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光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
贖罪
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第一〇二話 蒼い炎

魔力が目覚めた翌朝、兵舎は朝から妙に落ち着かなかった。


理由は明白だった。


マーニが魔力に目覚めた。


しかも訓練中。


しかもユウの前で。


昨夜から兵舎中でその話が広がっていた。


食堂でも廊下でも同じ話題。


「属性は何だろうな」


「風か?」


「父親が剣士なら土とかじゃないか」


「いや火っぽかったぞ」


当の本人は落ち着かないまま朝食を終えた。


手の中にはまだ昨日の感覚が残っている。


あの揺らぎ。


胸の奥から流れたもの。


制御できたとは言えない。


だが確かに力だった。


そのため、午前訓練の前に教会へ行くことになった。


王都中央にある古い礼拝堂。


高い天井。


静かな光。


祭壇前には属性鑑定用の魔導石が置かれている。


王国では魔力に目覚めた者は必ずここで確認する決まりだった。


同行したのはレオンとアレン。


ユウは面倒だと言いながら結局ついてきた。


「逃げるなよ」


アレンにそう言われ、ユウは露骨に面倒そうな顔をしていた。


神官が魔導石の前へ案内する。


年老いた神官はマーニを見る。


「手を置いて、力を流してください」


緊張する。


掌を石へ置く。


冷たい。


深く息を吸う。


昨日と同じように胸の奥を意識する。


ゆっくり流す。


最初は何も起きない。


次の瞬間。


石の中心に青い線が走った。


一筋。


二筋。


そして一気に広がる。


眩しいほどの蒼。


神官の目が見開く。


周囲の空気が震えた。


石の上に火が灯る。


だが赤ではない。


青でもない。


深く澄んだ蒼。


揺れる炎。


冷たそうに見えるのに、近づくと熱がある。


「……これは」


神官が一歩下がる。


「固有元素……」


マーニが息を呑む。


「固有……?」


神官がゆっくり言葉を続けた。


「通常属性ではありません」


「火属性の上位分岐――蒼炎です」


静寂。


アレンが少しだけ目を細める。


レオンも石を見ている。


ユウだけは腕を組んだまま。


だがわずかに視線が変わった。


神官は珍しく興奮していた。


「通常の火とは違います」


「高温と魔力干渉を併せ持つ特殊炎」


「適性者は非常に少ない」


「王都でも記録は数えるほどです」


マーニは蒼い炎を見る。


自分の掌の先に灯る。


揺れる。


小さい。


だが明らかに普通ではない。


神官が続ける。


「制御を誤れば危険ですが……」


「鍛えれば非常に強い」


その言葉に胸が強く鳴る。


強い。


その言葉が真っ直ぐ入る。


自然と横を見る。


ユウ。


レオン。


アレン。


規格外の三人。


遠い。


昨日まで、ただ遠かった。


だが今――


少しだけ。


ほんの少しだけ。


道が見えた気がした。


自分にも何かある。


並べるかもしれない。


もちろん今は到底無理だ。


影狼三体で息が切れる。


父の影にもまだ勝てない。


だが、


「……並べるかも」


無意識に声が漏れる。


小さかったが、三人には聞こえた。


アレンが笑う。


「いい顔になったな」


レオンは短く言う。


「期待はしていい」


ユウは一拍置いてから、


「その前に燃やすな」


現実的だった。


神官が少し困惑しながら補足する。


「蒼炎は感情で暴れやすい傾向があります」


「怒り、焦り、恐怖で出力が跳ねます」


ユウが即座に言う。


「ほら危ない」


「お前向きじゃない」


マーニは少しだけ苦笑する。


だが嫌ではない。


掌の蒼い火を見る。


父は普通の魔力だったらしい。


自分は違う。


違うが、父の先を行ける可能性がある。


礼拝堂を出ると朝日が石畳を照らしていた。


青い炎がまだ指先に小さく残る。


アレンが歩きながら言う。


「午後から増えるな」


「何がですか」


レオンが即答する。


「全部」


嫌な予感しかしない。


ユウはすでに先へ歩いていた。


「蒼炎なら影燃やせる」


「試す」


「え?」


「影狼三十」


「増えてる!?」


叫びが礼拝堂前に響く。


だがその叫びの奥で、


マーニの胸には昨日までなかった期待が確かに灯っていた。


蒼い火のように。


まだ小さい。


けれど消えない。

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