第47話: 真観式「手空忽」の初稽古
修復中の旧校舎体育館に代わり、普段使いの体育館で――夜7時。五人は真観の導きで、初めての「本格修行」を迎える。道場を構えずとも、そこにあるのは“これから”に向けた本気の稽古。それぞれに与えられた対策は、“攻撃”と“受け”、そして“コツ”を身につける武の時間だった。
19時――部活動が終わった体育館は、ライトだけがぽつりと灯りを残し、五人を待っていた。紗雪、縷々、みより、神明隼人、そして浦見真観が並ぶ。
真観は静かに語る。
「旧体育館は工事中。今日はここを使わせてもらいます。狭いですが、稽古には十分です」
隼人は刀を手に持ちながら、真剣な表情。
紗雪は少し緊張しながら、柄を掴む位置を確認する。
縷々は槍の構え――薙刀とやや似ているが、“槍術の咄嗟の切り返し”が肝だと聞かされる。
みよりは素手。打撃、投げ、抑え込み。今日のテーマは“まずは構え、基本の歩法を覚えること”。
真観はそれぞれの前に立ち、それぞれの武器や技に触れながら深く説明を始める。
「我が修業の基盤は“手空忽”。
手――攻撃し、
空――攻撃をいなす(受け・流し・避け)を行い、
忽――その“コツ”を体に覚え込ませる。
これは一本の技術ではなく“概念”です」
刹那の間、真観は刀の構えから、斬り下ろし、受け返し、そして流し、反撃へと繋ぐ流れをゆっくり、丁寧に実演する。
「刀術、槍術、体術、それぞれ異なる道具や身体ですが、根底にある“構え”と“流れ”は同じ。だからこそ学べば全てに応用できる」
隼人が頷いた。
みよりが眉を寄せる。
紗雪は刀身を見つめながら、自身の呼吸に集中する。
縷々もまた、槍先を見据えていた。
個別指導の始まり
隼人:刀術
真観は隼人に構えの微調整から始める。重心の位置、刀の角度、握力――すべては一瞬の攻防に直結する。
短刀術は心得ている隼人だったが、今日はさらに“空”の技を深めるための受け返しと流しを重点的に稽古。
真観の太鼓判はこうだった――「刀術が深まるほど、防御の効率も上がる」。
紗雪:刀術(初級)
紗雪は今日、刀を初めて腰に差す。
真観が構えを整え、斬り下ろす稽古から始める。
彼はまずこう告げた――「刀は己の意志を映す。心の中の静けさと呼吸を刃に乗せるのだ」
紗雪は最初ぎこちなく、だが真観の声に呼吸を合わせ、刹那の静寂とともに刀を振る。
縷々:槍術
「薙刀と似ているが、槍はより一点集中だ。刺す、突くの間合いを覚えろ」
真観がそう囁き、縷々に槍を任せる。
縷々は槍先を真っすぐに、細やかな重心移動とともに動かす。
真観は褒めつつも「“空”にも使えるようになると、槍術はさらに深くなる」と声をかけた。
みより:体術
みよりには基本の構えと歩法を伝える。足の運び、腰の落とし方、肩の使い方――
「これは刀にも槍にも活きる基礎だ」と真観。
みよりは一歩一歩、打撃の構えから膝蹴り、投げ技の踏み込み動作へと進む。
その覚えの速さに、真観はわずかに驚きの表情を見せた。
稽古は単体からチームへ。
真観はまず二人一組の受け返しを課す。
隼人とみよりが組み、「手=打撃・投げ」「空=流し・受け」「忽=小技のコツ」を意識しながら互いに技をかけ合った。
紗雪と縷々は武器を持って連携する練習。
槍で牽制し、刀でカウンター、三人で“動きながら連携”し、多彩な技の織り成す“和”を体験する。
稽古を終えた後、全員で体育館の外に座り、汗を拭いながら話す。
真観は静かに語る。
「今日皆がしたのは“手空忽の基礎”。
弘法大師空海上人より千二百年に渡り継承し続けた私は、これを武術の根本と呼び、練磨してきました。
次は二刀術、槍術から刀術へ、さらに棍術、二相棍術、投擲術へと広がります。
全員がそれらを身につければ、どんな戦いでも、どんな“不意”にも対応できる」
皆、真観の語りに息を呑む。
「――本気ですか?」紗雪が吐露する。
真観は「ごく当然の期待だ」と微笑む。
隼人も縷々も、みよりも、覚悟を示す頷きを返した。
稽古の最後、真観は皆を中央に集める。
「これから続く戦いは、肉体の強さだけではありません。
鍛えられるのは“意志”です。
心が揺れれば、技も空となる。
だからまず技を通じて“呼吸と心をひとつにする稽古”を続けてほしい」
火照った顔を見つめながら、真観は言葉を加える。
「来週からは二日ごとに稽古します。
旧校舎が修復し終われば、あの静かな場所に戻りますが、まずはこの体育館で“手空忽”を磨きましょう」
夜の闇と汗の匂いが混じる体育館。
五人はそれぞれ、次への歩みを胸に誓った。
真観による初の稽古は、“手空忽”の概念と個別・連携の基礎技を学ぶ夜だった。
武具もポーズも異なれど、その根底は一つ。
これから彼らは、多様な術と共に“意志の一致”をも鍛え、戦いへの備えを深めていく。




