8.引き留めと採点
誰もが席についたまま動かない中、私はカバンを持ってスタスタと部屋を出ていく。今日の残り時間でお土産を買って、明日村へ帰ろう。そんなことを思いながら廊下を歩いて行くと――とある部屋の扉が開いた。
「――あら? ユフィじゃない」
「ロゼリア様!」
現れたのはロゼリア様だった。会えたことが嬉しくて駆け寄ると、ロゼリア様は微笑んでくれた。
「試験はどうだった?」
「一応全部書けましたけど、多分合格はしないと思います。知識が足りなかったと思いますね」
「全部書けただけでも凄いじゃない。もしかしたら、全部合っているかもしれないわよ」
「いえいえ! 田舎の知識なので、都会じゃ通用しませんって!」
問題は理解出来たし、回答も書けた。だけど、それが合っているかなんて分からない。きっと、都会では私が学んだこと以上の最適な答えを持っているに違いない。
私の知識は田舎で得たものだから、都会では通用しないだろう。答えが書けただけで、十分だ。
「だから、私は落ちると思います。これから、お土産を買って、明日村に帰る予定です」
「あら? 結果は見ていかないの?」
「どうせ、落ちてますし。待っている時間が勿体ないので」
「……そう。あっ、だったら少し付き合ってくれない? 結果を待つのは時間がかかるから、カフェに行こうと思っていたの。付き合ってくれたら嬉しいわ」
「カフェってなんですか?」
不思議そうに頭を傾けると、ロゼリア様が説明してくれた。それは村にはなかったお店で、話を聞いたら行く気になった。これは、お土産話が増えそうだ。
「じゃあ、着いてきて」
「はい!」
私はロゼリア様の後に着いていった。カフェ、楽しみだなぁ……。
◇
大部屋に試験監督たちが集まり、問題用紙と回答用紙を整理していた。その中で、一人の試験監督が机に向かっている。
その隣に立っていた試験監督が回答用紙をその人の前に置く。すると、座っていた試験監督が回答用紙に手を乗せ、光った。
回答用紙に次々と丸やバツが書かれ、あっという間に採点の数字が書かれた。
「43点。不合格」
そういうと、隣で立っていた別の試験監督が不合格の回答用紙を別の机に重ねた。その机は不合格者の回答用紙が重ねられ、すでに山となっていた。
「今年は筆記試験で落とされる受験者が多いですね。やっぱり、問題を難しくしたせいでしょうか?」
「まぁ、実技試験を受ける受験者を少なくするために難しくしたらしいからな。でも、そのせいで実技が得意な受験者にはちょっと酷だったか?」
「何を言う。両方がトップレベルに出来てこそ、王立グランセリア魔法学園の生徒にふさわしかろう」
「いやはや、これは厳しい」
今年の受験者は約三千人。その中から合格を勝ち取れるのは、わずか六十名ほど。合格率はたったの二パーセントしかない。
王都でも屈指の名門校であり、優秀な魔法使いを数多く輩出してきた王立グランセリア魔法学園。その門をくぐることが許されるのは、三千人の受験者の中から選び抜かれた、ほんの一握りの者たちだけだった。
試験監督たちが積み上がっていく不合格者の回答用紙を見て、一抹の不安を覚えた。筆記試験で合格するのは三百人もいないかもしれない、そう思った時――。
「100点。満点合格……だと?」
「なっ!?」
「そ、そんなことがっ!?」
「本当か!?」
その言葉に試験監督がワッとなって集まった。そして、その回答用紙を見て、誰もが驚いた顔をした。
「凄い……完璧だ。まさか、こんなことがあるなんて……」
「例年よりも難しくしたのに、間違いが一つもないだと? 信じられん……」
「一体、誰なんだ!?」
集まった試験監督たちは回答用紙の名前の欄を確認した。そこに書かれたいた名前は――。
「レイチェル・ヴァルディア」
「その名は確か……公爵家の庶子じゃなかったか? ほら、十年に一度の逸材と騒がれた、あの……」
「あぁ、そう言えば。文武両道というか、剣も出来て、魔法も出来て、頭もいいっていう特別な子って聞いた覚えが……」
「天才っているもんだなぁ……。きっと、この子が次の世代を先導していくんだろうね」
誰もがその名を知っていた。とても有名で、公爵自身が自慢していたほどだった。
剣を持てば、まるで幾多の戦場を生き抜いてきた歴戦の剣士のように剣を振るい。魔法を使えば、国家魔導士にも匹敵するほどの威力を見せる。
それだけではない。膨大な知識を持ち、専門家ですら答えに窮するような難問にも迷うことなく答えを導き出し、彼女の知識量に驚かされた学者も少なくない。
剣も、魔法も、知識も、そのどれか一つだけなら優れた者はいる。しかし、その全てを高い次元で兼ね備えている者など、これまでほとんど存在しなかった。
まさに、神に選ばれたとしか思えない才能。十年に一度どころか、百年に一人現れるかどうかという逸材――それが、レイチェル・ヴァルディアだった。
「今年はこれ以上の逸材はいないでしょうな」
「全く、その通りだ。これ以上の逸材がいれば、それは神にも匹敵するだろうな」
「いやはや、そんな逸材はいませんよ」
周りの試験監督たちが穏やかに話していた。だけど、机に座っていた試験監督の動きが止まった。その顔は驚愕に染まっていた。
「そ、そんな……ばかな……」
「えっ? どうしたんだ?」
その様子に周りにいた試験監督たちが再び集まった。そして、その手の向こう側の回答用紙を見る。そこに書かれていた点数は――百五十点。
「ど、どういうことだ!? 百点満点を越えているぞ! 採点魔法が可笑しくなったのか!?」
「回答欄は……文章回答が全部二点になっているぞ! そんな採点魔法じゃなかったはず、どうして!?」
「だが、この回答欄を見て見ろ! 設定した正解よりも詳しく回答している! こ、こんな答えがあるなんて!」
試験監督たちは回答欄を見て驚いた。そこに書かれていたのは、元々の回答よりもはるかに出来がいい回答ばかりだった。
その回答を見て、試験監督は唸った。そして、夢中で回答を読み込み始めた。
「こ、こんな考えがあるなんて……」
「どんな頭をしていたら、こんな回答になるんだ?」
「常識を超えている……。こ、これを回答した受験者は誰だ!?」
そして、試験監督たちは名前の記入欄を見た。そこに書かれた名前は――。




