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第21話 スプーン勇者、ついに卒業かと思ったら違った



 ――その噂を聞いたのは、昼過ぎのことだった。


「伝説の武器……?」


 思わず聞き返す。


「はい!」


 カイルがやたらとテンション高く頷いた。


「選ばれし者だけが引き抜けるという、伝説の剣があるそうです!」

「剣……」


 その単語に、思わず遠い目になる。


 剣いいな。ちゃんとした武器。

 斬れるやつ。スプーンじゃないやつ。


「……」


 じわじわと、期待が膨らむ。


「もしかして」


 ぽつりと呟く。


「これ、俺……卒業できる?」

「何からですか?」

「スプーンからだよ!!!」


 即答した。


 もういいだろ!!!

 そろそろ解放されてもいいだろ!!!


 エルミナが腕を組みながら、静かに言う。


「理屈としては可能性はある」

「だよな!?」


「選ばれし者だけが扱える武器」

「うんうん」


「つまり、お前が選ばれる可能性もある」

「だよな!!!」


 きた。きたぞこれ。

 ついに。ついに俺、普通の勇者になるかもしれない。


「行こう」


 即答だった。


「今すぐ」

「行動が早いですね!!」

「当然だろ!!!」


 こんなチャンス、逃すわけがない!!!



 *****



 数時間後。

 俺たちは、岩山の奥にある小さな祠の前に立っていた。


「……これか」


 ぽつりと呟く。

 古びた石の台座。

 その中央に――何かが突き立っている。


 周囲の空気が、わずかに張り詰めているのがわかる。

 ただの置物じゃない。“そういうもの”だ。


「間違いないな」


 エルミナが小さく頷く。


「伝説の武器だ」


 ごくり、と喉が鳴る。

 ゆっくりと近づく。一歩、また一歩。

 心臓がうるさい。


 これだ。これを抜けば。

 俺は――


「……」


 視界に入る、その“柄”が金色だ。

 やたらと輝いている。装飾も細かい。

 いかにも“すごい武器です”って感じだ。


 ……だが。


「……」


 なんだろう。

 この、既視感。


「……いや」


 首を振る。


 考えるな。考えるな俺。

 ここで疑ったら負けだ。


 これは剣だ。きっと剣だ。

 スプーンじゃない。

 絶対違う。違ってくれ。


「……よし」


 覚悟を決めて、手を伸ばす。

 その柄を握る。


「……」


 しっくりくる。やけに。

 びっくりするくらい。

 しっくりくる。


「……」


 嫌な予感がする。でも。


「……いくぞ」


 力を込めて引き抜く。


 ――すっと。

 驚くほどあっさりと、それは抜けた。


 その瞬間、ぶわっと光が広がる。

 視界が白く染まり、風が巻き起こる。


「おおおおおおおお!!!」


 カイルの声が響く。

 光が、収まる。

 ゆっくりと目を開ける。


 そして。


「……」


 手の中を見る。

 金色に輝くそれ。装飾も見事。

 形も美しい。……美しいが。


「……スプーンじゃねぇか」


 静かに呟いた。

 完璧にスプーンだった。


「おおおおおおおおお!!!」


 カイルがなぜかさらにテンションを上げる。


「伝説の……スプーン……!」

「どこが伝説だよ!!!ってか、なんで剣じゃないんだよ!」


 全力でツッコむ。


 なんでだよ!!!

 なんでここまで来てスプーンなんだよ!!!


「ですが勇者様!」


 カイルがキラキラした目で言う。


「輝きが違います!完全に上位互換です!」

「互換って言うな!!!」


 そこ認めたくないんだよ!!!

 エルミナが冷静に観察している。


「……なるほど」

「なるほどじゃない」


「形状は同一」

「やめろ」


「だが、内包する力は明らかに上だ」

「やめろって言ってるだろ!!!」


 分析するな!!!

 現実を突きつけるな!!!


「……持ってみろ」


 エルミナが言う。


「もう持ってるわ!!!」

「両手で」

「……は?」


 嫌な予感しかしない。

 だが、言われるがままに――


 右手に金。左手に銀。

 どちらもスプーン。


「……」


 沈黙。


「……」


 なんだこれ。

 妙な安心感がある。

 いや違う。違うんだけど。


「……なんか」


 ぽつりと漏れる。


「……めっちゃ飯食いたくならない?」

「わかります!!!」


 カイルが即答した。


「今すぐ食事に行けます!!!」

「なんでだよ!!!」


 戦闘じゃないのかよ!!!


「……おかしいな」


 エルミナが顎に手を当てる。


「武器としての性能は上がっているはずだが」

「だろうな!!!」

「だが」


 一拍。


「どう見ても食事だな」

「だよな!!!」


 そこは一致するのかよ!!!


「なあ」


 俺は、両手のスプーンを見比べる。


「せめてさ」


 一縷の望みを込めて言う。


「ナイフとかフォークじゃダメだったのか?」


 その瞬間、エルミナとカイルが同時にこちらを見る。


「……それでも」


 エルミナが静かに言う。


「お食事感は消えないな」

「ですね!!!」

「消えろよ!!!!!!」


 なんで確定してんだよ!!!

 両手のスプーンが、やたらとしっくりくるのが腹立つ。


「……」


 ふと、思う。


「……もしかして俺」


 ぽつりと呟く。


「一生これなのか?」

「その可能性は高い」

「やめろ!!!」


 即答すんな!!!


 祠の前に、俺の叫びが響いた。

 その声は、やたらとよく通った。


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