14.工房長
「申し訳ありません! 先ほどは手が離せなくて……俺が、いえ、私が工房長のルクマイヤと申します。今日はどういったお話しですか」
「新しい魔道具の注文と素材の運搬について話したいのだけれど……本当に大丈夫?」
腰を低くして謝るルクマイヤは、あいかわらず真っ赤に熱された棒状の物体を握っていて、そこから火花が飛び散っている。
「ああ、申し訳ありません。魔力を流し続けなければならないのです。しばらくすれば収まります」
どうやら比喩ではなく本当に『手が離せない』らしい。
魔道具の制作現場を見たことはなかったから、興味深くはある。今度、見学をさせてもらえないかしら。
そんなことを考えて眺めていたら、ルクマイヤはにっこりと笑った。
「やはり胆力がおありなのですね。さすがはサーラ様です。普通は魔力に当てられてしまうものですが」
私は背後を振り向いた。
リシャやほかの同行人たちはルクマイヤを見て青ざめている。
大量の魔力を浴びると体調を崩す……というようなことはたしかに言われるけれど、私は平気だ。
なぜなら、己の魔法の才を国一番だと信じているダレル殿下が、しょっちゅう魔力で威圧してきていたから。
私が魔力を持たない『加護なし』であることも関係しているかもしれない。
しかしまさか、国境近くで魔力耐性を褒められるとは。
「えっと、私のことはどちらで……?」
「どちらもなにも、王都に拠点を持つ組織に所属していれば、知らない者はいないでしょう! 次期王子妃サーラ・マイリット様! 仕事は素早く的確、現場の意見も汲みあげてくださり、流行にも敏感で事業の天才!」
ルクマイヤが両手を振りあげて演説するかのように言う。
「流行に敏感だったのはダレル殿下ね……」
あまりの褒め言葉に私は目を泳がせた。
私自身は流行に疎い人間だった。忙しすぎて政務に関すること以外の情報収集ができなかったという理由もある。
新事業はいろいろと立ちあげたが、そのきっかけはいつもダレル殿下の思いつきだ。
そういう意味では、ダレル殿下は国にとって欠かせない人材だった、かも。
「魔道具組合に博物誌を寄贈してくださったではないですか。あれからぐんと効率があがりまして」
そういえばそんなこともした。
もともと博物誌は王立図書館にあり、王族以外の持ち出しは厳禁になっていた。これは王家の命で作られたものであることと、その際に知識を独占することを目的に定められた規定だ。
けれど、経済や産業を発展させるとなれば、知識の伝達は不可欠。百年前の博物誌でも十分に役に立つだろう。
というわけで、アーネスト殿下を説き伏せて写本を何冊か作り、王都の各組合に送った。
「あの博物誌のおかげで、魔物が分類しやすくなりました。百年前の生態と現在の違いもわかりますし、突然変異かどうかも見分けやすいですから」
「よかった。意味があったなら嬉しいわ」
思いがけず働きを認められ、私は表情をゆるませた。
ルクマイヤは反対に、表情を曇らせる。
「しかし、そのサーラ様が、なにゆえ公爵夫人に……? サーラ様が王家の一員だと約束されていたからこそ便宜を図っていた組合も多かったのに……ああ、いえ、なにかお考えがあってのことでしょう。無理に聞こうとは思いません」
いえ、お考えはなにもなく、婚約破棄された私を眠くて殿下を殴り飛ばしてしまいそうだったベネディクト様が拾ってくださったのです。
怪訝な顔になったかと思えばひとりで納得してしまったルクマイヤを訂正する気にはなれず、私はあいまいな笑顔で頷いた。
「それより商談でしたね。魔道具の注文と素材の運搬のお話、と」
笑顔の理由を察したルクマイヤはすぐに話を戻してくれた。こういうところは貴族だけれども商売人だ。
私も表情を戻して告げる。
「ええ、そうなの。まずは魔道具のほうから――魔獣用の罠を作ってほしいの」




