第46話 連絡
48時間が経過した。中佐からの連絡はなかった。
その間、マルダ方面への輸送を1本こなした。精密機器の部品で、扱いに気を使う荷だったが、問題はなかった。メーディアのカーゴは今日も静かだ。こいつが揺れないのは艦のサイズのおかげで、俺の腕とは関係ない。
49時間目に入って、こちらから当たるか少し考えた。48時間以内に判断する、と中佐は言った。過ぎている。ただ、軍の1時間や2時間は誤差のうちだろう。催促して印象を悪くするより、もう少し待つ。
50時間目に連絡が来た。
ヴェーバー中佐の顔は、前回より少し疲れていた。
「上が動くことを承認した。詳細は教えられないが、データを確認した上での判断だ」
「定期便の通達は」
「出した。関係する業者への見合わせ推奨は、今日中に届く」
言質通りだ。それだけで十分だった。
「一つ確認させてくれ。軍が動くまでの間、俺たちはどう動けばいい」
「通常業務を続けてほしい」中佐は少し間を置いた。「それ以上のことは、今は控えてもらいたい」
要するに、邪魔するなということだ。
「わかった」
「協力に感謝する」中佐はそう言って、通信を切った。
スクリーンが暗くなった。口を出すべきじゃない。それはわかる。わかるが、仕掛ける側に回ったと思った矢先に「待て」と言われた感覚は、腹の底にちょっと残った。
旅団への共有は短く済んだ。
「軍が動く。俺たちの出番はない」
「殴れないのか」ガルドが言った。
「ない」
少し間があった。「まあ、しょうがないか」ガルドにしては珍しく、それだけで引いた。
「はいはい、終わりね」リーネが端末を閉じながら言った。あっさりしたもんだ。
「シャンデリアが守られますわ」シャルロッテが言った。一拍置いて、続けた。「軍が本腰を入れるなら、それ相応の理由ができたということですわね。データの精度が十分だったということでもある」
「よい結果になることを願っています」ヴェルナーが静かに言った。それ以上は何も言わなかった。
通信を切って、ブリッジのシートに背を預けた。終わった、という感じがしなかった。
念のため、定期便の運行状況を確認することにした。
見合わせ通達は出たはずだ。ただ、通達が届くより先に出港していた便がある可能性はある。タイミング次第では、航路上にすでに何本か出ていてもおかしくない。
リーネに頼んで、ゼクス方面の定期便の出港記録を当たってもらった。10分ほどで返信が来た。
「1本、連絡がつかない便がある。ゴルダ運送の中型輸送艦。今朝出港済みで、定時通信に応答なし」
「遅延か」
「それならこっちに連絡が来るはず。今のところ何もない」
「通信トラブルの可能性は」
「ある。ただ」リーネが少し間を置いた。「ゼクス方面のルートと一致してる」
嫌な一致だった。ただ、今の段階では判断材料が足りない。遅延かもしれないし、通信機器の故障かもしれない。軍に伝えるにしても、何を伝える。応答がない、ルートが一致している。それだけだ。
「引き続き状況を見ていてくれ。動きがあれば知らせる」
「はいはい」
通信を切った。
ゴルダ運送の便のことが、頭の隅に引っかかったまま通常業務に戻った。
夕方にもう1本、輸送の依頼が入った。マルダ方面ではなく、今度は逆方向。荷物は食料品の詰め合わせ。メーディアのカーゴに積んで、明朝出発の予定にした。こいつは今日も文句を言わない。言える口がない。
軍が動く。通達も出た。やれることはやった。
ただ、連絡のつかない便が1本ある。
仕掛ける側に回ると決めた。その気持ちは、軍に任せたからといって引っ込むもんでもなかった。
明朝、出発する。それだけは決まっている。
◇
翌朝になっても、ゴルダ運送の便からの連絡は途絶えたままだった。
出発前にリーネに確認した。「変わりなし。会社側もまだ動いてない」。遅延なら連絡が来る。通信トラブルなら、バックアップ回線から信号くらいは出る。どっちでもない可能性が、じわじわ重くなっていた。
軍に報告すべきか考えた。ただ、「連絡がつかない便がある」だけでは材料が薄い。作戦中の軍を動かす根拠にはならない。もう少し待つ。
メーディアのカーゴに食料品を積んで、予定通り出発した。
続報が届いたのは、航行を始めて3時間後だった。
「ゴルダ運送が捜索依頼を出した」リーネの声が、いつもより平坦だった。「正式な手続き踏んでる。遅延でも通信トラブルでもないって、向こうも判断したってこと」
「ルートは」
「ゼクス方面。確定してる」
航路上で何かが起きている。もう、たぶんじゃない。
旅団への共有は短くした。
「ゴルダ運送の便が行方不明になった。ゼクス方面のルート上だ。会社が捜索依頼を出している」
「軍に伝えるか」ヴェルナーが言った。
「それを判断する」
「自分たちで確認に行く選択肢は」ガルドが言った。
「ある。ただ、軍は今作戦中だ。俺たちが動いて作戦に支障が出たら元も子もない」
「はいはい」リーネが端末を叩いた。「情報だけ渡して、判断は向こうに任せる、ってこと?」
「そういうことだ。まず軍に報告する」
ヴェーバー中佐への通信は、すぐに繋がった。
「ゴルダ運送の中型輸送艦がゼクス方面のルートで消息を絶った。会社が正式な捜索依頼を出している。把握しているか」
中佐は少し間を置いた。「把握していなかった。確認する」
「確認が取れたら教えてもらえるか」
「状況次第だ」中佐の声が少し硬くなった。「ただ、一つだけ言っておく。あなたたちは動かないでほしい。今は特に」
「わかっている」
「念のための確認だ」
「従う」
通信を切った。従う、と言った。嘘じゃない。ただ、腹の底の引っかかりは消えなかった。ゴルダ運送の便が消えた。見合わせ通達が出る前に出港した便だ。タイミングが悪すぎる。
輸送業務を続けながら、続報を待った。
メーディアのカーゴの食料品は、予定通り中継地点に届けた。帰りの荷物はなかったので、空荷で戻ることになった。こいつが軽いと、妙に落ち着かない。積載があった方が、飛んでいる感じがする。
リーネからの連絡はまだない。軍からも何もない。
動かない、と決めた。目は離さない。それだけだ。




