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姫プレイネタ戦艦で殺伐宇宙世界来てしまったんですが!!??  作者: 御蔭


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第42話 隙を見せろ


 ヴェーバー中佐から、3回目の作戦詳細が届いた。端末に表示された無機質な文字を追う俺は、読み終えて、思わず黙り込んだ。


「……隙を見せろ、と」


 隣で同じ文面を読んでいたリーネが、小さく呟く。その声には、わずかながら驚きと、そして納得の色が混じっていた。


「航行中に編隊を分散させる。ガルドと私が別航路に離脱したように見せかけて、メーディア、シャルロッテの輸送艇、そしてヴェルナーのグラオザームの3隻だけにする。手薄に見せて、相手がどう動くか観察する、ですって」


「囮の、囮か」


 俺は苦笑する。これまでの2回は、あくまでこいつの存在を隠さず、堂々と囮を務めてきた。だが、今回は違う。弱そうに見せかけ、敵が食いつくか試す。まるで、獲物を誘い出す罠のようだ。


 偵察だけの相手なら、俺たちが3隻だろうが5隻だろうが、一定の距離を保つだろう。だが、もし攻撃する意図があるのなら、手薄に見える編隊には必ず食いついてくるはずだ。その反応で、奴らの真意が分かる。

* * *

 作戦は食堂で全員に共有された。ガルドは肉串を片手に、眉間に皺を寄せている。


「つまり、俺とリーネは途中で消えるのか?」


「消えるフリだ。別航路に離脱したように見せかけて、実際にはセンサー範囲外に退避して待機する。何かあったらすぐ戻れる距離に、な」


「何かあったら、ってのは?」


 ガルドの目が、獲物を狙う獣のようにギラリと光る。


「相手が動いた時だ。メーディアに接触してきたら、お前たちが戻って挟む」


「殴っていいのか!」


 3回分の鬱憤が、その言葉に込められているのが手に取るように分かる。俺はニヤリと笑った。


「状況による。だが、向こうが先に手を出したら、遠慮はいらない」


 ガルドは満足げに頷いた。その顔には、早くも戦いの予感が宿っている。


 シャルロッテは、いつものように紅茶のカップを両手で包み込み、優雅な仕草で尋ねた。


「わたくしはメーディアに残りますのね」


「ああ。3隻のうちの1隻として。お前の船が編隊にいることで、輸送中の定期便に見える。自然だ」


「分かりましたわ。いつも通りにしていればよろしいですのね」


「いつも通りでいい。紅茶を淹れて、シャンデリアを磨いて。何も変わらないフリをしてくれ」


「得意ですわ」


 得意らしい。この女の「いつも通り」は、もはや演技の域を超えている。どんな状況でも、彼女は彼女であり続ける。そのブレない精神力には、ある意味、感服するしかない。


 ヴェルナーが、俺の隣で静かに言った。


「私は3隻側に残ります。メーディアの護衛として。プリンセスのお供ですから」


「その呼び方は……もういい。好きに呼べ」


 3回言って直らないものは直らない。俺は諦めて、肩をすくめた。


「では、そのように」


 ヴェルナーは満足げに微笑んだ。まったく、この男も食えない奴だ。

* * *

 囮任務、3回目。


 5艦編隊でレグルスを出航。いつものように、何食わぬ顔で宙域を航行する。ここまでは、前回と同じだ。だが、今回は、この平穏が偽りであることを、俺たちは知っている。


 航行4時間目。ゼクス方面に入る手前。


「ここだ。ガルド、リーネ、離脱しろ」


 俺の指示に、2人は即座に反応した。


「了解!」


「了解」


 ヴァナルガンドとヘルメティカが編隊から離れていく。別航路へ向かうように見せかけて、大きく迂回する。センサー範囲外に出るまで30分。そこから反転して、俺たちの近くに潜伏する手筈だ。


 メーディアのモニターから、2隻の反応が消えた。5隻が3隻になった。少なくとも、外から見ればそう見える。残されたのは、メーディア、シャルロッテの輸送艇、そしてヴェルナーのグラオザーム。宮殿と軽トラと傭兵艦。護衛がたった1隻の輸送編隊。これほど手薄な獲物は、そうそうないだろう。狙いやすい。そう見えるように、俺たちは飛ぶ。

* * *

 航行6時間目。


 その時、計器がけたたましい警告音を上げた。俺はモニターに目を凝らす。そこに映し出されたのは、3つの光点。


「来た。最初から3隻。方位040、180、300。距離80キロ」


 リーネは離脱している。センサーデータはヘルメティカから遠隔で中継されているが、読み上げるのはメーディアの計器だ。俺が直接、その数字を読み上げた。80キロ。1回目が200。2回目が150から120。今回は最初から80。一気に詰めてきた。心臓がドクン、と大きく鳴る。


 ヴェルナーが通信越しに、冷静な声で言った。


「近いですね。こちらが3隻だと分かって、距離を詰めてきた。作戦通りです」


「作戦通りだが、心臓には悪い」


 俺は思わず本音を漏らした。ヴェルナーは、そんな俺に、どこか楽しげな声で返す。


「ご安全に」


「それ、この状況で言うセリフか?」


 3隻の偵察艇が80キロで並行している。前回まではもっと遠くから見ていた。今回は明らかに近い。俺たちが減ったことに、奴らは明確に反応している。


 シャルロッテが食堂から通信を入れてきた。その声は、いつも通り優雅だが、微かに震えているように聞こえた。


「ケイトさん。センサーの数字、見えていますわ」


「ああ。80キロだ」


「前回の半分以下ですわね」


「怖いか?」


「少し。でも、紅茶は淹れましたわ」


 怖いと言いながら紅茶を淹れている。この女の胆力は、やはり本物だ。あるいは、恐怖を紅茶で誤魔化しているのか。どちらにせよ、そのブレない姿勢は、この緊迫した状況において、ある種の清涼剤だった。

* * *

 航行7時間目。


 偵察艇の動きが変わった。80キロを保っていた3隻のうち、1隻が前に出た。距離が60キロに縮まった。さらに50キロ。その数字がモニターに表示された瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。


 50キロ。バフ圏内だ。プリンセス・オーラの有効範囲。この距離に入った艦には、エネルギー出力の上昇効果がかかる。もちろん、向こうはそんなこと知らない。俺もゲーム知識でしか知らないし、この世界で実測したこともない。だが、50キロという数字が、ただの偶然とは思えなかった。


 リーネの声が、遠隔中継の通信越しに入った。その声は、先ほどよりもさらに緊迫している。


「ケイト。これは偵察じゃないわ」


「分かってる」


 俺は静かに答える。モニターの光点が、まるで生き物のように蠢いている。


「威力偵察よ。距離を詰めて、こちらの反応を見てる。撃つか、逃げるか、何もしないか。それによって次の判断を変えるつもりだわ」


 威力偵察。攻撃する気があるかどうかのテスト。相手もまた、俺たちを試している。


「どうする、ケイト。反応するか?」


「しない。何もしない。隙を見せ続ける」


 50キロの距離で、何もしない。挑発されても動かない。弱いフリを続ける。それは、俺の心臓を鷲掴みにするような、とてつもないプレッシャーだった。


 ヴェルナーが静かに言った。


「度胸がありますね」


「度胸じゃない。作戦だ」


 俺は強がって見せたが、ヴェルナーはすぐに俺の言葉を打ち消した。


「作戦を実行するのに度胸が要らないとは言えません」


 俺は黙った。否定できなかった。確かに、これは度胸がいる。とてつもない度胸が。

* * *

 その時。センサーが、新たな反応を捉えた。モニターに、それまでとは違う、複数の光点が現れる。俺の心臓が、嫌な音を立てて跳ね上がった。


「方位320。艦影複数。距離200キロ。接近中」


 俺の声が、自分でも分かるほど固くなった。200キロ先に、複数の艦。偵察艇じゃない。もっと大きい。本物だ。


「数は?」


 リーネが遠隔で解析している。数秒後、彼女の声が響いた。


「6隻。中型艦2隻を含む。速度から見て、戦闘態勢で接近してる」


 6隻。中型艦2隻。本隊だ。偵察艇3隻が前座で、後ろから本隊が来た。俺たちが3隻しかいないと見て、動いた。作戦通りだ。相手は食いついた。だが、6隻。予想より多い。冷や汗が、背中を伝う。


 ヴェルナーの声が、普段の冷静さを失い、低く響いた。


「ケイトさん。判断を」


 撤退か、応戦か。いや。どちらでもない。俺は、この状況を待っていた。


「ガルド、リーネ。戻れ!」

* * *

 ヴァナルガンドとヘルメティカが、潜伏位置から全速で復帰した。メーディアのモニターに、2つの反応が勢いよく戻ってくる。ガルドのヴァナルガンドが右翼から、リーネのヘルメティカが左翼から。3隻が5隻に戻った。


 偵察艇の動きが止まった。50キロにいた1隻が、急減速。他の2隻も動きを止めた。そして、200キロ先の本隊。6隻の艦影が、減速を始めた。止まった。接近をやめた。


「……止まったな」


 ガルドが通信で言った。拍子抜けしたような、しかしどこか安堵した声だった。


「止まったわね。3隻だと思ったら5隻いた。計算が合わなくなったのよ」


 リーネの分析。3隻の手薄な編隊なら6隻で圧倒できる。だが5隻相手では数的優位が薄い。しかもそのうち1隻がヴァナルガンド。ガルドの火力は、赤牙を壊滅させた実績がある。リスクが合わない。だから引いた。慎重な指揮官の判断だ。


 偵察艇が反転した。本隊も反転した。来た方向に戻っていく。まるで、潮が引くように、敵の反応が遠ざかっていく。


 ヴェルナーが言った。


「撤退しましたね。数的優位がなくなった時点で、即座に引く。判断が早い」


「慎重な指揮官ってことか」


「慎重で、合理的です。勝てない戦はしない。勝てる時だけ動く。厄介なタイプです」


 厄介。がむしゃらに突っ込んでくる敵なら、ガルドが殴って終わる。だが、勝てない戦をしない相手は、こちらの隙を待ち続ける。

* * *

 接触未遂。戦闘は起きなかった。1発も撃たれなかった。だが、得たものは大きかった。メーディアの食堂。5人で報告会。リーネが端末を広げ、無数のデータが宙域図に重ねて表示される。


「整理するわよ」


 彼女は淡々と、しかし確信に満ちた声で語り始めた。


「1つ。相手は攻撃する意図がある。3隻の編隊を見て、本隊6隻を動かした。偵察だけの組織じゃない」


「2つ。ただし、数的優位がある時だけ動く。5隻に戻った時点で即撤退した。慎重な指揮官が率いている」


「3つ。本隊は中型艦2隻を含む6隻。偵察艇3隻と合わせて、今回確認できたのは9隻。ゼルヴァの全戦力18隻のうち、半分を動かしてきたことになる」


「半分を囮に使ったってことは、残り半分は拠点の防衛に回してるのか」


 俺の問いに、リーネは頷く。


「そう考えるのが自然ね」


 ガルドが唸った。その顔には、不満と、そしてどこか悔しさが滲んでいる。


「結局殴れなかったな」


「殴る回じゃなかった。情報を取る回だ」


「分かってる。分かってるけど、50キロまで来た時は正直手が震えた。撃ちたかった」


 その気持ちは痛いほど分かる。俺だって、あの瞬間、引き金を引きたかった。だが、耐えた。作戦のために。


「耐えてくれて助かった」


「お前の作戦だからな。信用してる」


 ガルドにそう言われると、少し重い。この信頼に応えなければならない。

* * *

 ヴェーバー中佐に報告を送った。本隊6隻の艦影データ。速度、編隊構成、接近パターン、撤退のタイミング。リーネがまとめた詳細なログ。返信は1時間で来た。早い。


「これで十分です。偵察艇の帰還データと合わせて、拠点の位置を絞り込めます。次のステップに移ります」


 次のステップ。俺の胸に、期待と、そしてわずかな不安が交錯する。


「囮任務は今回で完了とします。ご協力に感謝いたします。報酬は本日中に振り込みます」


 完了。3回の囮任務が終わった。


「なお、今後の展開についてはまた改めてご相談させてください。あなた方の旅団には、引き続きお力をお借りしたいと考えています」


 引き続き。まだ終わりじゃないということだ。

* * *

 夜。メーディアの艦橋。


 シャンデリアの光を見上げる。無数のクリスタルが、宇宙の闇を映してきらめいている。


 3回飛んだ。3回光った。3回見られた。1回目は200キロで見ていた目が、2回目は120キロに、3回目は50キロまで来た。そして、本隊が動いた。向こうの意図は分かった。攻撃する気がある。ただし慎重に。勝てる時だけ。こちらの情報も相当持っていかれた。編隊構成、速度、航路パターン、センサー範囲。向こうはそれを全部分析している。


 だが、こちらも取った。偵察艇のパターン。本隊の規模。撤退の判断速度。指揮官の性格。そして、拠点の方向。軍が次にどう動くかは分からない。だが、囮としての仕事は終わった。こいつは囮として十分に役に立った。光って、目立って、相手の目を引いた。嫌になるくらい目立つ船が、嫌になるくらい目立つ仕事をした。まあ、いつものことだ。


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