表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『Echoes of Logos ― 夢幻令嬢、迷宮に堕つ。―』  作者: ちょいシン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/49

第8話:白昼夢と耳鳴りと

花桜学園に広がる、奇妙な噂。“誰もいない教室からの声”“消えない人影”——。副会長・草野みよりの言葉に導かれ、紗雪の目の前に現れる“それ”とは?

翌朝。九重紗雪(ここのえさゆき)は、何事もなかったように制服に袖を通し、花桜学園(かおうがくえん)の正門をくぐった。


(……なにか、おかしい)


校舎の空気が重い。


一昨日の夜、西棟の旧校舎で見た“それ”——縷々の影を奪った黒いもの——の記憶が、まだ体内に残っているようだった。


「おはようございます、九重さん」


ふいに声をかけられ、紗雪は振り向いた。


副生徒会長の草野(くさの) みよりだった。


白銀の眼鏡に淡い笑みを貼りつけた、冷静沈着な三年生。


「少し、お顔色が悪いようですね。最近、校内で奇妙なことが続いていますから……」


「え?」


「ほら、掲示板に貼ってあったでしょう? “廊下に立つ人影が消えない”とか、“誰もいない教室から声がする”とか。


どこかの一年生が、また『旧校舎の怪談』を流行らせているらしい」


紗雪は心臓が跳ねるのを感じた。


(それって……縷々が最後に書いていたことと、同じじゃない)


「草野先輩、その噂って、どこで詳しく聞けますか?」


「ふふ、さすがですね。九重さん。もし気になるなら……放課後、生徒会室に来てください」


彼はそう言って背を向けた。まるで最初から、紗雪がその質問をすることを読んでいたかのように。


その日。


午後の国語の授業中、紗雪の視界が急にぐにゃりと歪んだ。


——ざざざ……ざ……耳鳴り……?


(また、これ……昨日の“影”の直前と同じ——)


気づけば、教室の中で時が止まったように、誰も動かなくなっていた。教壇に立つ早乙女教諭までも。


ひとり、時間の流れから切り離されたような孤独感。息ができないほどの圧迫感。


(……誰?)


そのとき、黒板の前に立っていた“何か”が、紗雪のほうをゆっくりと振り返った。


顔がない。


ただ、白紙のような仮面が、こちらを見つめている。


「さ……ゆき……」


影のようなものが口を動かした。けれどその瞬間、現実が波紋のように歪んで、紗雪は机に突っ伏す。


「……九重さん? どうしたの、顔色が真っ青よ!」


クラスメイトの声に、はっと目を開けた。教室は元どおりだった。


時計の針は進んでいて、生徒たちは普通に授業を受けていた。


だが、ノートの余白に、誰かの手で殴り書きされたような文字があった。


『見たね』


その文字は、紗雪が記した覚えのないものだった。

教室での白昼夢、仮面の存在、ノートの『見たね』の文字。現実と非現実の境界が溶けていく中、紗雪は一人、名もなき存在の視線を感じはじめる——次回、真実の扉が軋み始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ