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笑顔という生きている証

 背中が痛い。

 感覚からして体が物凄く反っている。

 エースケは目を瞑りながら、なぜこんな寝心地の悪い場所で眠ってしまったのか考えた。

 

 ブフゥ、ブルル


 なに今の。鼻息か?

 伝わる振動から自分が移動しているのは分かる。それなら竜車で寝ているはずだが、竜車はここまで寝心地は悪くない。というか、さっきまで盗賊団のアジトにいたはず……。

 エースケがそっと目を開ける。

 白色の硬そうな骨のような何かが眼前にある。小さな凹みや傷がついていて、サイズもかなり大きい。

 その後ろにチラチラと空が見える。


 ブルルルッ


 やはりこれは鼻息だ。

 しかも聞き覚えのある鼻息。


「トリケラの角か!!!」


 トリケラの上角二本を人差し指と薬指で、中指を下角に見立てる。

 もう片方の人差し指をエースケとして、上のニ本と下の一本の間に横向きで差し込む。


「それが今の俺の状況ってわけ……って! ストップ! ストーップ!! 背中に角がめり込んで痛すぎるわ!」


「あ、エースケさんが起きましたよ」


 ウゴォォ


「ちょまっ!!」


 トリケラは止まるやいなやエースケを放り投げた。

 空中で何回転したかは分からないが、草と土の匂いはハッキリと分かる。


「痛い痛い痛い! 全身が痛い!!」


「おはよう。エースケ」


「おはよう、ツァル子。じゃなくて!」


 ここどこだ、そう聞こうとした瞬間にエースケの視界に白髪の少年が映る。

 記憶を辿ろう。

 盗賊団をほとんどマンモスが倒して、マンモスから逃げて、アジトに入って……。

 一連の記憶に白髪の少年はいない。

 ……つまり。

 

「おばけだぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!!」


「いやぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!」


「怖いですぅぅぅぅぅううううう!!!!!!!!!!」


 三人の悲鳴が草原に響いた。

 

「いやなんでおばけまで叫んでんだよ!!」


「僕ですか!?」


「喋っっったぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」


「いつまで叫んでんのよ!」


 ぐっすり眠ったおかげか腹から声が出る。

 山から景色は変わって草原へ。どうやら山を下りてからかなり進んでいるらしい。

 エースケが竜車に乗ると、


「でぇ、どーゆーじょーきょー?」

 

「エースケ全然起きないから出発したのよ」

 

「いや出発したのは分かってるよ。で、その子は誰」


「もう、大変だったんだから。気絶した人間ってあんなに重いのね。竜車に乗せるの無理だったから仕方なくトリケラに運んでもらったのよ、ねぇ~トリケラ~」


「え、無視? なに、本当におばけなの? ツァル子気づいてないの? いるよ? 白髪の子どもが隣で申し訳なさそうに座ってるよ?」


「けど、ちょっと驚かしたくらいでエースケ泡吹いちゃって、私の方がびっくりしたんだから」


「あ、あのぉ」


「あまりに説明されなさすぎて、お化けの方から申し出ちゃってるよ? このまま続けるの? もっかい叫ぶよ?」」


「この子はレオン君。……で、これからのことなんだけど」


「紹介雑すぎだろ!! 名前だけって! あまりの雑さにレオン君も驚いちゃってるよ!」


 しかしエースケはふと違和感を感じた。

 情報に食い違いが起きている。

 レオン……君? 確かに髪は短いが、顔立ちは少年というより少女と言っていい。最初から女の子だと思っていた。

 それに、もじもじしている感じも女の子みたいだ。

 声も男とは分かりにくい。

 エースケは再度、レオンをよーく見てみる。


「まじで男?」


 レオンはコクコクと頷く。


「ボクっ娘じゃなくて?」


 頷いてはいるものの、体つきも華奢で、判断のつかないエースケは核心をつくことにした。

 目線を少し下げて、レオンのレオンに問いかけてみる。


「おーい。付いているのかーい」


「何聞いてんのよ!!!」


「うがぁ!!」


 セクハラに対してツァル子の強烈な蹴りが顔面に入ったが、エースケの探究心が収まることはない。


「絶対女の子でしょ。だって可愛いもん」


「あんたの女の子基準大丈夫? 可愛ければ誰でもいいの?」


 まじまじとレオンを見るが、どうにも信じられなかった。


「えい」


 エースケがおもむろにレオンの胸に手を当てた。

 これは……男、か?

 

「なぁぁぁあにぃぃぃいいい」


 レオンは顔を真っ赤にした。


「してんのよ!! バカエースケェェエ!!!!!!!」


 強烈なアッパーが顔面へとめり込む。

 衝撃は後頭部へと駆け抜け、勢いそのままにエースケは竜車の外へと吹き飛んだ。



 ********************



 レオンを抱き寄せ、頭を撫でているツァル子。

 何故か正座させられているエースケ。


「ほんっと信じられない!」


「いや、だって男なら……」


「男とか女とか関係ないの! 女の子にやっちゃダメなことは男の子にもやっちゃダメ! 常識でしょ!? ごめんねぇレオン君、怖かったねぇ。コイツは見境ない最低スケベ野郎なのよ、中指立ててそのまま目を潰しちゃえ」


 なんたる言われよう。

 しかも、エースケにはツァル子に対しての前科がある。


「どう見たって男の子でしょうが」


 抱き寄せられたレオンは、ツァル子の胸が顔に当たってるせいで、真っ赤な顔から湯気が出ている。


「(レオンめ! 可愛い男子に許されたお姉さんからのよしよし可愛がりタイムを満喫しやがって! 羨ましい!)」 


「あんた今、変なこと考えたでしょ」


「ふぇ!? んなことねぇよ!」


「いい? この子はレオン"君"。私を助けてくれたの」


「助けてくれた? あんな山の中で? 一度も見かけなかったぜ?」


「レオン君、見せてあげて」


 直後、レオンの姿がゆっくりと消えていった。


「は!?」


 おばけが間違っていなかったことに息を呑んだ。

 

「……消えた」


「エースケさん」


「ひゃい!」


 レオンの声がレオンの"いた"場所から聞こえる。そして小さな手に握られた。

 確かに感じる人の温かみは少し震えている。


「ぼ、僕は……ここにいても、いいのでしょうか……」


 頭《かしら》はレオンの透明化によって竜車に乗り込み、エースケの顔面に不意打ちの膝蹴りをいれている。レオンはそれを至近距離で見て、怖くなって逃げだした。


「ここに置いていっても構いません。僕はそれくらいのことをしました。殴られたって、蹴られたって」


「おいおい、なに急に物騒なこと言い出すんだよ」


 見えないから失敗するかもと思ったが、無事、レオンの頭をわしゃわしゃと撫でることができた。

 見えないのに感覚がある。目が合っているような気がして、ニッと笑ってみる。


「んなこと誰がするか。ツァル子を助けてくれたんだろ? ありがとな」


 ツァル子がそっと手を重ねて、ニッと笑った。

 トリケラもウゴォと声を上げて、上機嫌アピールしている。

 

「なんか気にすることがあっても、俺とツァル子は生きてる! 笑顔は生きてる証だからな! 思いっきり笑ってやろうぜ!」

 

 透明の少年から伝う涙。

 きっと、アルーゼなら手を差し伸べる。エースケの笑顔はアルーゼに重なるものがあった。


「……はいっ」


「にっしっし! いい笑顔じゃねぇか! 見えねぇけど」


「うぅ、うぅぅ」


 そんな良い雰囲気の中、エースケの隣で号泣する誰かさん。

 

「なんでお前が一番泣いてんだよ……」


「うぅ、だってぇ、だってぇ」


 誰よりも泣いているツァル子は、レオンを抱きしめた。

 胸に顔がうずくまるレオン。

 見えなくてもわかる。あいつ今絶対顔真っ赤だよ。


「ツァ、ツァル子さんっ」


「レオンくぅぅん!」


「レオンが死ぬわ! 代わりに俺がやるから! レオン今すぐ代われ!」


 と、泣いているツァル子を見て、ふと思い出した。

 

「……そういえばツァル子、俺たちが向かってる場所と目的、レオンに教えてあるんだろうな」


 竜車に響いていたツァル子の泣き声がピタッと止まった。

 まるで停止ボタンを押した映像のように動かなくなるツァル子。車輪の音だけが聞こえる時間が過ぎていく。

 

「……おまえ…嘘だろ」


 透明化を解除してプハッと顔を出したレオンが「なんのことです?」という顔をしている。

 ツァル子のまばたきの回数がどんどん増えていく。

 さっと手を合わせて、上目遣いでエースケを見た。


「ごめんなしゃい」


「っ!! そんな可愛い言い方しても許されるか!!」


「エースケの今までの私に対する"変態行為"許してあげるから」


「なっ!! ひ、卑怯者めが……」


 天秤にかけられる罪の重さが桁違いすぎる。

 過去の自分をぶん殴ってやりたい。


「目的とか理由とか、みなさんどこに向かってるんですか?」


「そ、それはだな」


 こんな純粋無垢な少年に言っていいものか、エースケはかなり躊躇ったが、かと言って隠すわけにもいかない。


「あのなレオン、実はな……」


 エースケはアルーゼやゼアルやら、起きたこと全てをじっくりとレオンに話した。

 

「あの危険で有名なルゼアチノへ……しかもゼアルと戦う可能性が……今はその道中。ハハッ、ハハハ」


「おぉいレオン! 気をしっかり保て!」


 ゼアルの存在感を改めて痛感したが、今更引き返すこともできないし、レオンを置いてくわけにもいかない。

 すなわちレオンには危険に飛び込んでもらう必要がある。


「もちろん無理は……」


「手伝わせて下さい! 僕ができる罪滅ぼしは助力くらいですから!」


 レオンは声高らかに参加を宣言した。

 実際、レオンの能力はアルーゼ救出の要となるかもしれない。というか要にする。

 

「だとしたら透明化の能力はとんでもなく強みになるぞ。 ……てか普通に気になるんだけど、透明になる恐竜なんているのか? レオンなんてかっこいい名前の恐竜は聞いたことないぞ」


「私も透明になる恐竜は知らないわ」


「……えぇと、恐竜ではなくて、僕の能力は"カメレオン"です」


 予想外の答えだった。

 自分がエウストレプトスポンディルス・オクソニエンシスという全く聞いたことのない恐竜の能力のせいで、カメレオンという聞き覚えのある生き物に驚きを隠せなかった。


「カメレオン!? カメレオンてあの体の色変えられる?」


 だが、レオンの場合は体の色を変えるどころか透明になって完全に姿を消している。


「僕の場合は結構珍しいんです。お父さんとお母さんは体の色を変える能力ですけど、何故か僕は色を無くす能力で……」


 レオンがツァル子の手を握ると、ツァル子も透明化して見えなくなった。


「僕が触れるものも透明にすることができます。人間ならニ、三人までは透明化させることができますよ、その分すごい疲れちゃうんですけどね」


「……カメレオンの上位互換みたいな感じか。とんでもないレア能力引き当てたな」


「あくまで透明になるだけで匂いとか音とか足跡は消せません。気づかれないとは限らないんですよ」


 謙遜してるものの、レオンの能力の汎用性はかなり高い。

 まず羨ましい。羨ましすぎる。

 本人が全く悪用するつもりのない態度が逆に辛い。

 

「となると……ツァル子がレオンを持ちながらアルーゼの元へ飛んでいって、そのままアルーゼも透明化させて余裕の救出、これどうだ」


「あんたね、さすがに二人持って飛ぶのは難しいわよ。それにレオン君、極度の高所恐怖症だし」


「高所恐怖症?」


「お恥ずかしながら……」


「私にアジトの場所を教えてくれた時に、飛んで行こうって言ったら絶対に無理です気絶しますって必死に言うんだもん。レオン君に透明化してもらいながらアジトまで歩いたのよ?」


「気絶すると透明化できないんです」


「まじか」


 アルーゼを助けたら一気にゼアルの手の届かない場所まで離脱したいし、極力リスクは下げたい。

 

「じゃ、レオンと俺とトリケラは待機して、ツァル子の高速飛行でアルーゼを回収する作戦でいこう」


「全部私じゃない!!!」


 エースケの頭にげんこつが落とされる。


「いってーな!! 貴重な脳細胞が死ぬだろ!」


「人のトイレ覗こうとしたり、レオン君の胸を触ったりする脳細胞なんて死ねばいいのよ!!」


「それさっき許すって言ってただろ!」

 

「あの、エースケさん」


 くだらない怒鳴り合いに割り込んで、レオンはとんでもないことを言い放った。


「ルゼアチノってどこにあるんですか? 危険とは聞いたことがあるけど場所までは知らなくて……」


 至って普通の疑問。

 だが、エースケは震え上がった。 

 盗賊団のアジトから眠っていた、つまり起きていたのは行き先を知らないレオンと"方向音痴"のツァル子。


「おいツァル子、ここどこだ。地図なんて読めねぇだろ」


「……」


 決して目を合わせようとしないツァル子。当然、周囲には見知らぬ自然が広がっている。エースケたちは未知の草原をひたすらに突き進んでいる。


「……分かってたの」


「え?」


「でも……言えなかった」


「(なんかまるでサスペンスドラマの最後みたいな雰囲気出してきたんだけど。なになに。このスポットライトはどこから照らしてんの)」


「実はね、エースケをトリケラの角にセットした後、私とレオン君も疲れて寝ちゃったのよ。目が覚めたのはエースケが起きるほんの数分前で……」


「(なにこの一人芝居は……茶番だよ、とんだ茶番だよ)」


「私も目が覚めた瞬間、恐ろしく焦ったわ。そしたらエースケが起きてしまって。きっと大丈夫、きっと大丈夫と考えているうちに、こんなに時間が経ってしまったの」


「え、じゃあなによ。お前、迷ってるって知ってた上でずっと黙ってたの」


「そんな言い方酷いわ!」


「酷くねぇよ! 早く言えよ! 最初の角のくだりから結構時間経ってるぞ! かなり進んだぞ!」


「私だって言いたかった! でも……!」


「つまりだ! 今の今までのお前のセリフの後に、”まぁ、ここどこか知らんけど”、って入るのかよ! ……全部知ってる上で泣いてたなんて……おそろしい子!!」


 急いで地図を確認するが、ぜーんぜん分からない。見当もつかない。

 コンパスもなければ、太陽の位置から方角を予測する方法も知らない。

 

「ほんとにごめんなさい」


「お、おう」


 信じられないくらい気まずい、暗く澱んだ重たい空気に包まれて、トリケラを止めるのも億劫になって、みんな下向いて無言。トリケラの気の向くまま、永遠に、気の向くまま。ただ時間だけが過ぎていく。風の音、車輪の音。完全に諦めムードが流れる竜車は過去最低のテンションとなった。


「もう、トリケラトプスになりたい」


「どうしちゃったんですかエースケさん!」


「レオン。もうみんなで透明になって消えてしまおうか」


 レオンは内心引いていた。

 さっきまで頭を撫でながら「笑ってやろうぜ!」と元気よく言っていた人が、ここまで落ち込むのかと。

 あんなに優しいツァル子さんが、あんなに真っ黒い目になるのかと。


「ハハハッ! なんだよアルーゼ! なんでここにいるんだよ!」


 もちろんレオンの目にアルーゼなんて映っていない。

 だがエースケは確かに笑いながらアルーゼを呼んでいる。


「エースケさん?」


「あれ? アルーゼ! なんでここにいるのよ!」


「ツァル子さんまで!」


「アルーゼェ」

「アルーゼェ」


「二人とも! しっかりしてください!!」


 そんな絶望三人組にさらなる脅威が近づいていた。



 ********************



 真っ黒なオーラを放つ竜車は、トリケラの気の向くままに彷徨っていた。

 それを見つけた一人の男、キブラがパッツン前髪を丁寧に整えながらニヤッと白い歯を見せる。

 キブラはゼアルにエースケら殺害を命令された四人の戦士の一人だった。


「まさかここまで来るとはなぁ……長旅ご苦労なこった。だがまぁ……それもここで終いだが、さっさと殺して褒美でも貰うかな」


 キブラが前髪を何度も整えながら竜車へと近づいていく。

 

 ウゴォォォォオ


 なにか強い気配を感じ取ったトリケラが歩みを止めた。

 エースケとツァル子もは未だに「アルーゼェ」と幻覚を見ている。

 レオンは急いで辺りを見回した。しかし、恐竜らしき姿はない。


「どうしたんですかトリケラ君」


 ウゴォォォオオオ


 何度も地面を踏みつけ鼻を鳴らして威嚇している。

 レオン正面から歩いてくるキブラを視認した。


「エースケさん! ツァル子さん! 誰かがこっちに来ます!!」


 ブルルッ!


「ご主人様を守ろってか? 泣かせるねぇ」


 エースケとツァル子はキブラの声を聞くなり、フラフラと竜車を降りてしまった。

 

「お? ご主人様の登場か! ほんとにガキじゃねぇか!」


「……なぁ……お前さ、ルゼアチノがどこにあるか知ってるか」


 掠れたエースケの声はまるで悪魔の声だった。


「あ? もちろん知ってるさ。俺はルゼアチノの厳格たる戦士の一人だからな」


「……そうか……なぁツァル子、よかったなぁ、こいつ、ルゼアチノの場所ぉ知ってるってさ」


「えぇ、ほんとに、よかったぁ」


 ツァル子の声も悪魔のようだった。

 そして二人は不気味な笑みを浮かべて、声は息ぴったりに、


「"案内役"みぃぃっけ」


 キブラは二人のあまりにも不気味な笑顔に一歩、二歩とたじろいだ。エースケたちは一歩、二歩と近づいていく。


「ルゼアチノの場所教えろやぁぁ!! ゴラァァ!!!」


「そのパッツン前髪引きちぎるぞ!! ゴラァァァ!!!」


 レオンは二人の人格の変化っぷりに驚いて、ツァル子の言葉に思わず前髪を抑えた。

 ツァル子は大翼を広げ、ブラキへと突進していく。

 まさに鬼神のような形相だったが、ブラキはこれを高く跳び上がってかわした。


「レオン! 見とけ! これがエウストレプトスポンディルス・オクソニエンシスの力だ!!」


「長っっ!!」


 あまりの名前の長さにレオンはつい言葉にしてしまった。

 エースケは全身に力を入れ、指を肉食恐竜の爪のようにして、思い切り叫んだ。


「変身!!!」


 説明しよう! 恐竜化とは自身の宿す生物の能力を最大限に引き出した姿であり! エースケの宿す獣脚類エウストレプトスポ………略してエウポンはエースケの爪牙となり絶大な力を発揮するのである!!


「恐竜化する時に変身って言うのはガキぐらいだぜ、あ、ガキか」


 皮膚には鱗が広がり、爪牙は鋭く、尾っぽがしなる。

 五感が研ぎ澄まされ、エースケの恐竜化は意識を失わずに成功した。


「分かってねぇなぁ!! 変身は!! 男のロマンだろうがぁぁあ!!!!」


「キレるとこそこですか!?」


「え! エースケが暴走してない!」


 エースケの自我を保った恐竜化を見たことで、ツァル子が正気に戻ってしまった。

 空中に跳んだキブラの着地のタイミングで爪を突き刺そうと考えるエースケ。

 ブラキは回避は無理だと腕を恐竜化させ防御の姿勢を取った。

 だが、ここでエースケの動きが鈍る。


「(これをアイツに突き刺すのか……)」


 それは躊躇いだった。

 エースケは咄嗟に拳を握り、爪を刺すのではなくキブラを殴った。

 キブラの腕は想像以上に硬く、むしろエースケがダメージを負ってしまった。


「はっ! 痛くも痒くもないな! 今どきのガキってのは優しいんだなぁ!」

 

 今までの戦闘に躊躇いが無かったのは暴走していたから。

 闘争本能と生存本能が覚醒した状態で人間の思考回路を持つ肉食恐竜の戦闘力を、自我を保ったエースケは引き出すことができない。


「まさか!」


 それをエースケは即座に理解した。


「俺ってば! 暴走してた方が強いんじゃね!?」


「甘っちょろいやつに興味はねぇ! さっさと終わらせようか!!」


 戦闘のプロフェッショナルであるルゼアチノの戦士。

 その肉体は常人を容易く超える力を持ち、人や恐竜を殺す技術を持っている。

 だが、キブラが常人であるはずのエースケたちに対して恐竜化したのは、躊躇ったとはいえエースケから危険を感知したからである。


「(もし躊躇われなかったら……)」


「エースケ来るわよ!」


「あぁ!」


「我がブラキオサウルスの力! 覚悟しな!」

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