覚醒
少し時間を巻き戻そう。
普段は互いに気遣い合い、利害の一致によって良好な関係を保っていた二人。しかし今まさに、その二人が激突しようとしている。
しかもそれは、紛れもなく悪性の競争だった。勝利のためなら手段を選ばない。試合が終わった後、関係がどうなるかなど考えもしない。ただ、自分の目的だけを見据えている。
二人が協力して六月六日を先に排除することはない。確かに六日を先に脱落させるか、あるいは見逃した方が、その後の決戦はやりやすくなるだろう。
だが、目の前の強敵と死力を尽くして戦う方が、よほど面白い。
「六月六日なんて、後回しでいい。」雨水はあっさりと言い放つ。
その一言は、六日に深刻なダメージを与えた。
「私も同感よ。」美紀子は陰険な笑みを浮かべる。
六日はさらに精神的ダメージを受けた。
六日は雨水の放った磁石の一つに引き寄せられ、鉄製の物体に吸い付けられてしまう。必死にもがくが、びくともしない。
(この状態で敵に見つかったら……終わりだ……)そう思った六日に、雨水は冷たく言い放つ。「あとで楽にしてやる。そこで大人しく待っていろ。」その声音には、圧倒的な傲慢さが滲んでいた。
開戦の合図すら必要なかった。
雨水の磁石はすでに美紀子の目前へと迫り、彼女を押し潰そうとする。美紀子は跳躍し、間一髪でそれを回避。
磁石は形状を変え、二頭の狼のような巨獣となり、美紀子を店の外へと追い出す。壁が砕け、煙を突き破って美紀子が飛び出す。その直後、雨水が屋根を突き破り、上空から追撃を仕掛ける。
周囲の鉄製の物体が一斉に宙へと浮かび、雨水のもとへ集束する。彼が手を振ると、それらは一瞬で無数の弾丸と化し、美紀子へと降り注いだ。
だが、美紀子もただの相手ではない。
彼女は軽やかに身を翻し、すべてを回避。鉄塊は地面へと激突し、床を粉砕する。まるで妖精のように舞いながら、美紀子は指を鳴らした。
その瞬間――雨水の指が三本、不自然に捻じ曲がる。「……っ!」幻痛が脳を揺さぶり、思考が一瞬乱れる。
「それだけじゃないわよ。」さらに、宙に浮かんでいた雨水の両脚が奇妙な力で捻じ曲げられ、不自然な方向へと反転する。激痛が脳内に流れ込み、彼の身体はゆっくりと地面へと落ちていく。
「しばらくは動けないでしょう?」美紀子は仕留めることも考えたが、リスクが高すぎると判断していた。長時間の拘束こそが最善――そう結論づけていた。
しかし。
雨水には、まだ一本の手が残っていた。
彼は指で「7」の形を作り、それをゆっくりと回転させる。
次の瞬間。
美紀子の体が、強烈な引力によって引き寄せられた。「っ……!」磁石の一つに叩きつけられ、骨が軋むほどの衝撃が走る。「……そんな……」美紀子は息を詰まらせる。
彼女は雨水の能力について、断片的にしか理解していなかった。絶対的な勝利を求めるがゆえに、雨水は常に力と仕組みを隠し続けているのだ。
六日は理解した。彼女の勉強は決して無駄ではなかった。
雨水は磁石を操っている、ならば、磁場そのものに干渉しているはず。つまり。
次の瞬間、さらに大量の鉄塊が美紀子へと襲いかかる。激しく衝突し、その隙間から血が滲み出るのを、六日はかすかに見た。耐えきれず、目を閉じる。
甘く濃厚なジャスミンの香りが、雨水と六日の鼻腔を満たした。骨の奥から砕かれるような激痛が全身を貫く。六日は膝から崩れ落ち、涙をこぼす。
だが、上空の雨水はそれ以上だった。残された片腕がねじ折られ、さらに首、腰、肩までもが歪められていく。まるで死へと強引に引きずり込まれているかのように。悲鳴すら上げられぬまま、雨水の意識は途切れ、そのまま地面へと落下していく。
磁石も、鉄塊も、美紀子も、すべてが落ちていく。
だが、美紀子だけは、空中で塵のように風に散るように消えていった。
それでも、痛みは消えない。
(ということは……!)六日は朦朧としながら顔を上げる。
すると。どこからともなく、美紀子の姿がゆっくりと再構築され、現れた。そのまま、こちらへ歩み寄ってくる。自信に満ちた笑み。勝利はすでに手中にあるとでも言いたげに。
あとは六月六日を仕留めるだけ、おまけのように。
その瞬間。
強烈な電流が、美紀子の頬をかすめた。柔らかな髪が一部焼き切れる。
「っ!?」美紀子が振り返る。
そこには。
無傷の黒羽雨水が、路地裏から現れていた。頭上に。煙を上げる電磁砲。
「やっぱり……でも、どうして……?」美紀子は思わず数歩後退する。
雨水が再び撃てば、自分は確実に脱落する。「お前たちと同じことをしただけだ。」雨水は余裕の笑みを浮かべる。
「色欲に溺れる連中への対策として、最初から沙樹海棠をチームに入れておいた。これまで役に立たないことも多かったが……私の幻影を作ったことで、ようやく帳消しだな。」軽く肩をすくめる。称賛なのか皮肉なのか分からない口調だった。
「まさか……」美紀子は再び香水瓶を取り出す。同じ技で決めるつもりだ。
雨水の電磁砲が、すでに再起動していた。砲口に、圧倒的なエネルギーが収束する。
「六月六日、約束を果たす」
「なっ……!?」なぜ今それを言うのか。六日は思わず幼い頃の記憶をよぎらせる。
誰よりも背が高く、常に見下ろすように立っていたあの姿。
発射、寸前。突如、激しい振動が大地を揺らした。
雨水はやむなく砲撃を中断する。三人は同時に音の方へ視線を向けた。
建物が次々と崩壊し、落下する瓦礫がさらなる振動を引き起こす。濛々とした煙塵が視界を覆う。
その煙を切り裂くように、二つの巨大な影が現れた。互いに噛みつき、殴り合う怪物。
バフォメットとミノタウロスだった。
バフォメットは紫の砲撃を連射し、ミノタウロスは巨大な戦斧を振り回す。
建物は次々と粉砕され、さらなる煙が舞い上がる。
その光景を見た瞬間、雨水と美紀子の表情は、凍りついた。絶望が、そこにあった。
雨水も美紀子も、それが何なのか分かっていた。だが、あの化け物が、二体もいるというのか。雨水はすぐに冷静さを取り戻し、テレパシーを発動する。「ダニエル、とら!出口を開けろ!それと、この場所に映像を展開しろ!全員、戦闘を中止!各自、地獄回廊のゲートへ向かえ!」雨水は磁石に拘束されたままの六日を背負う。六日は思わず驚き、息を呑んだ。「すぐに終わる。少し耐えろ!」ついさっきまで敵同士だったにもかかわらず、雨水は迷いなく六日を気遣っていた。
場外のとらとダニエルは、最初こそ状況を飲み込めずにいたが、雨水の強い命令でようやく動き出す。「わ、分かった!」
マモンは冷静な表情のまま魔法を展開し、外界へ通じる門を開いたさらに、そこに派手な花火を打ち上げ、視線を集めて出口の位置を知らせる。
「放っておいていいの?!」六日は思わず叫ぶ。
「今は全悪魔を一時的に管理している立場だ。無駄死にはさせない!ここは撤退が正解だ——それより、お前の父親は呼べないのか?!」
六日は一瞬、体を震わせる。「父は……」言葉が途切れる。
雨水はすぐに察した。「そうか……なら、当てにはできないな。本来なら、この状況を収められる可能性が一番高い存在だが……」
そして視線を美紀子へ向ける。「美紀子、いつまで突っ立っている!早く逃げろ!」
美紀子はしばらく動かなかった。
また、同じことが起きている。
自分の何が足りなかったのか。義弟への気遣いが足りなかったのか。なぜ、いつも彼ばかりが巻き込まれるのか。
罪悪感が胸を這い上がる。まるで毒を流し込まれたかのように、身体が動かない。
六日は深く考える暇もなく、美紀子の手を掴んだ。「立春さん、離さないでください!」
その一言で、美紀子ははっと我に返る。二人は急いで雨水の後を追い、安全地帯へと駆け出した。
命令を受けた星児は、不満を抱えながらも、まずは六日と海棠を探すことにした。そして幸運にも、ある角を曲がった先で海棠と合流する。「沙樹!」星児は安堵の声を上げた。
「感動の再会は後にして。この辺りは出口から遠いわ。急がないと。」なぜか海棠は異様なほど冷静だった。普段の彼女からは考えられない落ち着きだ。
理由は分からないが、星児は深く考えずに頷く。
すると海棠は続けた。「近道、分かる気がする。」自分でも理由は分からない。ただ、この場所に奇妙な既視感がある。さっきまでその正体を探ることに意識を向けすぎて、戦闘すら後回しにしていたほどだ。
「ついてきて!」
あまりに唐突な言葉だったが、星児は結局そのまま従った。「待て、先に六日を——」言い終わる前に、上空に巨大なスクリーンが展開される。そこには六日、美紀子、そして雨水の姿が映っていた。
「黒羽さんと一緒か……」
「なら、ひとまず心配はいらない。行こう!」
二体の魔神による振動が、この場所にも及ぶ。地面は激しく揺れ、立っているのも困難になる。建物は次々と崩壊し、瓦礫が雨のように降り注ぐ。頭上のものもすべて落下し、二人をかすめていく。
海棠の走る速度は決して速くない。曲がるべき場所の指示も遅れがちで、途中で何度も立ち止まり、息を切らしてしまう。
「だから言っただろ、ちゃんと運動しろって!」星児は思わずツッコミを入れる。
「ご、ごめん……っ」海棠は息も絶え絶えで、まともに喋ることすらできない。そのとき、彼女の脳裏に、馬車が立ち並ぶ通りの光景がよぎる。
(ここ……馬車が集まる場所……?)
なぜそんなことを知っているのか、自分でも分からない。
「馬車を使おう!この先よ!私が道を指示するから、あんたが操って!」幻影とはいえ、利用は可能なはず。海棠は進路を変え、星児を導く。
「俺、馬車なんて運転したことないんだけど!?」
「そんなこと言ってる場合!?」
一方その頃。
「あいぼ!」大暑は、ついに月光を見つけた。
しかし、月光は苦しそうな表情で壁にもたれ、荒い呼吸を繰り返している。
「あいぼ、大丈夫か!?」大暑が駆け寄る。
「頭が……急に、痛くて……」やっとのことで言葉を絞り出すと、月光はそのまま崩れ落ちた。
大暑は慌てて支える。「まずはゲートへ向かうぞ。」
「待って……六月を……」だがその言葉も、次第に途切れていく。
魔神の影響で、この一帯も崩壊が進んでいた。建物は砕け、揺れは激しさを増し、立っていることすら困難になる。
「ここを離れるのが先だ。」大暑はそう言い、スクリーンへと目を向けた。仲間を優先するか、安全を取るか、一瞬の迷い。だが彼は決断する。翼を広げ、月光を抱えたままゲートへと飛び立った。
バフォメットとミノタウロスの死闘は、なおも続いていた。
バフォメットは何度も地面へ叩きつけられ、そのたびに街路や建物が広範囲に破壊される。巻き上がる煙塵が視界を覆い、美紀子たちを押し潰しかけるほどだった。
一方、ミノタウロスは興奮したように荒い息を吐き、戦斧を軽々と振り回す。振り下ろされた一撃を、バフォメットは寸前で回避。その余波だけで、さらに被害は拡大していく。
「なんだよこれ……!戦いながら追ってきてるじゃないか!」雨水は即座に電磁浮遊盤を展開し、飛行が苦手な二人を乗せる。
だが、どれだけ速度を上げても、ミノタウロスは執拗に追いすがる。そしてその後ろから、バフォメットも食らいついてくる。まるで終わりの見えない、災厄そのものの追撃だった。
「さっき……あいつ、立春さんを見てた気がする……」六日は不安げに呟く。
「うそでしょ!?」美紀子の顔が一瞬で青ざめる。なぜか彼女は、そういう意味での運が悪い。
「とにかく、さらに加速する!振り落とされるなよ!」浮遊盤が一気に加速する。二人の体が後方へ引き剥がされそうになる。
「ねえ、いっそ戦ってみるって選択肢は——!?」美紀子はわずかな希望に縋る。
「バカか!前にどれだけ酷い目に遭ったか忘れたのか!」
その瞬間。ミノタウロスが一歩で間合いを詰め、進路を強引に遮った。巨大な手が、美紀子へと伸びる。
反撃を試みても——傷一つ付かない。結局、方向を変えて逃げ続けるしかない。
(強すぎる……)六日の胸に、恐怖がじわじわと広がっていく。
遠くに見える花火は、すでにかすれている。安全なゲートは、むしろ遠ざかっているようだった。
(海棠たち……無事でいて……)祈った、その直後。
バフォメットの一撃が、雨水を直撃した。
電磁浮遊盤が停止する。
三人の体が、空中から投げ出された。
幸運にも、下は密集した樹海だった。枝葉がクッションとなり、「ざあっ」という音を立てながら落下の衝撃を和らげる。浮遊盤は地面へ激突し、大きく跳ねた。壊れていてもおかしくない。三人は木の枝に引っかかる形で止まった。美紀子と六日は意識を保っている。二人は協力して、気絶した雨水を下ろそうとする。
その時。
まるで無情な神のように。何かが、空を覆うほどの枝葉をかき分けた。
そして。
震える二人を、見下ろした。
「……あのデカさ、何なんだよ!?ウルトラマンでも撮ってんのか!?」遠くから馬車を必死に操る星児と海棠も、その異様な光景をはっきりと視認していた。
望んでもいないのに、二体の魔神はさらに巨大化していく。
しかも、そこは、ゲートへ続く近道。引き返すことはできない。
「もーー最悪だよ!!あいつら、道を塞いでる!!ここで止めるしかない!」と、海棠は悲鳴のように叫んだ。
「無理だ……!」星児の声は震えていた。「さっきから何しても、この首なし馬……止まらない……!」
そして馬車は、そのまま魔神の足元へ突っ込んだ。次の瞬間、ミノタウロスが軽く足を動かす。それだけで人も馬車も、遥か彼方へと吹き飛ばされた。
空中をしばらく吹き飛ばされた末、二人は空を飛んでいた大暑に救われた。まるで野球のキャッチャーのように、その大きな爪で二人を強引に受け止める。「セーフ!」大暑は得意げに叫んだ。
「先輩……!」星児は感動のあまり涙ぐむ。
「先輩、月光は……?」海棠は同じ爪の中にいる月光に気づき、不安げに問いかける。
月光は頭を抱え、激しい痛みに苦しんでいた。
「彼、頭痛がひどいんだ。とにかくゲートへ……」その時、大暑の視線が遠くを捉える。「……あれ、六月の子と……ウリクスのリーダーじゃないか?」
三人は同時にその方向を見る。
そこにはバフォメットが二人を掴み、勝ち誇るように咆哮していた。
「六月……」
「うあああ——!」強く握り締められた六日と美紀子は、身動きが取れない。このままでは、身体が押し潰されてしまう。
美紀子は必死に声を振り絞る。「満……落ち着いて……!私よ!このままだと取り返しがつかなく——」
次の瞬間。
「——ああああああああ!!!」
バフォメットは躊躇なく口を開き、美紀子をそのまま飲み込んだ。
ゲートに辿り着いていたまりやは、その光景をスクリーン越しに目撃する。
「……っ」その場に崩れ落ちた。
「お姉様、しっかりしてください!」まる子が慌てて支える。
人数確認をしていた立秋が、大声で叫ぶ。「雷道驚蟄はまだ来てないのか!?」
「いません!」
その答えに、立秋は歯を食いしばる。「大暑たちならまだしも……あいつがいないのは、どう考えてもおかしい……!」
マモンはスクリーンを見つめながら、静かに目を細める。六日の安否を気にしつつも、彼には別の思惑があった。
「立春さん——!!」六日は絶叫する。次は自分の番だと理解しながらも、必死に抵抗する。血のように赤い深淵から逃れようともがく。
「先輩、お願いです!六月を助けてください——!!」海棠は涙を流しながら叫ぶ。
「頼む……!助けてくれよ……!!」星児も膝をつき、懇願する。
「俺だって、そうしたい……!」大暑は歯を食いしばる。
だが彼らを乗せたまま、ミノタウロスが執拗に追いすがっていた。巨大な戦斧が振り回される。
一歩間違えば——全滅。-
「でも……近づけねぇんだよ!!!」
「やあ——!!」六日の悲鳴が遠くから響いた。目を凝らすと、すでに六日の姿は見えなくなっていた。星児、海棠、大暑は絶望と後悔で号泣し、月光は茫然として動けない。大門の方では、マーメンが残念そうに目を閉じた。
その瞬間、彼ら四人はミノタウロスに襲われ、高空から落下した。
頭痛はまるで脳内で何かが激しく弾けるかのようで、いつ跳び出してもおかしくない感覚だ。まるでテレビが故障したようにぼやけた映像が、急流の水のように脳を流れた。その感覚はすぐに全身へと伝わり、肝臓が激しく動き、アドレナリンは上昇し、体温の急上昇で肌は赤く染まり、魔力は溢れ、筋肉は勝手に弾む。
生きているようで、死んでいるようでもある。
夢の中の白い家の扉が、いつの間にか開いていた。
障害物を払いのけたミノタウロスは、2体の悪魔を飲み込んだバフォメットを見つめ、上昇する魔力を察知して警戒を強め、戦斧を構える。もはや軽々しく暴力を振るうことはできなかった。
バフォメットはわずかに地面を離れ、長く咆哮し、ミノタウロスの耳を震わせた。その身体が裂け、脱皮のように新たな怪物が生まれる。新バフォメットは以前より大きく、毛も濃く、角も長く、より凶悪な姿になった。血盆の口から力を集中させ、一瞬で放つ。今度の力の集中時間は明らかに短い。
ミノタウロスは反発し、長年の悪夢を先手で清算しようと戦斧を振り上げた。しかし、新バフォメットはわずかに手を上げるだけで、戦斧を握る手をねじり折った。ミノタウロスは痛みに仰け反り、まだ折れていない手足で攻撃を続ける。戦斧から放たれる斬撃は新バフォメットに飛ぶが、彼は慌てずに斬撃を歪めて消し去る。それを見て、ミノタウロスはさらに慌て、力を振り絞って斬撃を増やすも、すべて歪めて消されてしまった。
新バフォメットが徐々に自分に近づいてくる。恐怖を感じずにはいられず、足は無意識に後ろへ下がっていった。諦めて振り向き逃げ出そうとした瞬間、残っていた手足すべてがねじり折られた。その痛みだけでも断末魔の叫びを上げるに十分だったが、制裁はまだ終わらない。手足が折られた後、今度は首や腰を狙ってきた。意識が徐々に遠のく中、叫び声も次第に弱まっていく。しかし、新バフォメットはまだ自分を許す気配がない。
血盆の口から力を再び集中させ、誰でも倒れる「悪夢波動球」を放った。強烈な衝撃の後、自分は倒れた。悔しさを晴らすため、前へ駆け寄り、意識を失った相手に拳を打ち込む。一発一発がさっきの一撃への復讐だった。やがて、その巨大な体はまるで壊れた模型のようになり、元の姿はもはや見えなくなった。
その時、犬飼そっくりになろうとしていた戸川の前に、一筋の雷のような影が現れた。片手だけで戸川をその一撃から防ぐ。その瞬間、新バフォメットの脳裏に、あの馴染み深い恐怖が浮かぶ。
影が引き起こす煙が散ると、新バフォメットの予想通り、その人間は汚れてはいるが、自信に満ちた光を放つ顔と、残りの雷の残滓が見えた。「久しぶりですね。」心をざわつかせる、あの馴染み深い声。狡猾な蛇の瞳は血に飢えた赤光を放つ。
その場にいる海棠も、なぜか意識を取り戻し、目をゆっくりと開けた。ぼんやりと、あの懐かしい姿が視界に入る。ルシファーは傲慢に告げた。「今回は、100%の私に勝負を挑まれたことを後悔なさるがよろしいでしょう。」




