第3話 スプーン勇者、強敵に出会う
勇者・健太(※装備はスプーン)
森を進んでいた。
「……静かですね」
エルミナが周囲を見渡す。
「ああ。魔物の気配が途切れている」
「え、逆に怖くない?」
「怖いです!!でもスプーン様がいます!!」
「やめろその信頼!!!」
なんでだよ。
なんでこんなに信用されてるんだよ。
俺が一番信用してないんだぞこのスプーン。
そのとき。地面が、揺れた。
ズン、と重い音。
「……来るぞ」
エルミナが低く呟く。
次の瞬間。
木々をなぎ倒しながら、それは現れた。
巨大な体。
全身を鋼のような装甲で覆った――
「ゴーレム……!」
「いやデカすぎだろ!!!!」
3メートルはある。
どう見ても無理なやつだ。
「通常の武器では、装甲を破るのは困難だ」
「ですよね!!!」
「だが」
エルミナが、ちらりと俺を見る。
「お前ならいけるかもしれない」
「なんでだよ!!!!」
ゴーレムが腕を振り上げる。
振り下ろされた拳が、地面を砕いた。
「うわあああああ!!!」
「勇者様!!」
「逃げろって!!!!」
無理だ無理だ無理だ。
こんなのスプーンでどうしろっていうんだ。
――でも。
逃げたら終わりだ。
勇者なんだろ、俺。
「……っ」
スプーンを握る。
震えてる。
めちゃくちゃ怖い。
「……くそ」
口の中で呟く。
「どうせなら、かっこよくなりたかったな……」
剣とかさ。大剣とかさ。
バッと構えて、ザッと倒してさ。
“勇者”って感じのやつ。
「……」
目の前には、ゴーレム。
手には、スプーン。
「……いや」
息を吸う。
「――だからなんでスプーンなんだよおおおおお!!!!!!」
叫びながら突っ込んだ。
ゴーレムの拳が振り下ろされる。
避ける。
転がる。
立ち上がる。
そして――スプーンを、振る。
カンッ。
軽い音。
次の瞬間。
ゴーレムの体が、浮いた。
「……は?」
そのまま、吹き飛ぶ。
木をなぎ倒し、地面を転がり、止まる。
沈黙。
「……え?」
俺が一番わかってない。
「……今のは」
エルミナが、ゆっくりと呟く。
「衝撃を“掬い上げた”……?」
「え?」
「ありえない……だが、理論上は……」
「なに言ってるのか全然わからん!!!」
「やっぱりスプーン様は最強だ……!」
「やめろって言ってんだろ!!!」
ゴーレムは、動かない。
完全に沈黙している。
「……倒した?」
「そのようだな」
「スプーンで?」
「スプーンでだな」
「……」
納得いかねぇ。本当に納得いかねぇ。
俺は、スプーンを見た。
「……お前、なんなんだよ」
当然、答えはない。
ただ。
確実に一つだけ、わかったことがある。
このスプーン。
――やばい。
「……健太」
エルミナが、静かに呼んだ。
「なんだよ」
「少なくとも、それは“ただのスプーン”ではない」
「それは知ってる!!!」
「勇者様改め健太様……やはりすごいです!!」
「戻すなそのテンション!!!」
そして。
「勇者様!!次もいきましょう!!」
「元気すぎるだろお前!!!」
俺のツッコミが、森に空しく響いた。




