に収めていた。
不敵な笑みを浮かべるエースケを。
二人はロキに子守りを任せて松明になる材料を集め始めた。燃えやすい針葉樹で形成された森林は松明を作るにはうってつけだった。
アルーゼは枝を、エースケは枯れ草を集める担当で、アルーゼは良さげな枝を見つけるためにキョロキョロしていたが、一方のエースケは枯れ草を探す様子もなく静かにしゃがんでいた。
「おーい、なにしてんだよ」
「……」
蟻の隊列を眺める少年のように地面を眺めて動かないエースケにアルーゼは何の気なしに歩み寄った。
「………ねぇぞ」
「ん?なんて言った?」
ボソッと呟いたエースケの声をアルーゼは聞き取れなかった。そのせいでアルーゼはさらにエースケへと近づいてしまう。
フニっ
「……は?」
「…復讐の炎は消えてねぇぞ」
その感覚をアルーゼは知っていた。
まだノアと二人で暮らしてい頃のこと
「お?アルーゼ、ちょっと大きくなってきたな」
「ふわぁ!いきなりなんだよ師匠!」
「師匠と弟子のスキンシップに決まってんだろ?」
よくいたずらされた懐かしい記憶がフラッシュバックして、そして現実に引き戻される。右胸が押される感覚にアルーゼは視線を落とした。それは手だった。五本指の男性の手だった。
「油断したなぁ!アルーゼ!」
エースケの右手は完璧に目標を捉えていた。片手では収まらない程よいサイズと柔らかい感触。速く、正確に、抵抗や反撃を恐れず、躊躇なく倫理観を突破したことで成し遂げた、エースケの、エースケ故の、エースケだからこその人道に反したクズ行為。
「はっはっは!言ったよなぁ!真の男女平等主義の俺を止めることはできないと!何を言われようと、何をされようと、例え相手が女だろうと俺は必ずお前の乳首を奪うんだよ!」
「…や、やめ」
すぐさま反撃がくると予想していたエースケとは裏腹に、アルーゼはか弱い声を絞り出した。
「そんな声出しても無駄だ!例え女だろうと胸を揉みしだく!異世界転移というモラルの欠如を甘く見るなぁ!」
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!」
「ごばしゃぁっっ!!」
鳩尾に叩き込まれた衝撃にエースケの体が浮いた。
「…本性…出しやがった、なぁ」
「なななななななにふつうにさわってんだよ!!」
エースケは腹を抱えて引き下がり、胸を守るように両腕を交差したアルーゼは少し涙目になっている。
「ほんっとおまえってやつは!なにが真の男女平等主義だ!やっぱお前はエロスケベのエースケだな!」
「…俺はただ、お前の乳首が…欲しいだけだ…っ!」
「救いようのねぇ変態が!私の胸を触った罪はいくらお前でも許されねぇからな!その腕へし折って松明にしてやるよ!」
「可愛い反応をする弱々しいアルーゼはどこいった!息が!息がうまくできん!」
「そんな弱々しい声に油断して腹パン食らったのお前だろ!」
腹を押さえながらエースケは両膝を震わしている。重たい打撃のダメージは確実にエースケの体力を奪っていた。
「‥俺は、まだ」
視界が霞み、意識の朦朧とする中、エースケはなんとかアルーゼへの視線を維持しようとする。膝は震え続け、呼吸が浅くなっていく。腹をじくじくと重たい痛みが蝕み、そして。
「…ち、くび…を」
エースケは地面に吸い込まれるように倒れた。
「こいつ、ルゼアチノから距離感急に近くなった…気がする。…多分私のせいだけど」
数分後、ロキの元に松明の材料と力の抜けたエースケが運び込まれた。力なく地面に転がっているエースケに、ロキは何があったのかを大体察した。
虫の死骸のように動かないエースケの横にアルーゼは枯れた針葉樹の太い木片と枯れた繊維質の草、木のツルを数本投げ捨て、手を叩いた。
「さてと」
持ち手となる木は針葉樹ではない生木を選び、先端に乾燥した針葉樹の木片を硬いツルを紐代わりにして固定していった。
乾燥した枯れ草を積み重ねると
「ビリビリ、火種くれ」
火起こしはロキの雷輪に嵌め込まれた雷の水晶の放電によって、繊維質の草は簡単に火種となった。
小さな火種は瞬く間に枯れ草を燃やしていく。アルーゼは追加で枯草を放り投げ、燃える火の山に松明の先端を当てた。
「ほい完成」
「手慣れてるな」
「火は人間が自然の中で生きていくのに必要不可欠だからな。こんくらい当然だ」
アルーゼは燃える枯れ草の山に土をかけ、何度も踏みつけて強引に炎を消すと、真っ黒の灰に再び土を混ぜて平く広く伸ばしていった。
「水をかけるのが一番だけどな。ま、こんくらいやっとけば問題ねぇ」
「本当に大丈夫なのか」
「一応あとでエースケにおしっこさせっから」
まさかの山火事防止役を与えられていたエースケは未だに動かない。起きようと思った矢先にアルーゼの衝撃発言のせいでふて寝しているわけなのだが、もちろんアルーゼにバレている。
「エースケェ?」
「………」
エースケの顔の近くに松明がかざされ
「ァアッッツ!!」
「おはよ」
「おはよ、じゃねぇわ!なに躊躇いなく顔面焼こうとしてんだよ!」
「おしっこよろしく」
「アルーゼがや…」
「あ?」
「…放尿させていただきます」
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松明の火は洞窟を照らすには充分な勢いになり、アルーゼ、ロキの順で岩壁の裂け目に入っていき、その後ろでエースケが燃え跡に消火活動を開始した。
「これマーキングで恐竜とか寄ってこないよな…。って!あいつら普通に置いてくじゃん!」
岩の裂け目から見える灯りに向かって急足でエースケはマーキングポイントから立ち去ると、人一人がギリギリ通れる裂け目から暗闇へ飛び込んだ。冷たい空気が肌を撫で、煙の匂いが鼻をついた。
揺らぐ炎がじんわりと暗闇を照らし、アルーゼは松明を掲げて天井の高さを確認した。
「こんだけ高けりゃ煙の心配はいらねぇな」
入り口は狭かったが、道幅は松明を掲げて歩く余裕がある。生き物がいる様子もなく、異臭もしない、まさに隠れ場所としては最適の洞窟にロキは安心していた。
と思っていた矢先、アルーゼが唐突に立ち止まった。
「…どうした」
突然アルーゼが立ち止まり、ロキも足を止める。一方のエースケはあっちこっち見ながら歩いていたためロキの背中に衝突し、「行き止まりか?」と鼻をさすりながらアルーゼに聞いた。
「これ…‥見ろよ」
そこには空間が広がっていた。十数人は余裕で入れる広い空間に驚いていたロキとエースケは直後、その光景に言葉を失った。
赤茶色の壁に白い線で描かれた無数の絵がエースケたちを囲んでいたのだ。
槍を持った人間、弓を引く人間。口を開ける二足歩行の肉食恐竜、逃げているように見える四足歩行の草食恐竜。
エースケは幼い頃に図鑑で見た、古代壁画の写真を思い出した。
「人間と戦ってるように見えるな」
ロキはその肉食恐竜の絵にタルボサウルスが重なった。右壁一面に落書きの寄せ集めのように描かれている人間や恐竜に構図は無く、位置や向きに協調性は感じられない。
描きたいように描かれている乱雑さはあるが、棒人間に近しいデザインでも確かな躍動感がある。恐竜は黒色や焦茶色など彩色が施されており、ついつい見入ってしまう生命力を放っていた。
「…こっちは」
炎が揺らぎ、左壁が照らされる。
「!?」
帆の無い手漕ぎ舟が三隻、人間が十五人。それらが巨大な生物の腹の中に描かれていた。
「なんだこれ!怖!」
「……海の生物に見えるな」
ロキがそう言った理由は海面のような波線と巨大生物に鰭が描かれていたからだ。虚な眼と並ぶ細かく鋭い歯。腹の中でひっくり返った舟と人間の小ささから、その生物の巨大さがより強調されている。
「生物っつーか、怪物だろ…」
全員が言葉を失う中、アルーゼが空間の隅に松明が設置されているのを見つけた。薪を入れるための籠には針葉樹の木片が入れられており、アルーゼが火を移すと、パチパチと音を立てながら燃え始めた。
隅に置かれた二つの松明とアルーゼの持つ松明によって暗闇は空間の端へと追いやられ、左右の壁面のみならず真正面の壁面の全容が照らされた。
「…これはぁ、山?」
壁画の中央に描かれた三角形はアルーゼの言う通り山に見えた。左右五人ずつ、塗りつぶされて形作られた人間が山の方向を向いている。天空と思わしき、壁面の上部分には赤く塗られた逆三角形が横並びに描かれている。
気になる点は山の中央に逆さまの人間、その下にも逆さまで描かれた二足歩行の恐竜が描かれていることだった。
「子供の落書きってわけでもないよな」
偶然見つけた岩壁の亀裂は決して偶然生じたものではなかった。間違いなく人の手によって作られた空間と壁画。
思わぬ発見に三人は迷っていた。
「…たしかにここは安全なんだろうけど」
「これを描いた人間が来る可能性がある。もしくは、この場所が戦士たちに割れていれば、真っ先に奴らはここに来るだろう」
亀裂は決して小さくない。モナたちがこの場所を知らないとしても、亀裂を偶然見つけてしまう可能性は十分ある。そうなれば、この袋小路は不利に働いてしまう。
「おいおい、男が揃って弱気になってんじゃねぇよ。まずはその子の介抱が優先って言ったのは、ビリビリ、お前だろ?なら安心安全てのは私たちが作ればいいだけの話。そのための私とビリビリなんだからよ」
「いや、なぜ俺を頭数に入れない」
まさかの戦力外通告にツッコミを入れつつ、アルーゼの説得によって三人はここに留まることにした。
「アルーゼ、少し持ってくれ」
「なんで俺じゃないんだよ」
「…手を洗ってないだろ」
少女を寝かせるために団服を脱ごうとしたロキが、片手が塞がっているアルーゼと放尿後手を洗っていないエースケで、アルーゼを選ぶのは当然だった。
「そう言われると思ってエースケJr.には一切触れてねぇよ」
「エースケ、松明持ってろ」
「なんか二人とも厳しくない!?」
団服が汚れることを気にもせず地面に広げ、その上に少女を寝かせた。呼吸を確認し、額から熱を測り、首に指を当てて脈を取るロキの手際はアルーゼの松明作りのように手慣れていた。
「まだ少し熱がある」
「完全にエースケと私がグダグダしてたせいだろ」
「罪悪感で吐きそうなんですけど」
「まずは飲み水と食料の確保だ。果実があれば取ってきてくれ。できれば肉よりも魚が好ましいな」
「ビリビリ魚派か」
「死骸の臭いは生き物を寄せ付ける。今は保存も難しい。魚か、なるべく小動物の方が楽なだけだ」
まさに団長。リーダーに相応しいロキの指示と考え方に二人は「おぉ」と感心した。
「それと二人は薬草の知識はあるか?」
「薬草?風邪の時、首にネギを巻くと良いってのは知ってるぞ」
「ルゼアチノに生えてたやつなら師匠に教わったから大体分かるけど」
ノアの大自然で生きる講座をみっちり受けているアルーゼは常人よりかは薬草の知識があった。傷口に塗る、お腹壊した時に飲むなど、ルゼアチノでは薬草がまさに薬だった。
「おいエースケ、そのネギってのなんだ?」
「…いや、忘れてくれ」
松明作りといい薬草の知識といい、アルーゼとの明らかなサバイバル術格差にエースケはネギ発言が恥ずかしくなって目を背けた。
「これを持っていけ」
ロキが懐から取り出したのは竜血の短剣だった。竜滅会幹部の証である短剣にエースケは
「中々な趣味の短剣持ってんな」
漆黒の鞘とグリップに血管のような赤い線が装飾された禍々しい短剣に苦笑いした。
「俺のものではない。これについては夜話そう」
水と食料、薬草を手に入れるためにエースケとアルーゼは意気揚々と出発した。日没までまだ時間はある。ロキは真正面の壁画に歩み寄り、込められた意味を考え始めた。
人間、恐竜、舟を飲み込む巨大な生物、山、空に浮かぶ赤い逆三角形、逆さまの人間と恐竜。
「 」
ロキが呟いた言葉は、燃えている木片が弾ける音によってかき消された。




