30.新しい事実
飼い主さがしもかねてブーちゃんを連れ、私は数日に一度町へおり、魔道具工房も覗きにいった。
毛皮の新商品作りは、また想像以上のとんとん拍子に進んでいた。
「意外に罠の耐久性が高く、職人の手が空き始めていたもので、本当によいタイミングでした」
魔法耐性を持った罠は捕獲された魔獣が多少暴れたくらいでは壊れず、一方の生産体制は王都からの増員で強化されたため、在庫が余りつつあったそうだ。
ゼンコールド領以外には売れない罠を余るほど作っても、仕方がないものね。
そんなわけで、ルクマイヤいわく『魔道具組合の未来を賭けた新商品』の第一号はすぐにできあがり、王都へと送りだされていった。
商品の発送を見届け、「またお越しくださいませえっ!!」の声に見送られて、私も工房を出る。
そのあとはいくつかお店によってブーちゃんの飼い主の心当たりを尋ねてみたけれど、誰に聞いても、
「ウサギ……それが……? わかりませんねえ」
と首を振るばかりだった。
*
馬車に乗って屋敷へ戻る道すがら、私は考えた。
『魔鉱脈があれば、さらに魔道具を作ることができますよ。奥様がいらしてからゼンコールド領は発展の一途ですな』
見送りのルクマイヤはそんなことを言っていたけれど。
ベネディクト様がロックベルさんに土壌魔力の調査を依頼したのは、ベネディクト様の頭にも魔鉱脈の可能性があったからだろう。
(けれど、魔鉱脈は、数年で魔獣を倍増させるようなものなのかしら?)
ゼンコールド領の支出は3年で倍になっていた。魔獣の討伐記録からも、魔獣は倍増している。
自然な魔力の流れにしては、変化が急激すぎないだろうか――。
「あら?」
屋敷の正面玄関へ続く道で、私は窓から顔を出した。
馬で前を行くのはベネディクト様だ。その後ろには、ロックベルさんもいる。
ベネディクト様とロックベルさんも馬車に気づいたようで、こちらに向かって手を振ってくれる。
けれどふたりとも、その表情には緊迫感がまじっている。
(……魔鉱脈は違ったみたいね)
私も表情を引きしめて、馬車を降りた。
屋敷に戻った私たちは、すぐに応接間に集まった。
ベネディクト様が、テーブルに1枚の紙を置く。
「土壌魔力の調査結果だ。ロックベルが砦へ持ってきたのだが、君にも見せたほうがよいと思って降りてきたんだが……それは、なんだ?」
「ブゥッ! ブウゥゥッ!!」
ベネディクト様の不躾な視線にブーちゃんが怒りの鳴き声をあげる。
「魔獣……」
「ではありません。野菜を食べます。ウサギです」
「そうか、ウサギか」
これで話が通じるから、ベネディクト様はすごい。
ブーちゃんを抱え、私は紙を覗き込んだ。土壌を採取した地点と、残存魔力の値が書かれている。
どの地点でも、残存魔力は平均的な値を指していた――つまり、魔獣の増加は、魔鉱脈が原因ではない。
「念のため、魔獣の出没しない地域でもいくつかサンプルをとってみた。しかし変わりなし」
ロックベルさんが肩をすくめる。
「魔獣増加の原因はわからない、と?」
「少なくともゼンコールド領の環境に惹きつけられているわけではないらしい。もし大きな魔力を発するなにかがあり、それを目指して魔獣がやってきているのだとしたら、残存魔力濃度にも影響が出るはずだ」
私の問いにベネディクト様が答え、眉根を寄せた。
「原因は確定できない。だが推測はできる。ゼンコールド領に理由がないのなら、理由は外にある」
「魔獣の大量移動が発生する原因は、大きくふたつです、サーラ様」
ロックベルさんが私を見た。
ベネディクト様も顔をあげ、私をじっと見つめる。
私にもふたりの言わんとしていることがわかってきた――ふたりがなぜこんなに緊張した表情なのかも。
魔獣はこれまでにない速さで増加した。しかも、小型の魔獣まで現れている。
しかしゼンコールド領内に魔獣を発生させる魔力があるわけではない。
「内側のなにかに惹きよせられてではないのなら、その逆……外側から、なにかに追われてきた、ということですか」
ベネディクト様が『救国の英雄』と称賛され、公爵位を得たのは12年前。
――王都を襲ったドラゴンを、撃退したときだ。




