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婚約破棄された加護なし令嬢、王子が「誰かこいつをくれてやる!」と叫んだら救国の英雄が手を挙げた  作者: 杓子ねこ


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21/24

21.試作品

 翌日は、朝食のあとベネディクト様とふたりで日課の政務をこなし、午後は魔道具工房へ顔を出すことにした。

 ルクマイヤから、試作品ができあがったのでお越しいただきたいと連絡が来たからだ。

 

 ルクマイヤはベネディクト様の顔を見るとぽかんと口を開けてしまった。

 

「ゼンコールド閣下……でございますか? 見違えましたぞ……以前の閣下は、捨て猫のような野犬のような……いえ」

 

 ゴホンゴホンとわざとらしい咳払いをして、ルクマイヤは首を振った。

 

 なんとなく想像はつく。

 これまでは疲れ果てた顔で視察に来るか、魔獣討伐帰りの殺気立った騎士に囲まれてここへ立ちよるか、のどちらかだったのでしょう。

 

 今日のベネディクト様は、ジェイスが大喜びしながら髪や衣装を整えていたものね。

 動きやすいシンプルな服装にジャケットをはおっただけだけれども、丁寧に撫でつけられた髪型とも相まって、公爵の威厳がある。このまま王都の晩餐会に出てもいいくらい。

 

「こんなことを申しあげるとなんですが、やはりパートナーで変わるものもあると言いますか……」

 

 ルクマイヤはなにやらぶつぶつと呟いていたけれど、「そうだ、罠の試作品でしたな」と顔をあげた。

 

「こちらへどうぞ」

 

 案内されたのは工房へつながるのとは別のドアだった。広い何もない部屋なので、こうして試作品などを置いておくための部屋のようだ。

 

 その部屋の中央に、大きな檻と小さな檻が並べられていた。

 

「こちらは小型魔獣用の罠です。最近はネズミやらウサギやらの魔獣までおりますから……土に埋めておくだけで、魔力に反応してふたが開き、落ちてくれるというわけです」

 

 ちなみにネズミやウサギといっても魔獣なので、大きさはネコくらいはある。騎士がいればすぐに倒せるが、樹々をかじって倒してしまううえに上位魔獣の餌になるため、増えすぎると厄介。

 

 さらにいえば、魔獣たちは倒すと一部の魔力を放出して消え、素材だけが残る。

 放出された魔力はめぐりめぐってべつの魔獣に吸収されてしまうため、全体の魔力量はなかなかさがらない。

 

 魔獣が増加しているということは、ゼンコールド領や国境沿いの地域で魔力の全体量が増えているということでもあり……この点についてもいずれ根本原因を解明しなくてはならない。

 

「こちらは大型魔獣用の罠です」

 

 ルクマイヤの言葉に私は顔をあげた。

 

「小型魔獣用の罠を囲うように設置しておきます。この檻は魔獣の骨に魔蜘蛛(グリムスパイダー)の糸を合成したもので、フハハハハこの合成は繊細な魔力調整を必要とし、王都の組合(ギルド)本部でもこの合成ができるのはほんのひと握り……! 合成の妙と言うべきもので――おっと、話が逸れました」

 

 魔力鑑定用のゴーグルをギラギラと光らせて熱っぽく話すルクマイヤは続きを語りたそうだけれど、とりあえずスルーさせてもらった。

 ベネディクト様が「罠の設置について教えてくれ」とうながす。


「実際に見ていただくのが早いでしょう。このように」

 

 ルクマイヤが手をかざした。魔力を流したのだろう、檻はふわりと光ったかと思えば、次の瞬間には見えなくなっていた。

 

「魔蜘蛛(グリムスパイダー)の糸はそれ自身に特殊な魔法がかかっており、周囲の生きものの目をくらませます。その糸を残存魔力のある魔獣の骨と合成することにより、檻自体を透明化しました。見えないだけで、ほらここに」

 

 ルクマイヤが手を上下させると、なにかを叩いているような音がする。檻はそこに存在しているようだ。

 私もおそるおそる手をのばしてみる。ざらりとした支柱の硬い感触があった。

 

「魔蜘蛛(グリムスパイダー)は小型の魔獣も捕食しますから、魔力による感知もできないようになっています。大型魔獣の罠としては最適でしたよ。いや、サーラ様のご慧眼には恐れ入ります。サーラ様からのご依頼がなければ、こんな合成を試そうとは思いませんでしたからな」

 

 揉み手をしながらルクマイヤは褒めてくれるけれど、私は驚きすぎて答えを返すことができない。

 まさかこんなにすごいものができあがるなんて、私は想像していなかった。

 

(これは……)

 

「これは兵器にも転用が可能なのでは?」

 

 私が思いついたことを、ベネディクト様も考えたようだ。

 しかし、ルクマイヤは残念そうに首を振った。

 

「いえ、罠のほかは、まあ見えない矢を作れるくらいでしょうな。あくまで蜘蛛の巣が獲物に見つからないようにするための擬態魔法なのです。合成したものしか透明にはなりませんし、合成できるのは同じような魔力を持つ魔獣の素材のみ」

「ああ……なるほど」

「『かぶれば透明になる毛皮』などというものはできないのですね」

 

 童話でそんなお話もあったけれど。

 透明になるのはあくまで毛皮だけで、それをかぶった人間に魔法は及ばない。

 

「たしかにそうか……魔蜘蛛(グリムスパイダー)自体は見えるからな。巣はまったく見えないから、俺も蜘蛛のいない巣には何度か顔を突っ込んだことがある」

「ひえ……っ!」

 

 ベネディクト様の言葉に思わず悲鳴をあげてしまう。

 私、虫は苦手だから、そんな目に遭ったら泣いてしまうかもしれない。やっぱり魔獣の討伐って、大変なお仕事だわ……。

 

「とはいえ重大な発見であることに変わりはありません。いずれ役に立つ組み合わせが見つかるでしょう」

 

 青ざめた私の態度を勘違いしたのか、ルクマイヤが慰めてくれる。

 

「罠としては十分にすばらしい出来だ、サーラ。ルクマイヤも腕を存分に活かしてくれたな」

「お褒めの言葉、光栄です、閣下」

 

 ベネディクト様も慰めてくださらなくていいんですよ。

 騎士団長と魔道具師と『加護なし』の私では、少し感覚が違うのかもしれない……私の感覚のほうが一般的だと信じたいわね。

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