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第19話 スプーン勇者、疲れを知らない



 その日、俺は朝から動きっぱなしだった。


 村から村へ。

 頼まれて、頼まれて、さらに頼まれて。


「……多くない?」


 思わず漏れる。いやほんとに。

 昨日までは“ちょっと頼られてるな”くらいだったのに、今日はもう完全に様子がおかしい。


「人気者ですね!」


 カイルが元気よく言う。


「違う!!!」


 即答した。人気じゃない。

 これ、完全に“使われてる”だからな???


「需要があるのは事実だ」


 エルミナが淡々と補足する。


「言い方を変えるな!!!」


 そういう問題じゃねぇ!!!

 とはいえ、頼まれた以上、無視するわけにもいかない。

 結局、俺は次の依頼先へと足を運んでいた。


 森の外れ。

 倒れた木々の間に、壊れかけの柵が見える。


「この辺りだったか」


 エルミナが周囲を見回す。


「“最近やけに魔物が多い”って話でしたよね?」


 カイルが確認する。


「ああ」


 エルミナが頷く。


「原因は不明だが、ここ数日で一気に数が増えたらしい」

「嫌な予感しかしないな……」


 俺はスプーンを見ながらぼやく。

 どうせまた、これで何とかするんだろ。

 納得いかないけど。


 そのとき、がさり、と草が揺れた。


「来たな」


 エルミナの声が低くなる。

 次の瞬間、茂みの中から魔物が飛び出してきた。

 1体、2体――いや、もっといる。


「ちょっと待て、多くない!?」

「多いな」

「だから他人事か!!!」


 だが、もう来ている。やるしかない。


「……はぁ」


 ため息をつきながら、スプーンを構える。

 正直、もう驚きはない。


 むしろ。


「来いよ」


 そう思ってしまっている自分がいる。

 魔物が飛びかかってくる。


 振る。

 カンッ。


 1体、消える。


 次。

 カンッ。


 2体目。さらに。


 カンッ、カンッ。


 連続で処理する。


「……あれ?」


 ふと気づく。息が、上がっていない。

 普通なら、これだけ動けば少しは疲れるはずだ。

 だが、体が妙に軽い。


「……なんか、楽じゃないか?」

「そうか?」


 エルミナが横目で見る。


「さっきから動きが鈍っていないな」

「だよな?」


 カイルも頷く。


「いつもならもう少し『疲れたー!』って言ってる気がします!」

「言い方!!!」


 いや否定はできないけど!!!

 でも、確かにそうだ。

 おかしい。疲れない。

 むしろ、さっきより軽い気すらする。


「……」


 スプーンを見る。

 さっきの戦闘。

 魔法を掬って、溜めて、放った。

 そのとき、何かが“抜けた”感覚があった。


「……まさか」


 嫌な予感がする。

 疲れを試しに意識してみる。

 体の奥にある、だるさとか重さとか、そういうものを。


 それを。


「……」


 すくう。

 軽く。ほんの軽く。


「……っ」


 一瞬、違和感。

 何かが引っかかったような感触。

 それを、すくい上げる。


 次の瞬間。


「……軽っ」


 思わず声が出た。体が、一気に軽くなる。

 さっきまであったはずの疲れが、嘘みたいに消えている。


「……え?」

「どうした?」


 エルミナが問いかける。


「いや、今……疲れ、消えた」

「は?」


 珍しく、エルミナが素で聞き返した。


「え、どういうことですか!?」


 カイルも身を乗り出す。


「いや、だから……なんかこう、すくったら……消えた」

「雑すぎる説明だな」

「俺が一番困ってるんだよ!!!」


 本当に!!!

 だが、体は正直だった。

 軽い。異様なほど軽い。


「……」


 もう一度、今度は少し意識を強めて。

 疲れを、探る。

 見えないけど、ある気がする。


 それを――すくう。

 引き抜く。


「……」


 また、軽くなる。

 ほぼ無限に動けそうな気すらする。


「……これ、やばくないか?」


 小さく呟く。


「何がだ」

「疲れがなくなる」


「便利だな」

「そういう問題じゃない!!!」


 即座にツッコむ。

 便利すぎるんだよ!!!

 だが、そのときふと、思う。


「……じゃあこれ、どこ行った?」

「何がだ」


「疲れ」

「……」


 一瞬の沈黙。

 エルミナがわずかに目を細める。


「……考えない方がいいな」

「やめろ」


 即答した。

 その言い方、絶対ダメなやつだろ!!!


「でも確かに気になりますね……」


 カイルも首を傾げる。


「体から消えたなら、どこかに移動しているはずですし……」

「やめろって!!!」


 分析するな!!!怖くなるだろ!!!

 だが。


「……」


 もう一度、スプーンを見る。

 何も変わらない。ただのスプーン。

 なのに。


「……まあ、今はいいか」


 ぽつりと呟く。

 軽いのは事実だ。

 動けるのも事実だ。


 それなら――


「今は便利な方を取る」

「開き直りましたね!」

「仕方ないだろ!!!」


 考えてもわからないんだから!!!


 そのとき最後の魔物が、こちらに飛びかかってきた。


「おっと」


 軽くかわす。そして。


 カンッ。


 あっさりと叩き落とす。

 動きが軽い。無駄がない。


「……なんか、強くなってないか?」

「なっているな」

「なってます!」


 二人が即答する。


「やめろ」


 認めたくない。

 認めたくないが。


 確かに、今の俺はいつもより動けている。


「……」


 スプーンを見る。

 何も言わない。ただ、そこにあるだけ。

 なのに。


「……ほんと、どこ行ってんだよ……」


 小さく呟く。誰も答えない。

 答えられるはずがない。


 ただ一つ。

 確かなのは――


 それが、どこかに“溜まっているかもしれない”ということだけだった。



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