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第8話 魔王軍、スプーンを真面目に考察する



 魔王城。


 重厚な扉の奥。

 光の届かない会議室に、重い空気が沈んでいた。


 長い円卓。

 並ぶ魔王軍幹部たちは、誰一人として無駄口を叩かない。


 ただ一つ。

 中央に立つ報告者へ、視線が集まっていた。


「――以上が報告だ」


 黒装束の魔族が、静かに言う。

 その声だけが、やけに響いた。


「勇者の武器は……スプーン」


 沈黙。

 誰も、すぐには反応できなかった。

 理解が、追いつかない。


「……は?」


 一人が、ようやく口を開く。


「もう一度言え」

「スプーンだ」


「帰れ」

「事実だ」


「帰れ」

「だから事実だ」


「帰れって言ってんだろ!!!」


 机が叩かれる。

 鈍い音が、室内に響いた。


「ふざけるな」


 別の幹部が、低く言う。


「勇者の武器がスプーンなわけがない」

「だが」


 黒装束の魔族は、表情一つ変えずに続ける。


「ゴーレムが撃破された」

「……」


「スプーンで」

「帰れ」


「だから事実だ」

「帰れ」


 会議が、進まない。

 空気が、わずかに荒れる。


 そのとき。


「……静まれ」


 低い声が落ちた。


 それだけで場が凍りつく。

 誰も、息をする音すら抑えた。


 玉座。その奥、闇の中で。

 ゆっくりと、目が開く。


 魔王。

 ただ視線を向けただけで、空気が沈む。


「報告を続けよ」

「はっ」


 黒装束の魔族が、深く一礼する。


「対象は、スプーンを用いて物理衝撃を増幅。さらに“衝撃を掬う”という挙動を確認」


 円卓の空気が、わずかに変わる。


「概念的干渉の可能性あり」

「……ほう」


 魔王が、わずかに興味を示す。


「続けろ」

「はい」


「使用者本人は未熟。しかし武器の特性は危険」


 一瞬、間。


「一瞬ではあるが、こちらの動きを止められた」

「……!」


 幹部たちの視線が、変わる。


「当たれば通る」

「軽い一撃でも、読み合い次第で致命傷になる可能性あり」


「……なるほど」


 誰かが、低く呟いた。


「未熟、だと?」

「はい。現時点では制御しきれていない」


「だが」


 黒装束の魔族は、淡々と言う。


「成長すれば、脅威となる」


 空気が、重く沈む。

 今度は、誰も笑わない。


 誰も“スプーン”という単語を軽く扱えない。


「……つまり」


 魔王が、静かに言う。


「今のうちに潰せる」


 その一言で。

 場の温度が、さらに下がった。


「だが問題はそこではない」


 別の幹部が口を開く。


「なぜ“スプーン”なのか」

「そこだな」


 全員の意識が、揃う。

 沈黙のあと。


「……料理人説」

「帰れ」


 即座に切り捨てられる。


「いや待て」


 別の幹部が身を乗り出す。


「“食事”とは生命活動の根幹」

「うん?」


「つまりスプーンは“生命そのもの”を象徴する武器」

「やめろそれっぽいこと言うな」


「つまり奴は“生命操作系”だ」

「おお……?」


「いや違うだろ」


 別の幹部が腕を組む。


「スプーンは“掬う”」

「うん」


「つまり“力そのものを掬う武器”」

「……」


「概念系だ」

「それはあり得る」


「さっきからなんなんだよその概念系」


 議論が、妙な方向に熱を帯びていく。


「つまりまとめると」

「うん」


「スプーン=生命=概念=危険」

「雑すぎるだろ」


 だが。


「危険なのは事実だ」


 黒装束の魔族が、静かに言う。

 その一言で、場が締まる。


「……面白い」


 魔王が、ゆっくりと立ち上がる。

 それだけで、空気が張り詰めた。


「久々に、興味を持った」


 誰も、言葉を発せない。


「ではどうする」


 幹部の問い。

 魔王は、わずかに笑う。


「試す」

「試す?」


「どこまで危険か」


 静かな声。

 だが、逃げ場がない。


「より強い駒を送れ」

「はっ」


「ただし」


 魔王の目が細くなる。


「“スプーン”を侮るな」

「……!」


「未知とは、それだけで脅威だ」


 重い言葉が、場を支配する。


「必ず仕留めろ」

「はっ!」


 幹部たちが、一斉に頭を下げる。


 その中で、一人。小さく、呟いた。


「……スプーンかぁ」

「まだ言うか」


 誰かが即座に突っ込む。

 だが、その声もすぐに消えた。

 会議は終わる。


 だが――魔王軍は、確実に動き出した。



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