強者という支配者
独立自治領地ルゼアチノ。
アルーゼは地獄に戻ってきた現実に下唇を噛んだ。
道中、いくらでも逃げる機会はあった。だが、アルーゼは逃げようとしなかった。
逃げても無駄、この男の手からは逃れられないと理解しているからだ。そんな自分の弱さを悔やみながら一歩、また一歩と集落へ近づいていく。
ルゼアチノに住む人々、巨竜の民の集落は広大なジャングルに囲まれた天然の迷宮の中に存在している。地図もなければ目印もなく、巨竜の民しか集落までの正確なルートを知らない。
アルーゼの表情は進んでいくほど暗くなっていく。
「なんも変わってねぇな」
ティルルの街の建物には遠く及ばない土木造りの家。
広い畑や水路。幼い頃に何度も死にかけた闘技場。
集落の一番上に建てられた自分の家。
懐かしくて忌々しい光景。
そして、自分へと向けられる視線。
「おい。あれ、アルーゼか?」
「生きてたのか」
「ゼアル様の娘さんだそうだ」
「え! 死んだって聞いたぞ!」
「お母さん。あれだぁれ?」
人々の反応は様々だった。
まるで見せ物にされている気分。知っている顔は一人もいない。
だが、一人の女戦士と目が合った。薄紫色の髪を短く切りそろえた女性。幼い頃、闘技場で闘い大敗した相手、エウロパだった。
「生きてたのね」
「あぁ」
弱々しかった少女は成長し、睨む目には気迫があった。
幼少期のアルーゼを知る者からすれば、まるで別人を見ているようだった。
「お前、よくこんな場所で生きてられるな」
エウロパだけじゃなく、周りにいた人々にも向けた言葉は誰の心にも届くことはなかった。
無視したわけではない。こんな場所と言われても、本人たちにとってこの場所が普通で、巨竜の民のほとんどが外の世界を知らない。
アルーゼの言葉など無意味だった。
「いや、忘れてくれ」
そう言って再び歩き始める。
自宅はすぐそこだ。そしてゼアルと同じくらい会いたくない人が立っていた。
「アルーゼ!」
勢いよく抱きしめられた。予想もしていなかった"母親"の行動にアルーゼは戸惑った。
「こんなに大きくなって! 心配だったのよ! もう二度といなくなってはいけませんよ!」
だがアルーゼの腕は下がったままだった。
不可解な行動をする母親に対して喜びや安心、高揚感などを全く感じない。
一度たりとも会いたいと思わなかった母親との再会。
育ててくれたことは確かだ。だが、愛情があったかといえばそうではない。
ゼアル同様、あくまで理想の戦士を作り上げるための行動の繰り返し。
ゼアルに対する憎しみが母親にもあるというわけではないが、好きではないし、愛して欲しいとも思わなかった。
「もういいだろ」
母が見せた笑顔が「もうあなたは逃げられないのよ」と言っているように見えた。
「(……師匠)」
アルーゼが知っている本当の愛。
彼女のおかげで今の自分がある。
六年という長くも短い年月が、エースケとツァル子と過ごした一週間にも満たない短い時間が何度もフラッシュバックする。
だが、その大切な存在がアルーゼの行動を封じている。
自分の行動が師匠やエースケたちに危険を及ぼすかもしれない。ゼアルは決して躊躇しないことを知っているからこそ、今やるべきことは従うことだと苦汁を飲んでいる。
「座れ」
思い出など一つもない家で、アルーゼは冷たい床に腰を落とした。
「戦士としての才能が無いお前には子を残してもらう」
隣で頷く母の笑顔がやはり不気味だった。
「男たちはこちらで用意した」
「男……たち……?」
「しかしお前はまだ若い。肉体の成熟こそ強靭な戦士を産むために……」
「おい、無視してんじゃねぇぞ。まずな、父親が娘の体のこと言ってくるのクソ気持ち悪いからな」
「黙れ。お前はこれから母親として……」
「御託はいらねぇよ。そっちの要望は全部飲んでやる、それでいいだろ」
母親が自分の口調に驚いているのが伝わってくる。
弱々しかった娘の成長。お互いになんの関心もなく、愛もない。
アルーゼはゼアルしか見ていない。
「その代わり交換条件だ。師匠、エースケ、ツァル子、もちろん他のみんなにも絶対に手ぇだすな」
「いいだろう」
ゼアルはそう言うと、家を出てどこかへ行ってしまった。
アルーゼは母親から逃げるように自分の部屋、といっても眠るためだけの部屋に寝転がった。全身から力が抜けて立ち上がれなくなる。
交換条件。すなわち逃げる気はないと宣言した。
これが夢だったら。
かつて夜空を眺めながら眠ったようにアルーゼはゆっくりと目を閉じた。
********************
アルーゼの放つ気迫、口調、それらは時折ノアと重なる。
その度にゼアルは自分の過去を思い出していた。
ルゼアチノという名が無い時代、ゼアルの生まれる前からこの土地は常に"誰か"に支配されていた。
その"誰か"は分からない。
ゼアルの過去。
村の人々、祖父母や両親が月に一度、豪華な竜車に乗った"誰か"に頭を下げている。
地面に額をつけて、這いつくばって、理不尽に蹴られても踏まれても石をぶつけられてもへらへらと笑い、必死に育てた食べ物のほとんどを渡している光景。
ゼアルもまた、地獄で生きていた。
「いいかゼアル。逆らうなんて考えちゃいけない。みんなで生きていくには力を合わせることが大切なんだ」
「……父さんは、悔しくないの」
痩せた祖父母と両親。育てた食べ物はほとんどが”誰か”の腹に収まる。
弟はついこの間、死んだ。
「悔しくないよ。生きるためだからね」
そう笑っていた父は瘦せ細ってあっけなく死んだ。
なにが生きるためだ、と叫んでやりたかったが、そんな気力もない。
ゼアルは暗いどん底にいた。
「ねぇ、ゼアル」
金色の髪の少女が花を持っている。白い花びらの小さな花だった。
少女は花をそっと父の墓に置いた。
「私は……悔しいよ」
少女の涙が、膨らんだ土に染みこんでいく。
生きるために屈して、ひれ伏して、そして死ぬ。
支配に立ち向かおうとせず、目を逸らし、これは生きるためだと己を肯定する。
「……俺もだよ」
幼いゼアルの髪は錆びた金色で、小さく細い体は支配されている証のようだった。
「ゼアル! 早く来なさい!」
母の声で"誰か"が来たんだと理解した。
二頭の肉食恐竜が引いている竜車に乗った男。
声を知っているだけで顔は一度も見たことがない。
「前へ出せ」
一人の護衛の声を合図に、人々が食べ物を差し出していく。
額は地面につけたまま、絶対に”誰か”を見ては行けない。
なにがあっても決して。なにをされても決して。
少し前に、竜車を引く恐竜に子供を食わせたいと"誰か"が言うと、拒否した両親が子供の目の前で殺されて、結局その子供も食われた。
「おい。少ないぞ」
護衛の一人がゼアル一家の前で止まった。
"誰か"がゼアルたちを見下している。
「大変申し訳ございません。主人が亡くなり人手が減ったものですから。しかし人数分は用意させていただきました。どうか、どうかお納めください」
押収される食料は家族の人数によって異なる。
父が死に、祖父母と母とゼアルの四人だけだった。
その時、見下していた”誰か”が吹き出して、笑い声が響いた。
「そーか! そーか! 死んだか! 気色悪い薄ら笑いをする馬鹿で面白いやつだと思っていたのに!
それは残念だな! ははっ!」
"誰か”は父の死を笑った。
父の言葉を思い出し、汚い笑い声が脳をかきむしる。
父を殺したのはお前だ。
ゼアルは歯を食いしばった。
「おい、なにを黙っている。お前も笑わんか」
空気が冷たくなる圧。支配者だけに許された強制力。
母親の笑い声が響き、ゼアルは絶望した。
「はっ、ははっ、ははは、ははっ」
「なんと! この女! 夫が死んで笑ってるぞ! 貴様らも笑え!」
護衛も竜車に乗っている女も笑っている。
祖父母も、村のみんなも笑っている。笑っていないのはゼアルとノアだけだった。
父の死が笑われている。
ゼアルは怒りでどうにかなりそうだった。
「いやぁ笑った笑った。……よし、その女を殺せ」
ゼアルの母親は思わず顔を上げてしまう。
「どうして!」
「子供が二人いるではないか。数も数えられないウジは死ね」
ゼアルの隣にいたノアが指をさされた。
ノアは隣に住む幼なじみであって家族ではない。
ゼアルが目を見開いた。
「(しまった!!!)」
「私の家の子ではっ」
母の叫びが途絶える。
地面に広がる生ぬるい鮮血がゼアルを赤く染める。
"母親が死んだ"。
鉄の臭いがする血だまりの上でゼアルは土下座し続けていた。
「許しもなく頭を上げ、それに止まらず口ごたえなど。おい、腹が立った。その老人も殺せ」
理不尽の極み。
言葉一つで家族が奪われる。
"祖父母が死んだ"。
血だまりの上でノアは絶望し、涙を流している。体を震わせ、ただ涙を流している。
「大丈夫……俺は……大丈夫だから」
ゼアルの言葉はノアには届かなかった。
「なんだ、泣き喚くと思ったのだがな。小僧、腹が立ったから、ついお前の家族殺してしまった。許せよ」
その日の夜、ゼアルはノアの家にいた。
ノアは魂が抜けたかのように遠い目をしたまま、小さな声でゼアルに謝り続けていた。
左頬が赤くなっているのを見て、ゼアルはノアの両親を睨んだ。
「なんでノアを叩いたんだ」
「なんでって……」
「叩かれる必要がどこにあるんだ」
「この娘のせいであなたの家族は……!」
「ノアは父さんの墓参りをしてくれたんだ。俺の隣にいたのも俺が連れてきたからだ。母さんが死んだのはあいつに反論したからだ。……もう一度聞くぞ。なんでノアを叩いたんだ」
大人は弱い。支配する人間も支配される人間も全員が弱い。
そして、自分は大人よりも弱い。
翌日、ゼアルは薄暗いジャングルへと姿を消した。
弱者たちはゼアルを忘れ、またいつもと変わらない日常が始まった。
********************
村を離れ大自然に単身で飛び込む、未知の世界での生存競争。
この生活こそがゼアルの根源であると言える。
誰にも見つからないよう、とにかく奥地へと入りこみ、死なないための努力を死ぬ気でやった。
初めて肉食恐竜に出会った時の高揚感。
細く小さい体が屈強になっていく達成感。
怪我を負い、死にかけた絶望感。
ゼアルは大自然で生き抜くセンスがあった。
忍耐力や判断力、運動神経や動体視力、五感や運などゼアルは大自然に適応していったが、体にはいくつもの古傷が刻まれている。
時間感覚は失われていたが、ゼアルはふと村の様子が気になり、高い樹の頂上から辺りを見回した。
「……」
錆びた金色の髪は生命力がみなぎることで光沢のある金色に変わった。
ぼんやりとした記憶を辿って村を見つけたが、そこには崩れた建物が残されているだけで、大部分がジャングルに飲み込まれていた。
まるで時間が何十年も進んでしまったかのようで、崩れた壁や屋根は深い緑色に包まれ、人が住んでいる場所から人が住んでいた場所へ変貌していた。
「ノア!!」
声がこだまする。人の気配はまるでない。
ノアが死んだ可能性、”誰か”という標的を失った可能性。
行き場のない怒りに震えたが、後日、ゼアルは別の集落を発見した。
「おい! 早くしろって!」
ゼアルは動きをピタリと止めた。
聴覚を研ぎ澄ます。
「きゃっ! もぉ! 乱暴なんだから!」
「ひひっ! お前から誘ったくせに! ここなら誰もいないだろ、ほれほれさっさとおっ始めよぉぜぇ」
男はガチャガチャとズボンのベルトを外している。
「もぉ、そんな焦んないでよ」
「ひひっ! もう我慢できねぇ!」
ゼアルが飛び出そうとした瞬間、
「キュピッ!!」
股間に膝蹴りがめりこみ、男が意味不明な言葉とともに地面に倒れる。
ゼアルは、間違いない、そう確信した。
気絶した男をどこに隠そうか悩んでいると、草木が揺れる音とともにゼアルが姿を見せた。見慣れた金色の髪。成長し顔立ちが少し変わってもゼアルはノアだと見抜いたが、ノアは目の前の人物が何者かすぐに理解できなかった。
「ゼ……アル……?」
身長は自分よりずっと大きく、顔つきは昔とは明らかに違う。
全身の筋肉が発達して、姿が幼少期の記憶と合致しなかった。
「……本当に、ゼアルか?」
鼻を突く血の臭いにノアの足が止まる。
面影があるが戸惑いもあった。
けれどノアはゼアルの胸に飛び込んだ。
今はただ、再会の喜びをかみしめて、過去の行いを号哭の中で謝罪する。
ゼアルは何度も何度も謝るノアを抱きしめた。
しばらくしてノアは何度もゼアルの筋肉をペチペチ叩き、自分の腕や脚と比べ、「ちょっと声出して」と言ってはゼアルの低くなった声を聞いて笑顔になった。
弱々しかった体は筋肉質になり、背が高く、顔も……まぁ、タイプって感じで。
「ノア。俺と会うのは何年振りだ」
ノアは少し顔を赤らめてビクッとした。
「な、七年ぶり。私とゼアルは十七歳ってわけ」
「そうか」
ゼアルはさして驚くこともなく、歩き始めた。
「おい! どこ行くんだよ!」
「あいつを殺す。居場所を教えてくれ」
現実になる。ノアはそう感じた。
地面に這いつくばり、家族の血だまりの上で怒りを押し殺した少年が支配を覆す救世主として帰ってきた。
「どうした。早く教えろ」
今も"誰か”の支配は続いている。
ノアが男をここに連れてきたのも武器を奪うためで、彼女なりの処世術で生きてきたがそれでも支配に抗うことはできなかった。
「本気なのか」
村の大人たちは完全に屈服し、支配に終わりは見えない。
”誰か”を引きずり下ろすこと望んでいたノアはゼアルを導いた。
弱者に造らせた弱者の城。木造の大きな建物は、村の人々からすれば豪邸だった。
武器を持った護衛、命令に従順な女たちは傲慢な王を甘やかせば人間として扱われるため、逆らわず、必死に王座を支えていた。
弱者の食べこぼしを食べる弱者、そんなものに用はないと、ゼアルは容易く護衛たちを殺していく。
”誰か”の恐怖支配に便乗していただけの護衛はパニックになり、叩きつけられ、へし折られ、握りつぶされ、瞬く間に蹂躙された。
騒ぎは広がり、女たちの悲鳴が響く中、ゼアルが”誰か”を発見する。
顔を見ることすら許されなかった男は、奪った食料を食らい続け丸々と肥えていた。
屈辱。その一言に尽きる。
この醜悪な男に支配されていた現実に吐き気を催し、ゼアルの怒りが頂点に達する。
誰一人として醜悪な豚を護ろうとする者はいない。
短い腕を振り回し大声で罵声を飛ばしているが、ゼアルは言葉として聞き取ることができなかった。
肥えた体では自力で立ち上がることも出来ず、ベッドの上から叫ぶことしかできない哀れな弱者。
首のぜい肉を掴み、ベッドから引きずり下ろす。怯えたその目に慈悲など無い。
ゼアルは男の口に向けて全力で拳を振った。歯が砕け、血を吹き出す男の口にゼアルの拳がめり込む。
顎が砕け、頬が裂け、激痛に悶絶する醜い悲鳴が女たちを震え上がらせた。
家族を奪われた復讐、ではなかった。家族もまた弱者、死んだ原因はただそれだけ。
無慈悲な恐竜化。
ゼアルの全身が鱗に包まれ、男の口にねじ込んだ拳がみるみる巨大化し、恐怖と激痛に叫ぶ男の頭部が膨張して果物のように爆ぜた。
巨人が現れ、建物を崩していく光景をノアは茫然と眺めていた。
むせかえるような血の臭い。ゼアルの家族が殺された日と同じ臭いだった。
ゼアルは建物を破壊し、全員を踏み殺した。
王座の崩壊、支配の崩壊。轟く新たな王の咆哮。
絶対なる強者の降臨。
ルゼアチノはこうして誕生した。
********************
支配の終息。
ゼアルは生き残った人々を一か所に集めた。
集まった人数はゼアルとノアを含めて僅か十数名だったが、一つの居住地を集中的に開拓することで、人口を増やしながら着々とルゼアチノの基盤は完成していった。
「ここをルゼアチノと呼称する」
ゼアルは長となり、幼なじみだったノアと"婚約"を結んだ。
法を作り、仕事を作り、生活は循環していく。
そしてゼアルとノアが十八歳の時、子供が誕生した。
「ははっ……可愛いなぁ……」
女の子はアルーゼと名付けられた。
だが、ここで大きな問題が発生する。
「我々ルゼアチノは外部の者たちと決して交流しない」
というゼアルの意見と、
「いいや! 交流して発展するべきだ!」
というノアの意見がぶつかった。
「環境を崩さず、規律を重んじ、研鑽を積み重ねてこそ巨竜の民は強者であり続ける。弱さとは伝播するものだ。奴らは弱い。関わり合えば、我らの誇りが汚され、たちまちにルゼアチノは衰退するぞ」
「外の世界と繋がれば、物資や情報が手に入るんだ。このまま人口が増えれば何もかもが不足する。過剰なこだわりは身を滅ぼすだけだ。……ゼアル、お前の考え方じゃ、ルゼアチノは衰退どころか崩壊する」
議論はノア派が優勢であったが、ある日、事件が起きる。
ルゼアチノ領地に侵入した冒険者が殺されたのだ。
これにより集会場設置を拒否し続けていた件も含めて、調査を名目に騎士団が領地へ侵入、騎士団とゼアル派が戦闘を開始し、結果は騎士団の全滅という惨劇が起きてしまった。
「騎士たちを殺すなんて!」
「強引に侵入してきたのはやつらだ」
「当然だ! ルゼアチノは認可されてないんだぞ!」
「認可など不要だ。ここは我らの領地。否定することは断じて許さん」
騎士団とゼアル派の戦闘は苛烈を極めたが、ゼアルがいる限りルゼアチノは陥落しない。
そしてついに運命の日が訪れた。
「ルゼアチノを治めるは巨竜の民。治世の意志に背く者たちを民と認めることはできない。よって、貴様らをルゼアチノから"永久追放"する」
こうしてノア派は一斉に追放された。
「アルーゼは私が育てる」
「ならん。アルーゼはルゼアチノを護る戦士となるのだ」
「なに言って……!」
「貴様は追放者だ。追放者がルゼアチノに立ち入ることは大罪。罪を犯せばアルーゼを殺すからな」
「離せっ! アルーゼ! アルーゼ!!」
ノアの手はアルーゼに届かなかった。
アルーゼには新たな母親が与えられ、戦士として育成、地獄の日々が始まる。
「……アルーゼ」
だがノアは諦めなかった。
アルーゼを助けるために様々な道具、技術、知恵を身につけ、再びルゼアチノの地へ踏み入った。
監視としてゼアル派の戦士が送られていたため、派手な行動が起こせず、アルーゼと出会ってからルゼアチノ領地内で生活していたのも、街にいるほど逃亡生活を送る必要があったためである。
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アルーゼからの交換条件を了承したゼアルは闘技場へ向かっていた。
そこは屈強な戦士を作り上げるための訓練場でもあり、四名の戦士が並んでいて、エウロパの姿もあった。
「子供を二人、殺してこい。手当たり次第で構わん」
アルーゼが連れ去られた日、始末を任された戦士たちはエースケの暴走とトリケラによって倒されている。彼らが帰還しないことはエースケたちの生存を意味していた。
戦闘のプロである戦士たちは、素人の子供二人に大袈裟ではと感じていたが、ゼアルに意見を述べるものなどルゼアチノにはいない。
「確実に殺せ」
「はっ!」
エウロパは男三人とともに行動を開始した。
アルーゼの交換条件は無視され、エースケたちに戦士の魔の手が迫ろうとしていた。




