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閑話2 スプーン勇者、食事すら信用できない



 夕方。

 宿の食堂は、柔らかな灯りに包まれていた。


 木のテーブル。

 湯気の立つ料理。

 落ち着いた空気。


 ――本来なら、安心できる時間のはずだった。


 目の前には、スープ。

 そして。


 ――スプーン。


 俺は、手を止めていた。


「……」


 じっと見つめる。

 銀色のそれ。


 見た目は、ただの食器。

 だが。


(ゴーレム吹き飛ばしたんだよな、これ)


「……いや無理だろ」


 そっと、テーブルの端に置く。

 代わりに、店のスプーンを手に取る。


「俺はこっち使うからな」


 当然の判断だ。

 普通に考えて。


「どうしてですか?」


 カイルが首をかしげる。


「どうしても何もあるか!!!」


 思わず声が大きくなる。


「こんな得体のしれないスプーン、口に入れるの怖いんですけど!?」

「スプーン様は安全です!」


「信用できねぇ!!!」


 エルミナが、紅茶を一口飲んでから言った。


「試せ」

「は?」


「食器として使えるか、確認しておけ」

「なんでだよ!!!」


「今後、必要になる可能性がある」

「ねぇよ!!!」


 即答した。


「戦闘中に食事する状況を想定してみろ」

「どんな状況だよ!!!」


 意味がわからない。


「いいからやれ」


 逃げ道が、ない。


「……マジで?」

「やれ」


 短い。

 圧が強い。


「……」


 仕方なく、ゆっくりとスプーンを手に取る。

 軽い。普通だ。

 いつもの感触。


(……ほんとに大丈夫かこれ)


 スープをすくう。

 湯気が立つ。


「……」


 恐る恐る、口に運ぶ。

 ――ぱく。


 普通だ。


「……あれ?」


 もう一口。

 普通に、うまい。


「普通に食えるのかよ!!!」


 思わず叫んだ。

 カイルがぱっと顔を輝かせる。


「やはりスプーン様は――」

「ただの食器だろこれ!!!」


 エルミナが、静かに言う。


「意識の問題だ」

「またそれかよ」


「何を“掬うか”を考えなければ、ただのスプーンだ」

「なるほど……?」


 つまり、普通に使えば、普通。


「……じゃあもう普通に使うわ」


 安心して、もう一口。

 すくう。


(……ちょっと熱いな)


 その瞬間。


「……ん?」


 口に入れる。


「……ぬるい?」


 さっきまで熱かったはずのスープが。

 ちょうどいい温度になっている。


「……は?」


 もう一度すくう。

 湯気はある。


 でも、口に入れると、やっぱりぬるい。


「え、なにこれ」


 エルミナが、当然のように言った。


「“温度”を掬ったな」

「なんでだよ!!!」


「冷ましたいと思っただろう」

「思ったけど!!!」


「それだ」

「それだ、じゃねぇよ!!!」


 テーブルを叩く。


「なんで飯食ってるだけで能力発動すんだよ!!!」


 カイルが感動している。


「スプーン様……食事すら支配するとは……!」

「やめろって!!!」


 もう一度、スプーンを見る。


 ピカピカ。

 ただの銀色。


 なのに。


 ゴーレムを吹き飛ばし。

 不運を消し。

 温度まで操る。


「……なんなんだよこれ」


 エルミナが、わずかに笑う。


「便利だろう」

「怖ぇよ!!!」


 スプーンを置く。


「もういい。普通のやつ使う」


 店のスプーンを持つ。

 すくって、口に入れる。


「……熱っ!?」


 普通に熱い。


「……」


 じわっと、涙目になる。


「……こっちの方が嫌だな……」


 ぽつりと呟いた。

 その横で。


「スプーン様をお使いください」

「やめろって!!!」


 結局、俺の食事は最後まで落ち着かなかった。


「……やっぱ納得いかねぇ」


 その結論だけは、変わらなかった。



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