第1話 スプーン勇者、爆誕
スプーンを武器に世界を救う!!(かもしれない)ちょっと不憫な主人公。
「勇者様……その、武器は……」
村人が、遠慮がちに聞いてくる。
「……スプーンです」
言いたくなかった。
できれば一生言いたくなかった。
だが、これしかない。
俺は、銀色に輝くそれを掲げた。
――どう見ても、食器である。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
「いや違うんです、これ一応“最強武器”らしくて」
「えっ」
「神様がそう言ってて」
「えっ」
やめてその目。
“こいつ大丈夫か?”みたいな目やめて。
「と、とりあえず、近くにゴブリンが出るので……それを……」
「ゴブリンか……」
よし、落ち着け。
相手はゴブリンだ。雑魚だ。弱い。ゲームでも最初の敵だ。
スプーンでも、まあ――
「いや無理だろ!!!!」
自分でツッコんだ。
無理に決まってる。
どう考えてもスプーンで戦うビジョンが見えない。
*****
それでも、俺は森に来ていた。
逃げても仕方ない。やるしかない。
「……よし」
スプーンを構える。
……いや、構え方がわからない。
なんだこれ。どう持てばいいんだ。
そのとき。
「ギャギャ!!」
ゴブリンが飛び出してきた。
「うわあああああああ!!!!!」
反射で突っ込んでいた。
半分やけくそだ。
スプーンを振りかぶる。
「だからなんでスプーンなんだよおおおおお!!!!!」
カンッ。
――軽い音がした。
次の瞬間。
ゴブリンが、吹き飛んだ。
「……は?」
数メートル先の木に叩きつけられ、ゴブリンは動かなくなった。
沈黙。
風の音だけが聞こえる。
「……え?」
俺は、自分の手を見る。
スプーンを見る。
「……え???」
今、何した?
いや普通に殴っただけだよな?
え、なんで吹き飛んだ?
「……」
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
「……いやいやいや」
もう一度、スプーンを見る。
どう見てもスプーンだ。
スープとかすくうやつだ。
これで今、ゴブリン吹き飛ばした?
「……意味わかんねぇ」
震える声が漏れる。
いやでも。
――これ、強くない?
「……」
一瞬だけ考える。
そして。
「……いや納得はいかねぇからな!!!」
叫んだ。
「強いとかじゃねぇんだよ!!なんでスプーンなんだよ!!そこ説明しろよ神!!!!」
森に、俺の声が響く。
当然、誰も答えない。
くそ。
あの神様、絶対あとで文句言ってやる。
*****
その日、村に帰った俺を見て、村人たちはざわついた。
「勇者様が……ゴブリンを……?」
「はい」
「その……スプーンで……?」
「はい」
沈黙。
そして。
「……え?」
だよな。俺もそう思う。
こうして。
スプーンを武器にした勇者の、意味のわからない冒険が始まった。
――本人だけが、最後まで納得していないまま。




