ルシファー城
「めんどくさいなぁ。本当に毎週こうやって一本ずつ書かなきゃいけないの?」私は月光に聞いた。
「本当は毎日書くべきなんです。まあ、貴方には無理ですけど。」
「うぐぁ……」
「それじゃあ、『ルシファー城』この回正式にスタート――まずは私から登場させてもらいますからね――」
幻境の中へ自力で入り込んだわけではない。一部の悪魔しか使えない高度な魔法によって、参加者たちは境内へと転送されたのだ。転送魔法が発動している最中、その魔力の気配に月光はどこか覚えがあるような気がした。だが、誰のものなのかははっきりしない。
その転送はかなり乱暴なものだった。魔力が収束してできた通路の中で、体はぐるぐると回転させられ、最後には目が回るほどの状態で、どこかへ無造作に放り出された。
目眩でふらついていた月光は、うまく着地できなかった。太く大きな尻尾が咄嗟に尻をかばい、その代わりに地面へと激しく叩きつけられる。危うくぺしゃんこになるところだった。今は吐き気を伴うほどの目眩に加え、尾椎がじんわりと痛んでいる。
月光はその場に立ち尽くし、しばらく休むことにした。他の参加者も同じような目に遭っているかもしれないと思うと、少しだけ気が楽になる。
どうやら着地した場所は城の内部らしい。外から差し込む血のように赤い陽光が、城の内部をいくつもの区画へと切り裂いている。
建築様式はバロック風。天井は自分の頭上からおよそ二十メートルほどもあり、異様なほど高い。さらに、上の方には何かを吊るすためのような支架がいくつも設けられていた。月光はすぐに、それがコウモリ系の悪魔のためのものだと察した。蝙蝠の姿を取る悪魔は、昔から決して少なくないのだから。
好奇心と警戒心を胸に、彼は城の中をあちこち歩き回った。なぜか、この場所にほんのわずかな懐かしさを感じていた。だからこそ、まずはここを探索してみたいと思ったのだ。
ここは、夢の中で見たあの部屋とどこか似ている気がする。
だが夢の中の部屋は、柔らかなミルクホワイトの色合いだったそれに対して、この場所は冷たく、黒く沈んでいる。
しかし、不思議なことに、あの純白の色を見ても、胸の奥に濃い不安が湧き上がってくるのだ。
なぜ、そんな不安を感じるんですか......?
その答えを理解するには、まだ少し時間が必要なのかもしれない。
城の内部は真っ暗だったが、驚くほど隅々まで掃除が行き届いていた。闇に包まれた環境でも、清掃係の勤勉さと忠誠心までは抑えられないようだ。
とはいえ、城の中の多くの物はすでにかなり年季が入っており、保存状態は決して良いとは言えない。軽く触れただけで崩れ落ちてしまいそうな物ばかりだった。資料に少し触れただけで一瞬にして砂のように崩れてしまう資料室。
いかにも長い年月を経て、今ではとても使えそうにない調理器具ばかりが並ぶ厨房。虫食いであちこち穴だらけになったテーブルクロスと、それでもなお高級品だと分かる家具、年代物の高級テーブルや椅子、高級食器が並ぶ食堂。
そうして歩き回るうちに、どうやら執務室らしき場所へと辿り着いた。執務室の扉は壊れているのか、年中半開きのままになっていた。光がかろうじて隙間から差し込み、室内を淡く照らしている。そこには、古びてはいるが今なお豪華さを感じさせる家具が並んでいた。高級な檀木で作られた机。華麗な模様の施された、横になれるほど大きなソファ。アカデミックな雰囲気の芸術品。そして、薪は一度取り替えられているものの、今はもう火の気のない古典風の暖炉。
好奇心に駆られ、いくつかの書類をめくってみる。案の定、軽く触れただけでそれらの紙は一瞬で砂のように崩れ去った。かろうじて残っていた書類の一つに書かれていた住所を目にする。
ルシファー城。
自分の名前を城の名前にするとは、なかなかの自己愛ぶりだ。
さらに部屋の奥にある扉を一つ押してみると、その先には隠し通路が続いていた。外から差し込む光のおかげで、通路の中は完全な暗闇ではない。月光は思い切って中へ足を踏み入れた。少し進むとすぐに行き止まりに辿り着く。
古風で豪華な装飾の施された扉を開けると、その先には広い部屋が広がっていた。部屋の内装はとても居心地が良さそうだ。柔らかく上品な大きなベッドとソファ。ベッドサイドの棚には、光の失われた水晶玉が置かれている。どうやらもう使えないようだ。
さらにもう一つの扉を開けると、大浴室へと繋がっていた。浴槽の大きさは、六日の家の裏庭ほどもある。その傍には、すでに使えなくなり、嫌な臭いを放つ香料の瓶がいくつも並んでいた。
こんな近道があったなんて……ずいぶん楽してたんですね……月光は思わずそんなことを考える。
目の前の光景を眺めていると、様々な思いが頭をよぎった。まだ感慨に浸っているその時だった。突然、誰かが壁をぶち破って部屋の中へ飛び込んできた。さすがに月光も、これには心臓が跳ね上がるほど驚いた。
煙と埃が晴れると、相手の顔がはっきり見えた。
正直に言って、もはやPTSDレベルだった。全身に鳥肌が立つ。
「冬至まる子……なんでまた貴方なんですか?!」
目標を見つけた円子は、目をハートにしていた。声には狂気じみた熱がこもっている。「ふふふ……どうして……?それはきっと、ダーリンへの愛が私をここへ導いたんでしょうね…名付けて、『 ダーリンレーダー』です……」
月光は慌てて剣を抜き、後ずさる。「ダーリンレーダーって何ですか?!頼むからもう私を放してください!」
「さあ、始めましょう。私たちのハネムーン旅行を......」もちろん、まる子は月光の言葉などまったく聞いていなかった。
「誰か助けてください—?!」月光はついに、周囲に助けを求め始めた。
その頃、六日は街の中を走り回っていたが、途中で美紀子と鉢合わせる。高所から様子を観察していた美紀子は、軽やかで優雅に地面へ降り立った。そして、笑みを浮かべながら言う。その笑顔の奥には、明らかな殺意が潜んでいた。「こんなに早く、可愛い子猫ちゃんが自分から来てくれるなんてね。」
彼女は目の前の、なかなか上等そうな獲物をじっくり眺める。「さて……」
「どこから始めようかしら?」




