10.約束は続いている
「合格者は明日、実技試験を行う。午前九時までに部屋に集まるように」
試験監督が説明をすると、その場に残っていた合格者は足早にその場を立ち去った。明日の実技試験に備えるつもりだろう、誰もが真剣な目をしていた。
そんな中、私は夢心地のように呆然としていた。まさか、私が受かるだなんて思ってもみなかったからだ。田舎の知識だから通用しない、そう思っていた。
だけど、結果は――一位。とんでもない順位だ。自分が一位になるなんて、夢にも思っていなかった。しかも、満点を越える百五十点を出して。
「ユフィ、落ち着いた?」
「は、はい……。すいません、ぼーっとしていて」
「いいのよ、驚いたでしょう? 私もまだ現実に戻ってこれなくて、呆然としていたわ」
「ロゼリア様が? そんな風には見えませんでした。とてもしっかりとしていると思います」
「それは、良かった」
そう言って、微笑むロゼリア様を見ると、心が穏やかになる。だけど、すぐにその表情が引き締まる。
「でも、これで帰れなくなったわね。実技試験、当然受けていくんでしょう?」
「あっ、いえ、それは……」
「まさか、受けないで帰る気じゃないでしょうね?」
「うっ……だ、ダメですか?」
受かる気なんてさらさらなかったのだ。実技試験に進めるとは思ってもみなかったから、帰ろうと思っていた。それを、見透かされてしまった。
ロゼリア様は呆れたようにため息を吐いて、私に指を差した。
「これは、めったにないチャンスよ。実技試験に受かれば、王立グランセリア魔法学園に入れるの。それはとても名誉なことなのよ。通えるようになれば、その後の人生が華々しいものになるわ」
人生を変えるほどの凄い場所なのかと思うと、恐縮してしまう。私はただの田舎者で、みんなと一緒に畑を耕して生きてきただけの人。そんな人が名誉ある学園に入る権利を勝ち取れるわけがない。
やっぱり、私には無理だ。田舎で静かに畑を耕していた方がいい。だって、実技試験は魔法を使う。一人で暮らすためだけに覚えた魔法なんてたかが知れている。都会の魔法に比べて、きっと地味で威力もない。
俯き、黙る私。だけど、ロゼリア様はそんな私に――。
「そんなことで、魔法使いの気持ちを蔑ろにするつもり」
その厳しい声にびっくりした。弾けるように顔を上げると、そこには厳しい顔つきのロゼリア様がいた。
「あなたは、あの魔法使いがどんな気持ちで、この約束をあなたに託したのか分かっているの?」
「……え?」
「魔法使いは、あなたに希望を抱いていたのよ。だからこそ、王立グランセリア魔法学園を目指すように言った。あなたなら、ここで学ぶことができる。ここでなら、もっと大きな世界を見ることができる。そう信じていたから、あなたにこの道を残したのよ」
「……」
「それなのに、あなたはどうするの? 『田舎者だから無理』『都会の魔法には敵わない』……そんな理由だけで、何もせずに帰るの?」
何も言い返せなかった。私が思っていたことをピタリと言い当てて、戸惑いもした。そんなロゼリアはさらに言葉を続ける。
「魔法使いは、あなたを信じていたのよ」
その言葉が、胸の奥に深く突き刺さった。
「だったら、あなたも自分を信じなさい。少なくとも、あなたを信じてくれた人の気持ちに応えるくらいのことはするべきでしょう?」
ロゼリア様は真っ直ぐに私を見つめる。その目は諦めていた私の心を熱くさせるものだ。
「合格できるかどうかなんて、今は関係ないわ。あなたはもう、ここまで来たのだから。明日の実技試験を受けて、それから自分で決めなさい」
「……自分で?」
「えぇ。受けてもいないのに、自分には無理だと決めつけて帰るのは違うでしょう?」
そう言って、ロゼリア様は少しだけ表情を和らげた。
「あなたをここまで送り出してくれた魔法使いに、ちゃんと見せてあげなさい。あなたが、どこまで来たのかを」
「……はい」
気づけば、私は小さく頷いていた。魔法使いが私に残してくれた最後の願い。それを、私は今まで「無理だから」という理由だけで諦めようとしていた。
でも――魔法使いは、私ならできると思ってくれたのだ。だったら、一度くらい。その気持ちに応えてみてもいいのかもしれない。
「私、やります。実技試験、受けてみようと思います」
「その意気よ。きっと、あなたならいい成績を残せると思うわ」
私の魔法でどこまで出来るか分からない。だけど、今までの私を信じてみる。




