第24話 スプーン勇者、だいたい全部投げつけて勝つ(でも納得できない)
同じ場所だった。
森を抜けた先、黒い地面の広がるあの空間。空気は重く、音は遠い。前に来たときと何も変わらないはずなのに、やっぱり落ち着かない。
「……来るな」
エルミナが低く言う。
「いやもう来るだろこれ」
言い終わる前に、空間がゆらりと歪んだ。
風が止まり、音が消え、魔王が現れる。
「……来たか」
前と同じ声。
だが、今回は違う。
「対策は用意した」
「聞きたくなかった!!!」
即答した。
魔王が手を上げて、黒い魔力が集まる。
前回より速い。そして――分裂する。
一つが、二つに。二つが、四つに。
あっという間に、空中に黒い玉が並んだ。
「多くない!?」
「前回は一つだっただろ!!!」
「だから増やした」
「やめろその成長!!!」
次の瞬間。
黒い玉が一斉に飛んできた。
「うわっ!!」
スプーンを振る。一つ、消える。
だがすぐに横から来る。さらに後ろから来る。
減らない。むしろ増えている気がする。
「……無限かよ!!!」
右、左、右。
振る。消す。
でもまた来る。
「くそっ……!」
そのとき。
手の中に、あの感覚。
「……溜まってる」
魔法だ。今までと同じ。
削りきれなかった分が残ってる。
「……じゃあ返す!」
前に押し出す。
どんっ!
黒い玉がまとめて吹き飛ぶ。
「おお!」
一気に減る。
でも――また増える。
「意味ねぇ!!!」
もう一回やる。
減る。でも増える。
「……」
手を止めて、魔王を見る。
魔王も止まる。
「……これさ」
俺が言う。
「終わらなくね?」
「終わらないな」
あっさり返された。
「だよな!!!」
即答する。
どうすんだよこれ!!!
そのとき、ふと思い出す。
「……そうだ」
もう一個あった。
運。不運。
「……やってみるか」
スプーンを軽く振る。
何かを“すくう”感覚。
目には見えないが、確かにある。
それを――投げる。
魔王に向かって。ぽいっと。
次の瞬間。
つるっ。
「……は?」
魔王の足元で音がする。
バナナの皮。
「出た!!!」
思わず叫ぶ。お前ここで来るのか!!!
魔王がわずかに体勢を崩す。
ほんの一瞬。
だが、黒い玉の動きが乱れる。
「……効いてる?」
試しに、もう一回。
ぽい。
今度は、足元の石に躓く。
「え?」
さらにもう一回。
ぽい。
魔王の手元で魔力が一瞬だけ暴発する。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
「……地味だな」
俺が言う。
「だが確実だ」
エルミナが答える。
魔王が、少しだけ顔をしかめる。
そして、もう一回投げる。
ぽい。
今度は、完全にバランスを崩した。
黒い玉の制御が乱れる。
動きがバラバラになる。
「……いけるなこれ」
確信した、そのとき。
体が、重くなってくる。鈍い疲労。
「……ああ」
もう一つ、これもあった。
すくって、引き抜く。
一瞬で体が軽くなる。
そして、手の中に残る“重さ”。
「……これ」
今までより、はっきりした嫌な感じ。
これを――投げる。魔王に。
そして、ぶつかる瞬間。
魔王の動きが、止まった。
「……っ」
明らかに重い。
足が動かない。
黒い玉が、その場で止まる。
「……」
俺は、ゆっくり近づく。
スプーンを出して軽く、触る。
魔力が消える。全部。
あっさりと。
「……」
静寂。
魔王が、ゆっくり息を吐く。
「……ここまでか」
「軽っ!!!」
思わず叫ぶ。
「そんな終わり方ある!?」
魔王が小さく首を振る。
「……戦う気が失せた」
「それな!!!!!」
全力で同意する。
俺もだよ!!!
「対策はした」
魔王が言う。
「だが」
一瞬、間を置いて。
「……やり方が理不尽すぎる」
「俺もそう思う!!!」
完全一致だよ!!!
魔王は、少しだけ笑った。
「……理解不能だ」
「だから俺もだって!!!」
そしてそのまま、消える。
あっさりと。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
「……終わった?」
「終わったな」
「終わりましたね!」
いつものやつ。
俺はスプーンを見る。
「……なんでだよ」
ぽつりと呟く。
「最後までスプーンかよ」
誰も答えない。でも。
「……まあ」
少しだけ笑う。
「勝ったし、いいか」
そう言って――
「……いややっぱ納得いかねぇ!!!!!」
全力で叫んだ。




