暴食戦
「……真っ暗だね……」不安げな少女の声が闇の中に響いた。
「まあまあ、気をつけてりゃ大丈夫さ。」どこか軽薄で気楽そうな、低く太い男の声が続く。「カチャリ」と音を立ててドアノブが引かれ、光が遠慮なく外へとあふれ出した。
目の前に広がった部屋は、想像以上に広大だった。天井に設置された照明が空間全体を眩しいほどに照らし出しているが、そのせいで、長年手入れされていない設備や、壁や床に残る汚れまでが容赦なく露わになっている。
ここはあの大邸宅の地下――六日は、この屋敷にこんな地下室があるなど、夢にも思っていなかった。
彼女は眩しさに思わず目を細め、やがてゆっくりと開くと、目の前の光景に感嘆の声を漏らした。「この訓練室……広すぎない?」
大会はすでに六日目を迎えていた。時計の短針は十二時をわずかに過ぎ、秒針だけが静寂の中を忙しなく走り続けている。
外では街の灯りがきらめき、野良の犬や猫たちが好き勝手に動き回っていた。どこかの公園では、誰も乗っていないブランコが、夏の風に押されてゆっくりと揺れている。湿った夜風が肌にまとわりつくようだった。
「まあね。あれだけ広い土地を買うのに、相当な金を使ったからさ。」マモンは笑いながら言った。「設計も私がやったんだけど、正直あんまり満足してない。おまえの父親は、戦闘に関することにしか本気を出さないからね。」そう言って、彼は部屋の奥にある一枚の扉を指さした。そこも固く施錠されており、長い間誰も足を踏み入れていないことが一目でわかる。
「こっちは、二人での対戦訓練を想定して、できるだけ開放的に作ってある。もっと精密な戦闘用装置を使いたいなら、あの中の部屋だ。」
「……父の要望、か。まあ、分からなくもないけど……」
「言っておくけどね、これは私にとっては賭けみたいなもんだよ。いつ破産してもおかしくな。」マモンは肩を回しながいら、ため息交じりに続けた。
「分かったわ任せて。」六日は自信満々に答えた。マモンはちらりと彼女を見やると、赤く光る奇妙な形の鍵を取り出した。その鍵はひとりでに動き、錠を外す。重厚な鉄扉が不満げな唸り声を上げながら開いた瞬間、溜まっていた埃が一気に舞い上がった。
六日がくしゃみを連発している間に、マモンは何事もない様子で中へと入っていく。周囲には、不気味な拷問器具のようなものが並んでいた。正直、六日は今すぐ引き返したくなった。
やがてマモンは、同じく埃にまみれた一体の人形を引っ張り出した。全身に無数の傷を刻まれ、表情は異様なほど厳しい。長年の苛烈な扱いが、その顔つきを作り上げたかのようだった。
六日は、その人形の顔に見覚えがあることに気づく。
――ああ、あの人だ。
マモンはその人形を抱え上げ、無造作に弄びながら言った。「触ってみな。出来がいいし、素材も相当硬い。今さらどれだけ殴っても壊れやしないよ。」言われるまま、六日は人形に手を伸ばした。確かに、触感は驚くほど硬く、無数の傷や年月を経ても、その堅牢さは失われていなかった。
「ここにボタンがあるだろ?」マモンは人形の首元を指さす。そこには赤いボタンがあり、「安全に注意」と書かれている。「押すと、こいつがおまえと戦い始める。止めたい時は、もう一度押せばいい。」
六日はごくりと唾を飲み込み、不安そうに問いかけた。「えっと……もう一度押すっていうのは、戦闘中に隙を見つけて、止めなきゃいけないってことか?」
「察しがいいじゃないか。その通りだよ。」その笑みが本心なのか、それとも悪意なのかは分からない。六日が飲み込んだ唾よりも、額から流れ落ちる冷や汗のほうが多かった。「でも、おまえならできるだろ?」挑発するようにマモンは言い、人形を勝手に起動させた。人形はマモンの言葉通り、まるで猛虎のように動き出し、一直線に六日へと襲いかかる。マモンは、あちこちへ逃げ回り、甲高い悲鳴を上げる六日を楽しげに眺めると、そのまま背を向けて立ち去った。
やはり、あの人の行動は理解できない。そう思わずにはいられなかった。
朝。
「皆さーん! ついに大会六日目に突入するよ!」空中に浮かびながら、ダニエルととらが楽しげに宣言する。「今日まで来て、今の順位にガッカリしてるチームもいるかもしれないけどさ、まだ逆転のチャンスはあるんだ!だから諦めるなよ――!ぎゃあああああ!なんで卵投げるの?!」
「紙くずもやめて! 不正操作なんてしてないから!」
多くの参加者たちは口々に罵声を浴びせながら、手にしていた物を次々と大鈕たちに投げつけていた。「もう我慢できねえ!」
「初日からルールと点数を言い訳にして、好き放題やりやがって!」
「虎が牙を剥かねぇと、ただの病猫だと思ったか!」
「絶対に許さない!」
「ああああああ!」こうして、今日予定されていた試合は、少し遅れて開始されることになった。
「さっきちょっとトラブルがあったけど、試合は続けます。」司会はダニエルととらに代わり、大きな鼻の犬、レインと、自信なさげな小犬オドセンに交代していた。「猫科の司会者二人は今おとなしく療養中。だから、ここからは僕たちが進める。もちろん、とらが今ベッドで寝てるのを喜んでるわけじゃこれっぽっちもない。本当に。」
レインととらは、昔からの犬猿――いや、犬猫の仲である。
「.....あいつ、ちょっと冬森立秋に似てないですか?」
「お前にそんなこと言う資格あるの?」
「さて、本日の全体戦のテーマは――『暴食』です。」レインはそう言いながら続ける。「色欲の競技と同じく、参加者が進むためのボードを用意してる。ただし今回は、サイコロを振るのが必ずしもチームリーダーとは限らない。」
マイクを差し出され、オドセンは怯えた声を上げた。「え、ええっ……ぼ、僕が……?」
「最初に交代制って決めたんでしょ?」
「だ、ダニエルたちはそんなこと……」
「彼らは彼ら、僕らは僕ら。」マイクの前でそのまま議論と愚痴が垂れ流される。
おずおずとマイクを受け取ったオドセンは、口ごもりながら挨拶した。「み、皆さん……こんにちは。オ、オドセンです……」
緊張を紛らわせるように何度か咳払いをし、それでもたどたどしいまま説明を続ける。「ボ、ボード上には食べ物を配置します。基本は、この五種類です……タピオカミルクティー、ハンバーガー、リンゴ、ブロッコリー、そして卵……」
「調理方法はちょっと違うけど、基本的な効果は同じだよ.....」言い終えるや否や、オドセンは慌ててマイクをレインに押し戻した。「補足すると――」
レインが引き継ぐ。「タピオカミルクティーはパワーアップ。ハンバーガーは防御力を上げて、トラップを一度だけ無効化できる。リンゴは攻撃力アップ。ただし一回限り。ブロッコリーは機動力を上げて、毎ターンの移動マスが+2される。卵は武器の威力を強化するけど、これも一度きり。使ったあとは、次に卵を手に入れるまで再使用できない。」
再びオドセンの番だ。「た、ただし……色欲の時と違って、今回のボードはすごく広くて……分岐や交差点もあって、進むルートを自分で選べる……」
「そ、そして……食べ物は、ただ道に置かれてるわけじゃない……み、みんなには……あらゆる手段を使って、食べ物を手に入れてもらう……」説明を聞き、参加者たちは眉をひそめ、小声で相談し始めた。
「な、お……道中にはトラップも仕掛けられてて……「た、食べ物を手に入れるだけじゃなく……トラップを避けることも、重要になる……」
獣の猛烈な咆哮が突然響き渡り、皆は一気に鳥肌が立った。暗闇の中に六つの緑色の光が浮かび、まるで鬼火のようにちらちらと揺れている。その中で、大地を引っ掻くような爪の音や威嚇する咆哮も一段と鮮明になり、まるで大地を引き裂かんばかりだった。ずっと六日が朝思暮想していたその姿が、ついに現れた。威厳に満ちたケルベロスが、ついに再び姿を現したのだ。それは一匹の小犬に導かれており、首には巨大で尖った棘の生えた首輪が掛かっていた。しばらく見ない間に、体には新たな傷が増え、赤い痕が鮮明に浮かび、古い傷の痕もぼんやりと見えた。三つの犬頭は凶光を帯び、自分の獲物を物色しているかのようだった。しかし、久しぶりに候補席に座る六日を見つけると、肉眼で分かるほど喜ぶ表情を浮かべ、まるで本物の小犬のようだった。久々の再会に、六日も感動のあまり涙をこぼしそうになった。炎暑魔闘会が終わって以来、彼女はケルベロスに会っていなかった。ケルベロスの安否を案じ、叔父に尋ねずにはいられなかった。叔父は相変わらずの皮肉な笑みを浮かべつつも、答えは容赦なかった。
「相変わらず監禁されてるよ。だって、あれはベエルゼブブしか制御できない“魔獣”だからね。」叔父は続けて淡々と語った。「ケルベロスがおまえのことを覚えていて、親しげにしても、それはおまえを主人として認めているわけじゃない。主人は永遠に一人で、恐怖と暴力で支配する——地獄公爵ベエルゼブブだけだ。ベエルゼブブだけが完全に調教できる。ケルベロスはベエルゼブブの言葉にしか完全には従わない。ところで、夜明けにあったあの人形、倉庫に入れたのか?」叔父の言葉は容赦なく心の奥に刺さる。相手の気持ちを考えることはなく、時に辛辣だが、あまり気にする必要もない。
「入れた。でも鍵はかけてない。あそこの鍵は持っていないので。」
「うん……わかった。後で私が鍵をかけておく。夜に帰るときに、その鍵を直接渡すから。」
「え、いいの?」六日は少し緊張した。
「なぜ駄目だと思う?」
マモンはふと、昔ベエルゼブブが自分に言った言葉を思い出した。「マモン、あの鍵は後で六日に渡しなさい。」夕日の下で、まるで機械のように感情のない声が響いた。黄昏の光は蔦のように廊下に這い上り、二人の悪魔を太陽の色に染めた。
「いいけど……」マモンは疑問を胸に抱きながら言った。「本当に決めたのか?」
「……彼女はこの家の未来の主人だ。いつかすべての鍵を手にすることになる。」
「一匹の小犬がコイツを操ってるの?」と星児が思わず尋ねた。
「リサは落ち着いてるから、安心して。」と雨水が耳打ちする。ケルベロスは失望したように足を止め、哀しげに頭を垂れた。
「この巨大な三つ首の犬は、皆に仕掛けられた罠だ。三つ首の犬は穴を掘って潜み、タイミングが来たら飛び出して飲み込む。食べられたら失格、威嚇されれば罠にかかる。みんな十分に気をつけるんだぞ。」
自分の威圧感を感じ取り、ケルベロスはまた見せかけに歯を剥き出し、口いっぱいに生えた尖った黄色い歯、少し虫歯も混じる鋭い牙で、ここにいる全ての悪魔たちを脅かす。一部の参加者や観客は恐怖で一歩後ろに下がった。
「ああ、言うこと聞かないんじゃダメよ!従って!まだ穴掘る必要はないの!」リサは必死に手の縄を緩めまいと力を込める。ケルベロスは仕方なくリサの命令に従い、泥を掘っていた足を引っ込め、退屈そうに次の指示を待った。
「ゴールは階段の上に設定されているが、勝てるのは一人だけだ。」皆は瞬時に上を見上げた。確かに階段は見えない上のプラットフォームにつながっており、甘いご褒美の誘惑のようであり、危険な罠のようでもあった。皆はレインたちの言葉の真意を推し量った。
「食べられたらケツの中身になるってことだ。気をつけろよ。」雨水が警告すると、海棠は明らかに身体を震わせ、星児は唾を飲み込んだ。月光は六日と話そうと、じっと様子を窺う。
「最後に言っておく。階段に登る人数に関わらず、階段の上の怪物は皆を斬ろうとしてくる。怪物の攻撃を避けながら、相手も攻撃しろ。そして、勝負が決まる直前には怪物は消える。それまでに食べられた場合は復活可能だが、単純に倒された場合は皆が鍛えてきた復活時間に従うことになる。」
「三つ首の犬の後はまた巨大な怪物が出るのか……?」月光が小声でつぶやいた。
「では、今からサイコロを振る人を話し合って決めてください。制限時間は5分です。」
「隊長さん、今回は私がやってもいいの?」リズはどうやら皮肉っぽく言ったようだった。
「うるさい……」
「六月……」
「ダーリン——!」まる子がまた飛ぶように駆け寄り、月光をぎゅっと抱きしめて、月光の足を止めた。「会いたかったんだよ!ダーリン!」
「離して!離してください!」
「立夏月光……」まるで凶神のような視線がこちらに突き刺さる。
「くそ……六月!」月光はまる子を引きずりながら、なんとか控え席まで移動する。
「うう……行っちゃダメだ……試合が始まるぞ……」オードソンは困った顔をしているが、他の小犬よりも速い。
「う……」まる子は結局、仕方なくチームメイトに引き離され、自分の名前を呼ぶ声が遠ざかっていった。
「はいはい、もういいから。さて、今度はあんたの番ね。私がサイコロを振る。文句ないよね?」海棠が自分を指さす。
「うん……うん……」月光は不本意ながら、海棠の言葉に同意する。
「心配だなぁ。」雨水が今になって口を開く。
「うるさいな、さっき賛成してたくせに。」
試合開始を告げる太鼓が、耳をつんざくような轟音を響かせる。みんなそれぞれ、自分のスタート地点に立った。
「あの人を登場させるのか……立春さんの決断も大胆だな……」
「縁がなければ向こうと出会わないって言うしね。」美紀子は口元をほころばせ、まるで美しい三日月のようだった。
「隊長ちゃん――がんばって――」誰かは励ましているつもりだが、その口調はどこか軽くて他人事のように聞こえる。
「ちゃんじゃない。」立秋は拳を擦り合わせ、小さな体ながらも迫力満点に見える。
「私、出るのか?」流浪者の桜園は耳の高層ビル型イヤリングをぎゅっと押さえ、落とさないようにしていた。
「負けるなよ、浅行!」草地は桜園に元気よく声援を送る。首輪のピアノのチャームが揺れて、キラリと光った。
「負けたら殴るぞ。」力担当の拳嶋大和の言葉は少し辛辣だ。
「ああ、ずっと出番がなくて残念だな……」控えの無音響司は感慨を小声で言いながらも、悠然とゲームを続けていた。
「後出しジャンケンしてるな。」則保は容赦なく批判する。
「ご武運を。」無名小隊の隊員たちは隊長に祝福を送った。
雷道はまるで気にしていない様子で「うん」とだけ答える。まるで皆の好意は無意味だと思っているかのようだ。隊員たちも、ただ黙って雷道の高慢で冷淡な態度を受け入れるしかなかった。
「立夏月光……思い知らせてやる、ボコボコにしてやるからな……」拳を擦り合わせる麻理亞の拳からは音まで聞こえた。
「お姉さま、それは私の婚約者なんだけど……」まる子は心配そうに言う。
「誰があんたが彼に嫁いでいいって言ったのよ?!」麻理亞はこの神経のずれた妹に毎回頭を抱えている。
「隊長、負けるなよ!」アマイモンの隊員が渡瀬に声援を送る。渡瀬も雷道と同じく淡々と「うん」と答えるだけだった。決意を固めた兄を前に、寒露は後ろでそっと「お兄ちゃん……」と呟いた。
「行け、ぼくの分身!」どうやら日光を見ると弱くなるらしい、布のような大きな覆いを被っているエイグンの大隊長だが、なぜか突然口調が熱くなった。
「何を言ってるの?」彼に使われる少女。顔は出ているが大半が影に覆われ、陰鬱な雰囲気で、近づく者は誰もいなかった。
試合を象徴する太鼓が再び轟く。今回のサイコロ投げの順番は前回とは少し異なり、ランキング上位三名はくじ引き不要で、ランキング順で順番が決まる。
美紀子は相変わらず余裕たっぷり、優雅に、まるで羽ばたく白鳥のようにサイコロを振り、幸運にも良い目を出した。「4歩。」
満は周囲を見渡し、突然ケルベロスが現れないことを確認してから前に進む。軽やかに四歩進むと、地面の穴に埋まっていたリンゴを見つけ、周囲に注意を払いながら、さっとリンゴの灰を払い、二三口で食べてしまった。すると満の足元に金色の光が一瞬現れ、蛇のように飛び回り、満の攻撃力が上昇した。
美紀子は満足げに言った。「私たちは本当に幸運の女神の加護を受けているチームね。」戸川は、美紀子が気づかないうちに目を動かし、何を考えているのか分からない。
手にしたサイコロは少し重かった。海棠はわずかに力を込めて、それを投げる。「5歩!」
月光が向かおうとしていた先には、ちょうどハンバーガーがあった。大股で駆け寄ろうとしたその瞬間、ケルベロスが破竹の勢いで地面を突き破って飛び出し、月光は危うく叩きのめされそうになる。間一髪でその爪牙をかわした月光に向け、レインが冷酷に宣告した。「威嚇。トラップ設置。」
「う……」月光はまだ声を上げきれないでいると、突然ロープが現れ、両手をきつく縛り上げた。木の棒に吊るされていたハンバーガーも、いつの間にかさらに高い位置へ移動している。「こ、これ……どうやって食べろっていうんですよ!?」
「食べられなくはないよ。」
「ずっと跳ねろって? ウサギが愛嬌振りまいてるわけじゃないですけど!」そう言いながらも、月光は強制的に跳ね続けるはめになった。
その頃、ゴールデン・ウィングスはいつの間にかサイコロを振っており、立秋は月光を追い越して、意気揚々と挑発する。「ははははは! 哀れな敗者はそこでウサギみたいに跳ねてろ――って……っ……!?」
再びケルベロスが地面から姿を現す。まるで常に臨戦態勢だったかのようだ。
「威嚇。トラップ設置。」
立秋も覚悟を決めたが……何も起こらなかった。するとすぐ調子に乗る。「ははは、バグったんじゃ――」
そう言って、魔力に操られ宙に浮かぶブロッコリーを豪快に食べようとしたその時、親指ほどの大きさで、やけに丸々とした虫が何匹も中を這い回っているのが見えた。「こんなの食べろっていうのかよ!」
「バカ。」先に進んでいた麻理亞が、思わず小さく毒づく。もっとも、彼女はまだ何も食べられていなかった。
寒露がサイコロを投げ、渡瀬は神に助けられたかのように一気に前進し、生卵を丸呑みにする。
「うっ……」
「……そのまま食うのかよ。」その行動は、多くの者の反感を買った。
およそ2歩進んだところで、桜園はケルベロスの威嚇を受け、1ターン停止となる。手にしていたタピオカミルクティーは分量が倍になっていた。
「……倍だ……」どう考えても飲み切れない。
一方、雷道は獲物を狙う豹のような速さで、一気に6歩を踏み切った。
最下位のエイグンのメンバーは不運にも、ケルベロスの威嚇を受けてしまった。その場を離れるには、その場で卵を調理し、チームメイトに分けて食べさせなければならないという条件付きだ。
「火は持ってきてやったぞ。」
「後はお前の運次第だな。」
「せめて皿くらいくれよ!」
第一ラウンドが終了し、第二ラウンドが始まる。満はリンゴから得た力を使い、麻理亞に不意打ちを仕掛けた。不意の一撃を受けた麻理亞は、痛みに顔を歪め、その場に膝をつく。さらにケルベロスの襲撃を受けたことで、手に入れたハンバーグのパティは生肉に変わってしまった。
「こんなの食えるかぁぁぁ!?」麻理亞は怒りに任せて咆哮する。
「なるほど……そういう使い方もありか。」星児が思わず感嘆の声を漏らす。
「まあ……でも使えるのは一回きりだけどね。」雨水が冷静に付け加えた。
攻撃を受けた麻理亞を見て、月光は思う。無理に使うなら、やっぱり卵が一番だ。
幸運なことに、前方には熱々で、すでに完全に焼き上がった目玉焼きがあった。その表面は、雨上がりの陽光のように艶やかに輝いている。月光は思わず見惚れたが――
その瞬間、渡瀬が先に手を伸ばした。
渡瀬は以前手に入れた卵の力を使い、水砲を展開する。増幅された威力によって、それは以前見たものよりもはるかに豪華で、そして危険な代物となっていた。彼は月光を実験台にするかのように、砲弾を放つ。
凄まじい威力の一撃が月光を地面から吹き飛ばし、砂煙と爆風が辺りを包み込む。煙が晴れたとき、月光は今にもケルベロスの口へと落ちていきそうだった。
皆が息を呑んだ、その瞬間、月光は素早く剣を構え、ケルベロス中央の頭の口を押さえ込む。そのまま舌の上に飛び乗り、間一髪で難を逃れた。
ケルベロスは無実を訴えるように鳴き、残る二つの頭もどうしていいかわからず戸惑っている。月光は無理やり剣を引き抜くと、ついでに虫歯を二本も抜いてやった。
ケルベロスは情けなくなったのか、そそくさと地面に穴を掘って姿を消した。
月光は、先ほど隙を突いて奪い取ったゆで卵を咀嚼する。でも、ケルベロスの威嚇によって仕掛けられた罠のせいで、黄身を喉に詰まらせそうになった。もし本当にここで窒息死していたら、それこそケルベロスの存在意義もなく、皆の笑いものになっていただろう。
「くそ.........」月光はそう吐き捨てた。復讐したい気持ちはあっても、渡瀬はすでに遠くに離れてしまっていた。ケルベロスの出現による威嚇の時間は常に長く、参加者たちは次々とトラップに遭遇する。
現時点で、五種類の食べ物を手に入れられたのは渡瀬、立秋、満、そして月光だけだった。もしかすると海棠は運に恵まれ、連続で多歩を出して月光が食べ物を手に入れるチャンスを作ったのかもしれない。この借りは絶対に返すと心に誓い、月光はついにゴールに到達した。
高くそびえる階段を登り、プラットフォームの上から黒々とした人の群れと、果てしなく広がる青く輝く空を見渡す。
中央にはなぜか熱々のケーキが置かれており、濃厚なバニラの香りを漂わせていた。
月光にとって、その香りはどこか見覚えがあり、まるで記憶を呼び覚ますかのようだった。
もちろんプラットフォームには他の訪問者もやって来た。渡瀬、立秋、満――因縁によってついに出会うことになる。
月光はぼんやりと、放送で「冬森立秋、トラップに遭遇」と聞こえるのを耳にし、次の瞬間、カチリと大きな鍵の音が響いた。はっと我に返ると、自分の右手と冬森立秋の左手が鎖でしっかりと繋がれていた。
まるで運命に弄ばれているかのようだった。
二人は驚きつつも、力任せに鎖を引っ張るが、びくともしない。「なんで私まで巻き込むんですか?!」
「私のそばにいたからでしょう!!」二人はまるで子供のように言い争い、少しも成長していない様子だった。満や渡瀬もこの光景に驚き、少し呆然として見つめている。
渡瀬が二人に手を出すのでは――と思った満だったが、あっという間に渡瀬の攻撃を受けた。腹部を強烈に一撃され、現在の彼はもはや半死半生といった状態。満は信じられない表情を浮かべ、渡瀬は冬の夜のように冷たい声で言った。「私のターゲットは最初からお前だけだ。」
そのとき、レインの言った通り、怪物が姿を現す。八の字ヒゲを生やした、人形のような巨人。シェフの格好をしており、手には様々な調理器具を持っている。不気味な笑みを浮かべ、参加者たちをあらゆる料理方法で脱落させようと試みる。
満と渡瀬は敏捷にかわす。
「手がもう剣を握れないですけど――」
「左手を使え――」




