第2話 スプーン勇者、仲間が増える
村に帰った俺は、なぜか囲まれていた。
「勇者様……!」
「すごい……!」
「スプーンでゴブリンを……!」
「やめろその言い方!!!」
違うんだよ。なんか偶然だよ。
俺が一番意味わかってないんだよ。
「いやほんとに、たまたまだから。俺も意味わかってないし」
「ですが、あのゴブリンは通常の個体より強かったはずです」
「えっ」
今初めて聞いたんだけど?
「えっじゃあ何?俺、ちょっと強いゴブリンをスプーンで殴り飛ばしたの?」
「はい」
「なんで???」
いや、知らんがな!!!
「面白い」
後ろから声がした。
振り返ると、一人の女が立っていた。
長い黒髪に、落ち着いた雰囲気。
無駄のない立ち姿。明らかに“場数を踏んでる側”の人間だ。
「私はエルミナ。王都から来た魔術師だ」
「え、あ、どうも」
ちゃんとしてる人きた。助かる。
「先ほどの戦闘、見させてもらった」
「いや見られてたの!?」
「ええ。最初から最後まで」
「全部じゃねぇか!!!」
最悪だ。
一番見られたくないとこ見られてる。
「結論から言う」
エルミナは一切迷いなく言った。
「その武器、意味がわからない」
「だよな!!!!!!」
即答だった。
ありがとう、好き。
「だが」
エルミナはわずかに目を細める。
「威力は明らかに異常だ」
「……」
「通常、あのサイズのゴブリンを一撃で吹き飛ばすことは不可能」
「……そうなんだ」
全くもって知りたくなかった事実だ。
「不可能だ」
「……じゃあなんで?」
「それを今から調べる」
頼もしい。
めちゃくちゃ頼もしい。
初めてこの世界で“理解しようとしてくれる人”に出会った気がする。
「勇者様!!」
そこに、もう一人が飛び込んできた。
金髪で元気そうな少年だ。
目がキラキラしている。
嫌な予感しかしない。
「俺、見ました!!」
「えっ」
「スプーンで敵を討ち倒す姿……感動しました!!」
「やめろ!!!!!!」
なんだこいつ!!!
「俺、カイルって言います!勇者様の仲間にしてください!!」
「いや待て待て待て」
「スプーンってすごいんですね!!」
「違う!!!!」
違うんだよ!!!
「え、でもあれ最強武器なんですよね!?」
「いや俺もよくわかってない!!」
「やっぱり!!」
「納得すんな!!!」
カイルの目が、さらに輝く。
「やはり勇者様は特別なんですね……!」
「違うから!!!」
エルミナが、小さくため息をついた。
「……騒がしいな」
「すみませんほんとに」
「だが」
彼女は俺をまっすぐ見る。
「調査のためにも、同行させてもらう」
「助かる……」
「俺も行きます!!」
「お前はちょっと落ち着け!!!」
こうして。
スプーンしか持てない勇者に、冷静な魔術師と、スプーンを崇拝する少年が加わった。
「スプーン様!!次はどこへ行くのですか!!」
「だからやめろって言ってるだろ!!!!」
俺は叫んだ。
「なんなんだよその呼び方!!神様か俺は!!」
「ですが、スプーン様はスプーン様ですし……」
「違う!!!!」
違うんだよ!!!
その呼び方、全部この武器基準じゃねぇか!!!
「……いいか、よく聞け」
俺はスプーンを突きつけながら言った。
「俺にはな――」
一呼吸。少しだけ、胸を張る。
「ちゃんと名前があるんだよ!!」
「えっ」
「えっ」
エルミナとカイルが同時に固まる。
「……名前?」
「そうだよ!!!」
なんだと思ってたんだこいつら!!!
「俺はなぁ――健太だ!!!」
沈黙。
風が吹く。
「……けんた?」
「健太だ!!!」
「……普通ですね」
「うるせぇ!!!」
「いやでもスプーン様の方がしっくり……」
「やめろ!!!!!!!!」
「健太様?」
「なんで様つけた!!!」
「では健太さん」
「それでいい!!!」
はぁ……とため息をつく。
やっと人として認識された気がする。
「……健太」
エルミナが呟く。
「なんだよ」
「いい名前だな」
「……」
少しだけ、照れくさくなる。
「だが」
「だが?」
「スプーン様の方がインパクトはある」
「戻すな!!!!!!!!」
出発前。
俺は、もう一度スプーンを見る。
「……」
どう見ても、スプーンだ。
これで世界救うのか?
「……いや無理だろ」
「無理ではない」
エルミナが即答する。
「理論上は可能だ」
「なんで???」
「スプーン様ならできます!!」
「やめろその呼び方!!!」
こうして。
俺の、理解不能な旅が始まった。
――スプーンを握りしめたまま。
スプーン様!改め、勇者・健太。やっと名前が登場。




