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婚約破棄された加護なし令嬢、王子が「誰かこいつをくれてやる!」と叫んだら救国の英雄が手を挙げた  作者: 杓子ねこ


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36/42

36.白い結婚 とは

 冷たい井戸の水を浴びても腹の底にたまった煮えたぎるような怒りはおさまらず、ベネディクトは足早に廊下を歩く。

 手に持った剣がガチャガチャと音を立てて、彼の心がすさんでいることを伝えてくる。

 

(あれだけ脅したから、明日には帰ってくれるとよいが――)

 

 そうすればサーラも気が休まるだろうと考えながら部屋のドアを開け、

 

「あ、ベネディクトさ――きゃああああ!!」

 

 なぜかサーラの叫び声に出迎えられたベネディクトは、自分が上半身に服を着ていないことを思いだした。

 

 

***

 

 

 読んでいた本を放り投げ、思わず悲鳴をあげてから、私は気づいた。

 

 ベネディクト様のお部屋へ案内されることを、私は予想していなかった。そういえば妻だからそうかと納得しただけ。

 ということはつまりベネディクト様も、私がお部屋にいるだなんて思っていなかったのだ!

 

「も、申し訳ありません!! この部屋へ案内されたので……!」

「……サーラ……そうか、妻だものな……俺こそ、すまない」

 

 慌てて椅子から立ちあがり本を拾う私に、状況を把握したベネディクト様がいつぞやのような台詞を呟いた。

 ただ、今回は手で隠しきれない頬が赤く、目が泳いでいる。

 

 先ほど、部屋に入ってきた瞬間は険しいお顔をされていたように思ったけれど、それどころではなくなったのかもしれない。

 

「とりあえず、服を着る。すまない、入るぞ」

「はい、わ、私も、むこうを向いていますね」

 

 水を浴びてきたらしいベネディクト様はズボンしか身に着けておらず、手で剣をつかんでいた。いつも束ねている亜麻色の髪は肩にたらされてしっとりと濡れ、傷跡の多い肌に別の曲線を添えている。

 

 背中を向けたら、逆にごそごそと動くベネディクト様の気配をよく感じるようになってしまった。

 頭の中に、先ほど見た鍛え上げられた体と、無数の傷跡がよみがえってくる。

 

(あれが、国を守る騎士の……魔獣と戦うベネディクト様の、お体)

 

 白い結婚なので、もちろん見たことはなかった。ベネディクト様は私の前で、ボタンをはだけたこともない。時々だらしない格好をしていても、シャツがズボンから出ているとか、そのくらいだった。

 

(煩悩!? これは煩悩なの!?)

 

「サーラ」

「はひゃいっ!!」

 

 消えない姿を消そうと首を振っていたら、後ろからベネディクト様に声をかけられた。

 思わずまた叫びをあげてしまう。

 

 私の剣幕に驚いたのか、ベネディクト様もびくっと体を震わせた。

 シャツを着たベネディクト様は、先ほどまでとは違って、いつもの……やわらかな雰囲気をとり戻していた。

 

「お、驚かせたか。申し訳ない……」

「いえっ! 私こそ……あの、ベネディクト様がいらっしゃったら、部屋を移動しようと思っていて! ブーちゃんがついてきてしまったのです!」

 

 腕にかかえたブーちゃんを突きだすようにして私は言った。

 

「部屋を移動する?」

「はい。だって私たちは、白い結婚で……」

 

 ベネディクト様がくり返すのにあわせて、私は大きく頷く。

 けれど、ベネディクト様は目をぱちぱちとさせたあと、「その件だが」と咳払いをした。

 

「そもそも、白い結婚にする必要があるのだろうか」

「えっ」

 

 ぎゅっとブーちゃんを抱きしめてしまったせいでブーちゃんが「ブッ」と鼻を鳴らす。

 

「えっ、あ、いや、不埒な意味ではなく」

 

 ベネディクト様が慌てて両手を振った。

 そのうちの片手が私を示す。

 

「君は、王都に帰りたくない。だから俺と結婚した」

「はい」

「俺も、君を王都に帰したくない」

「へっ」

「誰にも渡したくないんだ」

「ほわっ」

「ずっとゼンコールド領でゆっくりまったり暮らしてほしい……俺はそんな君のそばにいたい」

「……ゆっくりまったり……」

「君はどうだろうか」

「それは……私も、ゼンコールド領で――ゼンコールド家で、ずっと暮らしたいと思っています」

 

 ばっこんばっこんと驚きに跳ねていた心臓が少しずつ平静さを取り戻す。

 私は胸に手を当て、静かに息を整えた。

 

 一瞬情熱的に聞こえるベネディクト様の台詞は、最後がちょっと思ってたのと違った。

 ゆっくりまったり暮らしているのをそばで見ていたい――。

 

(ブーちゃんに対するのと同じ気持ち……!!)

 

 腕のなかのブーちゃんを見る。

 

 どうやらベネディクト様にとって私は、妻というよりも庇護対象。ペットとまではいかないまでも、守りたいと思われているらしい。

 ありがたいけれど、出会った当時の私は、そんなに疲れた顔をしていたのだろうか……。

 

「君も、ここにずっといたいと思ってくれている。俺の妻であることに不満もない」

 

 私の言葉を受け、ベネディクト様は腕組みをして頷いた。

 

「だとしたら、対外的にも『白い結婚』である必要はない」

「……たしかにそうですね」

 

『白い結婚』とは夫婦の交わりを伴わない結婚生活を指す。わざわざそんな言葉があるのは、白い結婚を3年続ければ結婚の取り消しができるからだ。

 

 この場合、結婚した事実が取り消されるため離婚ではない。

 要は、婚歴そのものの抹消である。

 

 ただ、私は3年たってゼンコールド家を出ていきたいわけではない。むしろ末永く暮らしたいと思っているので、結婚がなかったことになる『白い結婚』の余地を残しておくより、ベネディクト様と同室ですごし既成事実を作っておいたほうが王都に戻れとも言われづらい。

 

 ダレル殿下とレティアが私にしたかった話は、十中八九『王都に戻ってきて政務を手伝え』だものね。

 

 納得していたら、ベネディクト様が私の手をとった。

 

「今だけ、君に触れることを許してほしい」

 

 真剣なまなざしが私を射抜く。

 私を見つめたまま、ベネディクト様は床に片膝をつくと、私の手の甲に口づけを落とした。

 

「俺が君を守る」

 

(……!)

 

「この砦で俺が一番動ける。俺の隣で寝るのが理論上最も安全だ」

 

 あ、そういうことですね。

 魔獣に対する安全面でも、ダレル殿下やレティアに対する安全面でも、たしかにベネディクト様の隣が一番いい。リシャにもくれぐれも離れるなと言われたし。

 

 ベネディクト様、ロマンチックな言動をくりだしてくるけれど、すぐに現実に引き戻してくださるので助かります。

 

 あと、ブーちゃんも。

 自分を置いて話が進んでいることに気づいたのか、さっきから「ブッブゥ」と抗議の声をあげて鼻先を私の肩にすりつけている。

 

「わかりました。では失礼して、部屋はこのままで」

 

 今度はベネディクト様を威嚇し始めたブーちゃんを抱え直し、私は頭をさげた。

 

 *

 

 夕食は騎士団の皆さんと食堂でとった。屋敷と同じ、全員同席スタイルだ。量の不公平をなくすためよそうのは配膳係だけれど、おかわりもできる。

 ダレル殿下とレティアは、

 

「あんなやつのいるところで食事などできるか! 俺たちは部屋でとる」

 

 と食事を部屋へ運ばせたそうだけれど……なにがあったのかしら?

筆がノリノリでけっこう書けたので2回更新にしてもいいですか!

\イイヨー!/

ということで20時にもう1話更新予定です。

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― 新着の感想 ―
…白い結婚から白抜きになった場合、初夜ってどうなるんだろう?
あああっもうっ!!もうっっ!もう!! です!!
更新予告! 嬉しいです、楽しみにしていますね。
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