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婚約破棄された加護なし令嬢、王子が「誰かこいつをくれてやる!」と叫んだら救国の英雄が手を挙げた  作者: 杓子ねこ


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29/40

29.ブーちゃんとの1日

 ブーちゃんの登場で、私の1日はわずかながら変化を得た。

 

 まず、起床。

 毎朝リシャが私を起こしにきて、紅茶を淹れ、身支度を整えてくれるのだけれど、そのリシャの盆に野菜をのせたお皿が追加された。

 

「おはようございます、奥様。お着替えを手伝わせていただきます」

 

 私が顔を洗い、リシャに髪を整えてもらったりドレスを着たりする隣で、ブーちゃんのバスケットからは「シャリシャリシャリシャリ……」と小気味のよい音が聞こえてくる。

 

 初めての日の朝は身支度のあいだブーちゃんを待たせていたら、力強い足踏みの音が止まらず、バスケットが壊れるかと思った。

 

 ウサギは要求がある時や怒りを表す際、後ろ足をダンダンと踏み鳴らすそうだ。

 慌ててリシャに野菜を持ってきてもらったら収まったので、お腹が空いていたみたい。

 

「お待たせ、さあ行きましょう」

 

 着替えをすませた私は、ブーちゃんを抱きあげる。

 ブーちゃんは顔をつきだして花瓶に活けてある花の香りを嗅いだ。食べ物ではないとわかっているみたいで、口は閉じたまま、じーっと、長い毛の奥から花を見つめている。

 

「これはね、ベネディクト様のくださったお花よ。とってもきれいだったの」

 

 あれからもう1週間以上がたつ。

 花は徐々にしおれて、花びらも色あせてきた。それでもなんとなく捨てることができずに、飾り続けている。

 

 ブーちゃんは私を見上げ、よくわからないというように首をかしげた。

 

 *

 

 朝食はいつもどおり、食堂でみんないっしょのビュッフェ形式。ただし私の席の隣にはブーちゃん用のバスケットが置かれ、中には野菜の盛りあわせが用意されている。

 ブーちゃんはプゥプゥと鼻を鳴らして野菜にかじりついた。

 

「ブーちゃんじゃなくて、プーちゃんにしたらよかったかしら」

「どっちもどっちかと思いますが……」

 

 ジェイスに苦笑いをされてしまったけれど、あなたもブーちゃんに骨抜きなのは知っているわよ。

 いまも撫でようとバスケットに手を入れては「ブゥウッ!」と威嚇されている。足ダンつきなので、食事の邪魔は大罪のようだ。

 

「ほれ、野菜のおかわりですよ」

「よく食べるわねえ、おいしいでしょう」

「ププゥ!」

 

 デルクとカレンがやってきて野菜を入れると、ブーちゃんは鼻と尻尾をぴこぴこ動かしてよろこんだ。

 このふたりのことは覚えたようで、近づくだけで大歓迎。

 ウサギってかしこいのね。

 

 

 食事のあとは畑仕事。

 これまでは午前中を仕事の時間にしていたけれど、入れ替えることにした。

 

 私が畑に水をまいたり雑草を抜いたりしているあいだ、ブーちゃんは散歩がわりに周囲を散策する。

 お腹がいっぱいなおかげか、野菜を荒らすこともしない。

 

 しばらく作業をしていたら、屋敷の裏口が開いて、リシャが布袋を両腕に抱えて出てきた。

 

「奥様ー! 肥料の追加お待たせしました――」

「あっ、だめよ、そのあたりは土を耕したばかりだから……!」

「きゃああああ!!」

 

 私の忠告は遅かった。

 リシャが横切ろうとした区画は、次の苗のために土を掘り起こして肥料をまぜていた場所。根菜や根がよく育つように、土はふかふか。

 

 重い肥料で両手のふさがっているリシャは、ブーツごとずぼりと土に足を突っ込んでバランスを崩し、畑に尻もちをついた。

 私も慌てて駆けよる。

 

「あっ、ひ、肥料が」

「いいわ。それより足は大丈夫? 土から抜ける?」

「はい、大丈夫で――痛っ!」

 

 足を引いたリシャが顔をしかめる。

 やはり足をひねったらしい。さっきのよろけ方、危ないと思ったのよ……。

 

「待ってて、人を呼ぶから」

 

 そう言って私が立ちあがった時だった。

 ぴょこん、と私の後ろから顔を出したブーちゃんが、リシャの足にこつんと額をあわせた。

 

「プキュッ」

 

 そんな、かけ声のような声を発したと同時に、ブーちゃんの白く長い毛が光り輝いた……ような気がした。

 

「え?」

 

 私はぱちぱちと目を瞬かせた。

 

(これは――?)

 

 確かめる前にリシャが「あれっ」と声をあげた。

 

「痛くありません! そこまでひどくなかったのかも」

 

 その言葉どおり、リシャは自分で立ちあがると、落としてしまった肥料を抱え直した。

 

「お騒がせしました」

「本当に大丈夫? さっきはとても痛がっていたようだけれど」

「痛い気がしたんですが……今はもう大丈夫です」

 

 リシャは足首を動かし、ブーツの爪先をあちこちに向けてみせた。たしかに、思ったほどではないみたい。

 

(一瞬、ブーちゃんが魔法を使ったのかと思ったわ……そんなわけないか)

 

 回復魔法は聖魔法だ。ブーちゃんが魔力を持つ魔獣だとしても、使えるのは攻撃魔法で回復魔法は使えない。

 

(光ったように見えたのも、白い毛がおひさまに反射したのかしら)

 

「奥様、肥料はどこにまけばいいですか?」

「ああ、それはね、こっちの区画に」

 

 リシャに話しかけられて、私は我に返った。

 ブーちゃんはいつのまにか白いお尻を向けて別の畑を覗いている。

 

 しばらくふりふりと揺れる尻尾を眺めていたけれど、ブーちゃんはもう光らなかった。

 

 *

 

「やっぱり、勘違いかしらね」

 

 1日の仕事を終え、寝る支度をして部屋に戻った私は、ブーちゃんをバスケットに帰した。ブーちゃんはすぐに毛布のところへ行き丸くなる。

 顔や長い耳が見えなくなってしまうと、本当に丸い毛玉だ。

 

「おやすみ、ブーちゃん」

「プゥ……」

 

 ひと声お返事をしてくれたブーちゃんは、そのままプクククク……と寝息を立て始めた。

 

(……やっぱり、プーちゃんのほうがよかったかしら?)

 

 かわいらしい寝息に頬をゆるめつつ私もベッドに入ろうとして、ふと気づく。

 

「ベネディクト様のお花が元気になってる……」

 

 力なくうなだれていた花が、色つやを取り戻していた。花びらも瑞々しく張っている。

 今日はよく晴れていたから、日中の日当たりがよかったのかもしれない。

 

 いまはいないベネディクト様を思いだし、私はそっと花を撫でた。

昨日、連載中ランキング週間2位と書いたのですが、今日1位でしたー!

初の快挙!ありがとうございます!スクショしました☆

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― 新着の感想 ―
更新( ノ^ω^)ノありがと~♪作者様。 めっちゃほのぼのだった♡楽し~♪ (ブーちゃんゎやっぱり《聖獣》っぽぃ?…ってコトゎ彼女ゎ《愛し子》とか?《聖女》だったり?してw(*´艸`*)♪今後の展開に…
ここまで一気読みでした! 面白い!!! アーネストの横槍や実家凸など懸念は山積みですが、サーラ様のこれからのご活躍を楽しみにしてます!
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