副作用というお決まり
殺意剥き出しの巨体に追われているエースケは砂浜を全速力で駆け抜け、無我夢中で森の中へと飛び込んでいった。
「まじで!なんで!俺!なんだよ!」
ルゼアチノのジャングルより遥かに開けた日差しも届いて視界良好の森林を、タルボサウルスを何とか引き離そうと木々の間を蛇行する。どの木も背は高いが、登ったとしてもタルボサウルスの目線ととんとんで、食われるのは目に見えている。
ァァガッアアァッ!!!!
トランス缶によって覚醒したものの錯乱に近い状態のタルボサウルスは、エースケを追いかけながら木々に頭や体を打ちつけている。
恐竜化しているが、攻撃に転じるべきか。エースケに対人戦経験はあるが対恐竜はまだ無い。まして初戦が暴走肉食恐竜とは中々のハードルの高さ。
「俺にロキみてぇな魔法が使えれば!」
まず恐竜界に魔法が存在するかどうかをすっ飛ばして魔力をどうにか感じ取ろうとするエースケだが、勿論無駄な足掻きにしかならず、ただ逃げるのみ。
「俺にアルーゼみてぇな強さがあれば!」
アルゼンチノサウルスとエウストレプトスポンディルスとの圧倒的な攻撃力の差。エウポンにも速度を活かした攻撃があるが、タルボサウルスの倒し方が全く想像できないでいた。
「今更だけどよ!魔法も近代兵器も無い世界で恐竜と戦うって、ベリーハードじゃね!?」
恐竜化という肉体強化は成されているが、それでも心許ないのはガンギマリタルボサウルスを前にして仕方のないことだろう。
「いや待て待て。エウポンといえどされどエウポンだ。あのゼアルも倒したんだ。ゼアルとタルボサウルスなら絶対ゼアルの方が強い!」
タルボサウルスとの距離は二十メートルは離れていたが、エースケは体を反転させ踵でブレーキをかけた。真正面でタルボサウルスを待ち構えたが、案の定意外に離れていた距離に
「あり?ワンチャン振り切れそう?」
いつまでも逃げてばかりではと思った矢先、足の速さでは負けてなかった事実にエースケは後悔した。エースケは立ち止まり、タルボサウルスは依然全力疾走中。
「………」
完全にやっちまった。そう思ったがもう遅い。折角開いていた差はみるみる縮まり、タルボサウルスは目と鼻の先に迫った。
「いや食われてたまるか!!」
振り返らず、咄嗟に右を向いて走り出すエースケ。諦めて食われることを受け入れるはずがなく、再び全力で走り出した。
そしてエースケの後方から衝撃音が響いた。
「!?」
振り向けば、タルボサウルスが直角に曲がれず、木に激突していたが、エースケは構わず森を駆けていった。
「つーかここどこだ!アルーゼんとこ戻んねぇと!」
景色は似通っていて進めば進むほど迷っていくのは明白だったが止まるわけにもいかない。ルゼアチノのジャングルより視界が開けているのがせめてもの救いだったが、もう砂浜も海も見えない。
ギィャアァアァアア!!!
「ブチギレザウルス爆誕だな」
タルボサウルスが木に激突したことでエースケは十分な距離を取れている。タルボサウルスは頭を上げて左右を見渡しながらエースケを探していた。
「つーか見失ってる?……あれ絶対見失ってるだろ」
タルボサウルス然り、恐竜と人間の視覚は異なっている。感知できる色彩や立体構造、動体は人間がトップクラスだが、嗅覚や聴覚を駆使することで恐竜も人間とは違う感知が可能となる。
「はっはっはー!完璧な立ち回りってやつだ!逃げ足こそエウポンの強みよ!」
エウポンに不満を言いつつ、それなりに結果が出ればコロッと掌返しのエースケ。
「これでロキみたいに特殊能力があれば百点なんだけどなぁ」
あんな光景見てしまったら自分も使いたいのが男子たるもの。しかし今は全く特殊能力発現の兆しが見えない。
ガァッアァァッアアアッ!!!!
エースケを見失い、トランス缶による興奮作用でやり場のない力を当たり散らかすタルボサウルス。その破壊力にエースケは苦笑いを浮かべた。
「ひぃぃ、超怖ぇ…」
痛みを感じないのか、全力で頭や尾を木にぶつけている姿はまさに暴走状態。お手上げエースケにできることは全力逃走のみ。さっさと退散退散と振り返った瞬間、エースケの動きが止まった。
グルルルッッ
「…………」
現れた、もはや元からいたと思える程に足音や気配に気づかなかった二足歩行の獣脚類。エースケの脳は突然の情報を処理できていない。
存在感を放つ二本の角。トリケラのような鋭利さは無いが獣脚類にしては立派で、脚の爪は力強く地面に食い込んでいる。うなじから尾の先端までびっしりと細かい棘が並び、タルボサウルスよりも一回り小さいが、より攻撃的に見える。
「……いやいや」
それはないだろと呟く余裕などない。完全に油断していたが、別種の登場など想定外だった。ここは戦士によって恐竜が狩り尽くされたルゼアチノではないと考えてももう遅い。
ガルルルルッッ!!
「…これは」
ゴァッオォアアアッッ!!!
脳裏をよぎった嫌な予感。けれど止める術は無く、突如現れたカルノタウルスの咆哮に、エースケは耳を必死に守ることしかできなかった。
◯カルノタウルス
体長7〜9メートル 白亜紀後期南米生息
意味「肉食の雄牛」
「最高に最悪なパターンだ」
振り切ったとはいえ、まだ近くにヤツがいる。エースケが咄嗟に振り向くと、ヤツが、暴竜と化したタルボサウルスが真っ直ぐこちらを見ていた。
視覚では足りないのか鼻をひくつかせたが、ロキの雷狼による三本傷の出血で血の匂いしか分からない。しかしタルボサウルスは気づいている。どうしようもなく溢れる暴力をぶつけられる相手がいることを。
ギァアガァアアアッ!!!
「やっぱそうなるよなぁ!」
カルノタウルスの咆哮に誘われたタルボサウルスは一直線にエースケの元へ向かってくる。カルノタウルスもガンギマリタルボを睨みつけ、既にエースケは眼中にない。
カルノタウルスはエースケを無視して走り出し、エースケはそれを地面に飛び込むようにしてかわした。
ゴァァアアアッッ!!!
牽制するように喉を震わしたカルノタウルスにタルボサウルスは力強く直進してくる。体格差はタルボサウルスに分があるが、臆することなく牙を剥くカルノタウスルはある意味、エースケにとって救世主かもしれない。
二体の激突は文字通り頭突きによる激突だった。頭蓋骨が痛々しい音を立て、同時に後ろへ弾かれる。体格の差でカルノタウルスが大きく弾かれたが、即座に右回転し、尻尾がタルボサウルスの顔面右側を強打した。
ゴアァァアアア!!!!
轟音を放ちつつ、側面に回り込もうとするが、タルボサウルスは首を曲げながら視線で追っている。ダメージと体力消費が積み重なり、タルボサウルスは最小限の動きでカルノタウルスをマークし続けるが、相手からすれば好機。
カルノタウルスは即座に詰め寄り、首に思い切り噛み付いた。牙を突き立て、肉と血管を喰い裂き、骨をへし折る。カルノタウルスの咬合力はそれらを容易く行える……はずだった。
「嘘だろ」
カルノタウルスの心情を言語化するように、エースケはその光景にぽつりと呟いた。
トランス缶によって膨張した筋肉はカルノタウルスの牙を拒み、口に滴る血の味も微量、骨に牙が届くなど夢のまた夢のようで、タルボサウルスは一切苦しむ様子を見せていない。
肉が裂けることを恐れずに首を高く上げるタルボサウルスに力負けしたカルノタウルスは、体が浮く感覚に首から牙を離した。細かく刻まれた噛み傷は筋肉によって止血され、今度はタルボサウルスが体を反転させる勢いでカルノタウルスの首に牙を突き立てた。
ゴァァァッ!!!
巨大な顎はガッチリと首を挟み、トランス缶によって倍増された剛力でナイフのような牙がカルノタウルスの皮膚を突き破った。うなじに並ぶ棘など抵抗力にならず、タルボサウルスは全力でカルノタウルスを木々に叩きつけていく。
力の発散の道具にされるカルノタウルスは抵抗虚しくタルボサウルスの思うがままに振り回され、乱暴に地面に捨てられた。牙をべったりと染める赤い血と首がズタズタになったカルノタウルス。既に虫の息となり、勝敗は明らかだった。
ギァャアッ!!
タルボサウルスは再び首に噛みつき、少し持ち上げて、もう一度カルノタウルスを地面に叩きつけた。力無く、瞳から光を失っていくカルノタウルスだが、まだただの肉塊にはなっていない。
首だけでなく胴体や脚にまで噛み付き、あえて絶命させず、細く弱々しい断末魔を上げるカルノタウルスに容赦なく苦痛を与え続ける光景に、エースケは吐き気がした。しかしそれと同時に湧き上がる恐怖がエースケの足を震わせている。
人間が介入する余地のない自然界の弱肉強食にエースケは言葉を失い、逃げることすら忘れている。生命の神秘とはあまりにかけ離れた惨殺と嗚咽を誘う血の匂いが、今目の前にしている生物と自分の差を明確に突きつける。アルーゼなら、ロキなら、ゼアルなら、なんて意味のない考えを捨て、エースケは自分自身に断言した。
「(お前には無理だ)」
勝てる見込みはなく、しかし死ぬつもりもない。つまり勝たずして生きる道しかない。
震える足を叩いて、無我夢中に走り出したエースケの恐竜化は恐怖で部分的に解除されていたが、脚部だけは完全なまま、まばらな鱗を顔や腕に見せながら必死に前へ前へと風を切った。
ギアガッァヤァァアアアッ!!!!!
エースケの逃走に気づいたタルボサウルスの絶叫に鳥肌を立てながら、再び幕が開ける逃走劇。タルボサウルスは既に絶命していたカルノタウルスの首に噛みつき、首骨をへし折ると、ゆっくり速度を上げてエースケの追跡者となった。
「まずはこの森から出ねぇと!」
見渡す限りの木々に迷ったなど今更なこと。来た道も覚えちゃいないし、恐竜化による加速も体力消費も底が見えている。今はただ走るだけの無謀な逃走だが、タルボサウルスにも限界がある。まして人為的な覚醒の後など反動で動けなくなるのが定石だ。
「つーか他にも恐竜いるよな!俺一人なんて絶対死ぬ!いやだぁ!食い殺されるのだけはいやだぁ!!」
木々をかわし、体力を考えつつ、タルボサウルスに追いつかれない速度で走る。陸上経験どころか、こんなデスレース経験もない。改めて自分の状況に絶望するエースケだったが、実は砂浜へと戻っているなど本人は全く気づいていなかった。
「はぁ!はぁ!腹、痛くなってきた…」
脇腹をさすって深く呼吸するエースケに体力のタイムリミットが刻々と迫る。
「………ん?」
緑色と茶色を中心とする森の中、エースケは白色の塊が地面に落ちていることに気づいた。無造作に置かれて、落ちて、捨てられて、言い方は様々だが、薄汚れた灰色に近い白色の塊にエースケは目を離せなくなった。
石にしては固さが伝わってこない。布、大きな袋に見えるソレの正体が知りたくなったが、状況が状況。空気を読まない好奇心を押し殺して、エースケは走り続けた。
「!?!?」
直後、エースケは白い塊へ方向転換した。
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時々聞こえるタルボサウルスの咆哮に気を散らしながら、ロキ、アルーゼと三人のガンギマリ筋肉巨人の戦闘は激しい攻防を繰り返していた。
重量のある巨人の攻撃は恐竜化とトランス缶によって一撃一撃で砂煙が高く上がる。アルーゼは口に入った砂を吐き出し、真正面から突撃していく。接近、跳躍、空中で右腕を巨大化させ、打ち込む。既に四回これを繰り返しているが、二回連続で受けた巨人は倒れず、残り二回は別の巨人に邪魔され失敗していた。
一対一ならまだしもアルーゼは二体の巨人を相手している。大きさは十メートル強、アルーゼの巨大化させた片腕とほぼ同じだが、速度の差でアルーゼは苦戦していた。
二発本気で殴ったが両腕でガードされ、ダメージは皆無。逆に妨害されたダメージが大きく、踏み込むたびに足が痛む。
「とりあえず一人は潰さねぇとな」
岩のような筋肉と巨大な図体でありながら、繰り出される拳や蹴りは速く、アルーゼは防戦一方。トランス缶の肉体強化はアルーゼたちの想像を遥かに超えていたが
「余裕余裕!クソ親父に比べりゃ遅ぇっての。ま、砂はうぜぇが」
できれば倒しておきたいが、アルーゼには役割があった。巨人二体を引きつけるという役割が。
「ビリビリ!さっさとやっちまえ!」
アルーゼの目線の先、弾ける白光を纏ったロキが空を裂く稲妻が如き速さで砂浜を駆けていた。巻き上がる砂煙をものともせず、筋肉巨人の猛攻を容易にかわし、剣を抜く。
雷電纏う神速の抜剣。堅牢な筋肉を斬った三度の斬撃はまるで獣の爪に引き裂かれたような傷を刻み、肉の焼ける不快な匂いが空気と混ざりあう。常人の一振りが終わる前に三度斬ってしまう剣技に強化された戦士ですら対抗する術はない。
「次だ!」
ロキの合図にアルーゼが不意をつかれたように少し目を開いて、回避から一転、巨人に向かって急いで走り出す。移動していると思えば既に斬り伏せている、理解の追いつかない剣技にアルーゼは「凄っ!」と露骨に興奮していた。
「(さすがに限界か…)」
剣にはめこまれた水晶の輝きが弱々しくなっていくのを横目に、ロキとアルーゼは残りの二体を無力化するべく速度を上げていく。息も上がり、体力的にもこれ以上の長期戦は勘弁願いたい。
十人以上いた筋肉男たちも遂に残り二人。偶然にもエースケを返り討ちにした二人だった。
「ッガァ!ァァアア!!」
「ァァッアア!!!」
獣のような雄叫びを上げ、力任せに振るわれる拳はアルーゼに当たらない。タイマンはアルーゼの得意分野、ロキの介入によってアルーゼは邪魔されることなく空中へ高く跳び上がった。
ほぼ同時にロキは剣を振り上げ、水晶から最後の電撃が放たれる。一閃、そして一線。巨人の右肩から左脇腹へ渾身の斬撃が振るわれた。
「こいつは耐えられるかな!」
アルーゼは両腕を限界まで巨大化させていた。胴体のみ巨大化できないアルーゼだが、両腕と両脚の長さ、太さはゼアルにも引けを取らない。
巨大恐竜アルゼンチノサウルスの能力を際限なく引き出す才能は皮肉にも父親譲りだが、その力によってゼアルの作り上げた戦士を倒す、まさに皮肉返し。
堅牢な鱗が硬度を跳ね上げ、アルーゼの両拳は筋肉巨人のこめかみへ、頭部を挟み潰すように馬鹿げた威力でぶち込まれた。
「…!おいビリビリ!」
脳を震撼させる破壊的な衝撃にアルーゼが相手した筋肉巨人は一瞬で意識が消失した。しかしロキが最後に相手した巨人は倒れていなかった。
「まさかビリビリお前!」
鋒と鍔にはめ込まれている二つの雷の水晶の輝きは完全に消え、度重なる使用によって筋肉巨人への電撃も気絶には至らなかった。
「最後の美味しい場面を譲ってくれたのか!」
「なぜそうなる」
しかし感電によって動けなくなっているのは事実。巨人筋肉男は膝をついて荒い呼吸をしている。
「つーか容赦ねぇな。やっぱ人のこと斬り慣れてんのか?」
「傷は浅い。第一、この剣は斬殺ではなく感電による無力化を目的として作られている。最初から殺すつもりなど無いし人殺し呼ばわりされる筋合いも無い」
「聞いただけだろ?そうカッカすんなって」
膝をついているとはいえ、まだ倒れていない巨人を前にしてロキは剣を納めた。
「なんだ?戦意喪失か?」
「雷の水晶を使い果たした。雷輪はまだ少し使えるが、さすがにこれまで使い果たすわけにはいかない」
両手首に装着された銀色の腕輪にはまだ青白い輝きを放っていた。
「んじゃ、あいつにはさっさと眠ってもらおうか」
片膝をつき、呼吸は荒く、浅いとはいえ傷からは血が流れている。それでも巨人化と恐竜化が解除されていないのはトランス缶の緑煙の効果によるものだろう。先に倒された二人のトランス筋肉戦士も未だ、巨人化と恐竜化は継続中だった。
「弱ったやつを殴んのは気が引けるがよ。さっさと楽に…」
「ッガハッッ!」
膝をついていた筋肉男が吐き出したのはどす黒い血だった。
「!?」
それも数滴ではなく、砂を染め上げるほどの量だった。
『ッァア゛ガァァッ!!』
倒れていた二人さえ目を覚まし、体内から湧き出る苦痛に体を痙攣させながら悶え始める。
「おいビリビリ!」
アルーゼは突然の光景に対してロキに答えを求めた。アルーゼとロキによるダメージだけではない別の何かから与えられている苦痛に、目を見開き、歯を食いしばり、口だけでなく目や鼻や耳からも血を流す異常事態。
心臓が身勝手に激痛が走るほど鼓動し、筋肉が痙攣して自由を奪われる。ただひたすらに体内が熱く燃えるようで、脳は音が聞こえるほど震えていた。
「イ゛…ダィ…」
微かな声を押し出すように血を吐き、見ているだけで恐怖を覚えるほど激しい痙攣にアルーゼは言葉を失っている。
「…副作用だ」
ロキの言葉にアルーゼの頭をよぎったのは、あの緑色の煙だった。強制的に力を引き出させる煙のあまりに惨い副作用。それを知ってか知らずか筋肉男たちは全身で浴びたのだ。
「おい!」
血の匂いが立ち込める砂浜は地獄と化していく。その地獄に飛び込もうとしたロキをアルーゼが引き止めた。
「なんだ」
「なんだ…って。まさかお前、助ける気かよ」
「助ける気がないのか」
「な、そうは言ってねぇだろ」
「見殺しにしろと?」
「そうも言ってねぇ!」
「ならば離せ」
冷静沈着な男が見せた焦燥感にアルーゼは違和感を覚えた。止めた理由はその違和感もそうだったが、助ける方法が全く思い浮かばないからでもあった。
「薬なんてねぇだろ。しかも恐竜化した状態で暴れ回ってる。助けるどころか近づくのも危ねぇ」
「ならばお前はここにいればいい」
「あれは!あいつらが選んだ結果だろ!」
双方共に譲らず、砂浜に苦痛に悶える声がこだましている。一体、ここまでロキを動かす理由はなんなのか、アルーゼとロキの無言の睨み合いに答えは出ない。その最中
ガグァァアアアッアァアアアッッ!!!!!
森から響いてきた獰猛な咆哮にアルーゼとロキの目線がそれた。
「この鳴き声…!まさかエースケのやつ!」
遠方から聞こえていたタルボサウルスの咆哮がふと聞こえなくなり、再び聞こえた咆哮は明らかに近かった。血の匂いが最悪のシナリオを想像させ、二人の動きが止まる。
「こんな時に…!」
ギャアッアァァアアアッッ!!!!
「……!おいビリビリ、こっち来てるぞ!」
血の匂いに反応したのか、確かにタルボサウルスの咆哮は近づいてきている。共に体力は長く続かないし、ロキはまともに電撃を扱えない。
「……エースケ」
「――ぃぃいやぁぁぁぁああああ!!!!!」
巨大な顎と鋭い爪牙を持つ黒い肉食恐竜が森から出て来たのは、まさに窮地に立つに相応しい絶望感だった。トランス缶の副作用に悶絶していない個体が、ガンギマリタルボサウルスが現れたが、アルーゼたちは絶望感と同時に安堵してしまった。
「生きてたか!エースケ!」
恐怖で涙を流しながら、エースケが絶叫している。
「ヘェェルプッ!ヘルルルプミィィ!!」
何かを抱えているエースケだったが、アルーゼとロキはもちろんその正体にまだ気づいていない。




