9.筆記試験の結果発表
「んー、美味しいですー」
フォークですくったケーキを頬張れば、ほっぺが落ちそうなくらいに美味しい。この世にこんなに美味しいものがあるなんて知らなかった。王都、凄い!
「カフェって素敵なところですね! 店は可愛いですし、スイーツは美味しいですし。私、ずっと王都に居たいです」
「気に入ってくれて嬉しいわ。だけど、王立グランセリア魔法学園に入学すれば、王都に居れるわよ」
「あはは、そんな無理ですよ。試験は落ちてますし、お金もないですし。約束を果たせただけで十分ですよ」
魔法使いの願いを果たせただけで十分だ。都会が凄いところだって知れただけでも、魔法使いに感謝したい。
きっと、今までの私だったら都会に出るなんてことは考えつかなかっただろうから。本当に良い思い出になった。
「そろそろ、結果発表の時間ね」
「あっ、行かれるんですね。ロゼリア様なら受かってますよ。じゃあ、私はこれで……」
「えっ? あなたも見ていくんじゃないの?」
「見に行っていたら、お土産を買う時間がなくなってしまいますので……」
明日の朝一番に出ていきたいから、今日中に用事を済まさないといけない。そう思って、立ち去ろうとすると――手を掴まれた。
「えっと、一人で見るのは怖いから……一緒に来てくれる?」
「そうなんですか? まぁ、ロゼリア様の願いだったら、無視できません。一緒に行かせていただきます」
ここのカフェのお金も支払ってくれたし、ロゼリア様には何かと恩がある。それを返せずに帰るのは気が引けたが、ここで返せるとなると話は別だ。
すると、ロゼリア様は嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとう、ユフィ。それじゃ、行きましょう」
◇
私は王城前に戻ってきた。そこにはすでにたくさんの受験者が集まっていて、結果を今か今かと待ちわびている。
誰もが落ち着かない様子で、何度も掲示板へ視線を向けていた。友人と小声で話す人もいれば、一人で黙り込んでいる人もいる。緊張から何度も深呼吸したり、手を握ったり開いたりしている人までいた。
やがて、王城のほうから試験監督たちが歩いてくる。
その姿を見つけた瞬間、辺りが静かになった。さっきまで聞こえていた話し声も止まり、受験者たちは固唾を呑んで掲示板を見つめている。
試験監督が掲示板の前に立ち、何枚もの紙を張り出していく。それが終わった瞬間――受験者たちが一斉に駆け寄った。
「私の名前は……!」
「どいて、見えない!」
「えーっと……」
掲示板の前はあっという間に人だかりになる。自分の名前を必死に探す人、友人の名前を先に見つけて喜ぶ人、何度確認しても名前が見つからず呆然とする人。
「やった! 受かった!」
「……あった。よかった……!」
「嘘だ……俺の名前がない……」
歓喜の声が上がる一方で、落胆の声も次々と聞こえてくる。友人と抱き合って喜ぶ人のすぐ隣で、俯いたまま動かなくなる人もいた。
筆記試験だけでも大勢が落とされる。その厳しさを目の当たりにして、私まで少し胸が苦しくなった。そんな中――掲示板の上のほうを見た一部の受験者が、突然動きを止めた。
そして、そこに書かれた名前を指差す。最初は数人だったどよめきが、少しずつ周囲へ広がっていった。
「な、なんだ、あれは!」
「う、嘘だろ……。百点満点じゃない、だと……」
「し、信じられない……」
なんだか、驚いている人がいるけれど……どうしたんだろう? いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。ロゼリア様が合格したのか、ちゃんと確認しないと。
「ロゼリア様、見に行きましょう」
「えぇ」
そう言って、私はロゼリア様の手を引いて、掲示板の前に来る。一つずつ確認していくと――見つけた。
「ロゼリア様、ありました! 八十五点で五位ですよ! す、凄いです!」
良かった! ロゼリア様は合格していた! しかも、五位だなんて……凄い!
おめでとう、という声を掛けたくて振り向くと――ロゼリア様は掲示板を見て呆けていた。
「えっと、どうされました?」
「……あなた、一番上を見て見なさい」
「一番上ですか?」
そう言われて、掲示板の上を見て見る。四位、ミレイ・ハートレット、九十一点。三位、アルベルト・グランフォード、九十六点。二位、レイチェル・ヴァルディア、百点。
そして、その一番上は――一位、ユフィ、百五十点。私の名前が書いてあった。
「えっ?」
自分の名前が一番上に書かれて、何かの冗談かと思った。なんで、自分の名前が一番上に載っているのか理解できない。
だって、私の知識は田舎の物で、都会では通じないと思っていた。私の知識は遅れているし、古いもの。本当にそう思っていたから、きっと試験の結果も悪いのだろう。
「えっと、何かの間違いですかね?」
「間違いなんてないわ。試験の採点は独自に開発した魔法で採点されるんだもの、完璧のはずよ。その完璧の魔法で満点以上が出るなんて、信じられないことよ」
「ど、どうしてそんなこと――」
そう言った時、斜め前にいた人が突然地面に座り込んだ。金髪をハーフアップにした女の子が呆然となって掲示板を眺めていた。
「こ、こんなこと……。なんで、私よりも上がいるの……」
そう呟いて、掲示板を見て動かなくなった。
「あの、大丈夫ですか?」
心配になって声を掛けてみたが、全く反応がない。体は震えて、まるでこの世の終わりを見ているような雰囲気だ。
どうしたらいいか戸惑っていると、肩を叩かれた。振り向くとロゼリア様が真剣な目を向けてきていた。
「ユフィ、あなた一体何者なの?」
「いや、私はただ……田舎から出てきただけで……」
本当に田舎から出てきた世間知らずな女の子。それ以上でも以下でもない、普通の人だと思っていた。
普通だと思っていたのに、どうして私の名前が一番上にあるんだろうか?




