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姫プレイネタ戦艦で殺伐宇宙世界来てしまったんですが!!??  作者: 御蔭


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第47話 残骸

 

 翌日の昼過ぎ、ヴェーバー中佐から通信が入った。

 スクリーンに映った顔は、前回より明らかに硬かった。疲れとは違う。何かを伝えなければならない人間の顔だ。


「ゴルダ運送の輸送艦の残骸を確認した。ゼクス方面のルート上だ」


 残骸。


 その一語が、頭の中で反響した。昨日まで「連絡のつかない便」だったものが、たった一語で変わった。


「襲撃の痕跡がある。詳細は言えないが、偶発的な事故ではない」


「クルーは」


「未確認だ。現時点では」


 現時点では。その言い方は、見つかっていないという意味だ。見つかっていないだけなのか、見つからないのか。どちらとも取れる。


「作戦の前倒しを検討している」中佐が続けた。「正式な決定ではないが、動きが早まる可能性がある」


「俺たちへの指示は変わるか」


「変わらない。動くな」少し間があった。「これは前回より強い意味で言っている」


「了解した」


 通信が切れた。スクリーンが暗くなって、ブリッジが静かになった。


 あの便は、見合わせ通達が出る前に出港していた。間に合わなかった。それだけのことだ。それだけのことが、やけに重い。



 ブリッジのシートに座ったまま、しばらく動けなかった。


 想定はしていた。ゼクス方面のルートで何かが起きている可能性は、昨日の時点で頭にあった。リーネに出港記録を当たってもらったのも、そのためだ。


 ただ、「可能性がある」と「実際に起きた」の間には溝がある。頭でわかっていたことと、腹に来ることは別だ。


 向こうが先に動いた。定期便を潰した。見合わせ通達が間に合わなかった1本を、きっちり仕留めている。偶然じゃない。航路を見ている連中がいる。そいつらは、通達が出る前のわずかな隙を突いた。あるいは、通達が出ること自体を知っていた可能性もある。


 軍が前倒しで動くなら、それは正しい判断だろう。俺がどうこう言う話じゃない。


 ただ、ゴルダ運送のクルーが何人乗っていたのか、中佐は言わなかった。俺も聞けなかった。聞いてどうなる。どうにもならない。それでも、聞かなかったことが引っかかった。



 旅団に通信を繋いだ。全員揃うまで少し時間がかかった。シャルロッテが最後だった。


「ゴルダ運送の便の残骸が見つかった。襲撃の痕跡あり。クルーの安否は不明だ」


 短く言った。飾る言葉がなかった。


 少し間があった。通信越しに、誰かが息を吐く音が聞こえた。


「……やっぱり殴りに行くべきだったか」ガルドが言った。


「今更言っても」リーネの声は、いつもの軽さが薄かった。「通達が出る前に出た便だったのよ。どうしようもなかった」


「わかってる。わかってるが」


 それ以上は言わなかった。ガルドにしては珍しい。こいつは普段、納得できないことがあれば噛みつく。噛みつく相手がいないから、言葉が途切れた。


「何人ですの」


 シャルロッテだった。


「わからない。中佐からは出ていない」


「中型輸送艦ですわよね」シャルロッテが続けた。「運送屋の中型なら、最低でも3人。多ければ5人」


 少し間があった。


「積載ゴミの同業者ですわ」


 声のトーンが低かった。冗談の気配がない。シャルロッテが合流したとき、メーディアのクルーを「3人とも積載ゴミ」と言った。あのときは笑えた。今は笑えない。同じ言葉が、まったく違う重さで響いた。


「他人事ではありませんの」


 誰も返さなかった。返す言葉がなかった。


「一つ、確認してもよろしいですか」


 ヴェルナーだった。いつもの静かな声だが、少しだけ硬さがある。


「どうぞ」


「軍の作戦が前倒しになるのであれば、赤牙側の動きにも変化が出る可能性があります。私の情報経路でも、拾えるものが増えるかもしれません」


「……それは、動くという意味か」


「いえ」ヴェルナーは一拍置いた。「聞こえてくるものに耳を澄ます、という意味です。こちらから仕掛けることはしません」


 聞こえてくるものに耳を澄ます。動かないが、閉じない。俺が考えていたことと、ほとんど同じだった。


「わかった。頼む」



 通信を切った。


 方針は変えない。軍が動く。俺たちは動かない。それでいい。


 ただ、目を閉じてるつもりはない。軍が動いた結果がどうなったか、確認する手段は持っておく。ヴェルナーの耳がある。リーネの情報網もある。動かないことと、何も知らないことは違う。


 仕掛ける側に回ると決めた気持ちは、まだ消えていない。ただ今は、それを抑えて待つ方が正しい。正しいと思うことと、楽なことは別だ。それは前から知っていた。知っていて、毎回しんどい。



 ゴルダ運送のクルー。中型なら3人から5人。シャルロッテが言った数字が、頭の隅に残っている。


 待つしかない状況は変わらない。ただ、今度は「終わった」とは思わない。終わっていない。それを知っている。


 明日も通常業務がある。メーディアのカーゴには、次の荷物が入る予定だ。こいつは何も言わない。言える口がない。ただ、今日は少しだけ、こいつが黙っていることに助けられた気がした。


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