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婚約破棄された加護なし令嬢、王子が「誰かこいつをくれてやる!」と叫んだら救国の英雄が手を挙げた  作者: 杓子ねこ


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16/23

16.まだ働くんですか!?

 期待どおりに商談を進めることができた私は、ほくほく顔で町のレストランにも立ちよった。公爵夫人であることが知られると気を遣うでしょうから、今日はおしのびで、少し裕福な婦人とでも思ってもらうことにする。

 

 いっしょに席についたリシャは、まだ工房でのやりとりが信じられないのか、ぽかんとした顔をしていた。

 ルクマイヤも工房の者たちも、最後にはちゃんとリシャやほかの者にも頭を下げてくれたからね。

 

「サーラ奥様……抜け目ないですね」

「ふふ、ありがとう」

 

 以前に魔道具工房の人々がジェイスにあまりいい対応をしなかったというのは、ゼンコールド家が彼らの取引先ではなかったからだ。

 

 工房がゼンコールド領にあるのは魔獣の素材が目当てなのだろう。しかし公爵家は普段から取引のあるコンラッド商会に魔獣の回収を任せ、工房はそこから素材を買い付ける立場になった。

 おまけにゼンコールド家はベネディクト様にならい皆が質実剛健、使用人も働きすぎ人間たち。最先端の魔道具や魔石宝飾品を買い揃えてはくれない。

 ルクマイヤに聞いたところでは、現在のところ魔道具の多くは王都へ出荷されているそうだ。

 もちろん武器を買ったり手直ししたりするために騎士たちは工房を訪れるが、それもゼンコールド家が主導しているわけではない。

 

「ジェイスはゼンコールド家の家計も預かっていて、工房へ行く理由は視察や監査でしょう? 向こうから見れば提携する気もなく得意先というわけでもなく、お目付け役だけ派遣してくる、って感じかしらと思って」

「たしかに、そう言われると……」

 

 リシャも納得した表情になって頷いた。

 

「私たちはゼンコールド家の者ですから、旦那様やジェイスさんのご命令を聞くのは当たり前のことで、向こうの態度が悪いと憤っていましたが」

「もちろん工房だって領主の許可を得て稼働しているわけだから命令は聞くけれど、彼らの本当の主人は王都の組合(ギルド)なのよね」

 

 今回はそこに恩を売れていたのもよかった。

 

「視野が狭かったんですね、私たち……まあ、工房の方々もですけど」

「そうね」

 

 反省しつつもやっぱり許せないらしいリシャに私は苦笑いを浮かべた。

 それぞれの利害もあるし、立場も、プライドもある。相容れない相手は常に存在するのだ。

 

(私も王都を飛びだしてきたけれど、結局王都とは切れない関係みたいだし……)

 

 それだけ積み重ねてきたものがあるのだと思うことにして、私は目の前の食事に向き直った。

 

「このサラダ、とってもおいしいわね」

「ありがとうございます。近くの村でとれた野菜を毎朝直送しているのですよ」

 

 料理を運んできてくれた店員が笑顔で答える。

 

「そうなのね。こんなにいい野菜がとれるなんて」

 

 レタスはシャキシャキ、パプリカはつやつや。甘みもあっておいしいうえに、食材の種類も豊富だ。

 こうした作物に手間をかけられるということは、ゼンコールド領自体には余裕がある。魔物の素材の売上もあるし、領地としては潤っているのだ。

 

 安全を保障し、経済を支えているのはやはり、ベネディクト様やゼンコールド家の人々。

 

 ベネディクト様はゆっくり休むようにと言ってくださったけれど、

 

(ベネディクト様や皆の状況(はたらきすぎ)を知りながら休むのは罪悪感が……)

 

 屋敷は落ち着いてきた。次はベネディクト様も休めるようになっていただきたい。

 あのいたわりの笑顔を思い出すたび、そう思う。

 

 *

 

 食事のあとは予定になかった苗市場にも行き、苗や種を買った。野菜に興味が湧いたのだ。

 

 馬車で屋敷へ戻り、さっそく屋敷の敷地内にある畑へ行ってみる。

 畑には屋敷で使う野菜や、傷薬になる薬草なども植えられている。近くには牛やヤギの小屋もあり、こうした設備はやはりここがただの領主屋敷ではなく、戦うための〝城〟であることをうかがわせる。

 

 動きやすいドレスに着替えて畑へ行くと、畑には数人の使用人が集まっていた。

 手に泥をつけ、野菜の入ったかごを持っているところを見ると、ちょうど収穫の最中らしい。

 

「奥様?」

「どうしてこちらへ?」

 

 不思議そうな顔になる皆に、私は腕まくりをして見せる。

 

「いっしょに収穫をしてもいいかしら? それで、終わったらこの苗を植えたいの」

「奥様、まだ働くんですか!?」

 

 意気揚々と言ったら、リシャに驚かれてしまった。

 

「てっきり、種と苗は庭師にお預けになるのかと……」

「あら、それならわざわざ着替えないわ。それに今日の仕事は魔道具工房へ行っただけでしょう」

「苗市場でのお買い物は視察では?」

「……まあたしかに、すべての苗をチェックして、売り主を質問攻めにしたわね」

 

 苗市場は見慣れない作物も多く、育て方や収穫量のほか、どこの原産なのか、どんな料理にあうのかと話が盛りあがってしまった。

 それを市場にあった店の数だけしたせいで、リシャに視察だと思われたようだ。

 

「趣味よ、趣味。収穫と植え付けをしたいのも趣味だから、息抜きだから! 体を動かすのも大切でしょう?」

「……かしこまりました」

 

 たしかに、これまで書類上でしか見てこなかった『1エーカーの土地』ってどのくらいなんだろう? とか、素人の私が生産まで持っていくには? 土の種類は? 肥料は? 植え付けの成功率は? 収穫に必要な人員は? と気になることはたくさんある。

 そうしたデータを集めれば、今後農業政策を行っていくうえでも役に立つだろうから。

 

 でも、趣味、趣味なの!

 趣味で買った苗を、自分で植えたいの! 趣味だから!

 

 説得すれば、リシャは渋々といった様子で頷いてくれる。

 午前中の商談はうまくいった。ランチは町のレストランで、午後は買い物と趣味の時間……最高の1日だと思うのだけれど、

 

「旦那様といい、奥様といい、仕事が趣味ですよね……」

 

 やや呆れをにじませるリシャに、私は頬に手をあてて眉をさげた。

 

 そう、なのかしら……。

次回はベネディクトが久々の登場です~。

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