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光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
贖罪
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第一〇三話 過去

教会から戻る途中、訓練開始まで少し時間があった。


王都の大通りを歩きながらも、マーニの頭の中はまだ蒼炎でいっぱいだった。


掌を開けば、ほんのわずかに青い揺らぎが残る気がする。


実際にはもう消えている。


だが感覚だけが残っていた。


その横を歩くアレンが、不意に口を開いた。


「そういえば」


「俺たちも昔、教会で測ったな」


マーニが振り向く。


「アレン殿もですか」


「まあな」


後ろを歩くユウが面倒そうに肩をすくめた。


「教会じゃない」


「ギルドだった」


マーニは少し意外そうな顔をする。


「冒険者ギルドで?」


冒険者ギルドには簡易魔導測定石がある。


新人登録時、最低限の魔力量を見るためだ。


だが普通は属性までは細かく見ない。


レオンが横から小さく言う。


「二人ともその時点で問題を起こした」


アレンが苦笑する。


「いや、起こすつもりはなかった」


ユウは即答した。


「壊れただけ」


「壊したんだろ」


「壊れた」


二人とも言い方だけ違う。


マーニは思わず聞く。


「……どういうことですか」


アレンが少し懐かしそうに笑った。


あれはまだ王都へ来たばかりの頃。


金もなく、泊まる場所もなく、


とりあえず仕事を得るためにギルドへ行った。


朝から混んでいた。


受付前には新人も多かった。


測定石は登録机の横に置かれている。


透明な球体。


掌を乗せて魔力を流すだけ。


普通なら淡く光る。


それで終わり。


先にアレンだった。


受付嬢が笑顔で説明した。


「軽く流してくださいね」


「強くやると誤差が出ますので」


アレンは素直に頷いた。


手を置く。


少しだけ流す。


その瞬間。


球体全体に亀裂が走った。


乾いた音。


次の瞬間、砕けた。


受付嬢が固まる。


後ろに並んでいた冒険者たちも沈黙した。


床に透明な破片が転がる。


アレン自身が一番驚いていた。


「……あれ?」


受付嬢が震える声で言った。


「す、少々お待ちください」


奥から予備が出てくる。


少し高価そうな大きい石だった。


「こちらなら……」


アレンは苦笑しながらもう一度置く。


今度はかなり慎重に。


だが――


パキン。


また砕けた。


その瞬間、ギルド中がざわついた。


「なんだ今の」


「壊したぞ」


「新人だろ?」


アレンは完全に困った顔だった。


そこへ横からユウが前へ出る。


「貸して」


受付嬢はすでに引いていた。


「い、いえその……」


「俺なら平気」


根拠はない。


新しい三つ目が運ばれる。


ユウが手を置く。


一瞬、黒い影が石の内側に走る。


次の瞬間。


粉々になった。


今度は砕けるというより、消し飛んだ。


机ごとひびが入る。


受付嬢が悲鳴を上げた。


後ろで見ていた冒険者が吹き出す。


「なんだこいつら!」


「二人目もかよ!」


「新人で何なんだよ!」


アレンが苦笑。


ユウは少しだけ得意そうだった。


「俺の方が派手」


「競うな」


「お前二個目だった」


「壊した数は同じだろ」


その場でギルド長が呼ばれた。


大柄な男だった。


二人を見るなり、


「……外でやれ」


第一声がそれだった。


結局、外で簡易戦闘確認になった。


そこでさらに騒ぎになった。


木剣一本で的を両断するアレン。


影で訓練用人形を丸ごと呑むユウ。


見物人が増え、


その日のうちに二人の名前が広まった。


「で、その日の夕方には依頼押しつけられてた」


アレンが笑う。


「最初の依頼が山賊退治だったな」


ユウがぼそりと言う。


「半日で終わった」


レオンが淡々と補足する。


「その山賊の拠点ごと消えた」


「言い方」


マーニは思わず笑った。


規格外だとは思っていた。


だが最初からここまでだったとは思わない。


アレンが横を見る。


「だから石壊してもあまり気にするな」


「お前はまだ割ってない」


マーニは少し安心する。


蒼炎は珍しい。


だがこの人たちは基準が違う。


ユウが振り返る。


「ただし調子乗るな」


「はい」


「午後、影狼三十」


「やっぱり増えるんですね!?」


アレンが肩をすくめる。


「順当だな」


レオンが静かに付け足す。


「蒼炎確認もする」


逃げ道はなかった。


だが少しだけ笑える。


この三人が昔も騒ぎを起こしていたと知ったからだ。


遠い背中だと思っていた。


けれど最初から完璧だったわけではない。


壊しながら進んでいた。


なら、自分も進めるかもしれない。


胸の奥で蒼い火が静かに揺れた。

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