64.魔力使用効率と魔力量(3)
一定のペースを崩すことなく走っていく。魔力使用効率を考え、一番ベストな形で身体強化を維持する。そうすると、少ない魔力でたくさん体を動かせる。
先頭はレイチェル様。その後を私が追っていく。今の所、正しい姿勢でレイチェル様は走っている。崩れる気配はなさそうだ。
「すげー! もう二十週目だぞ!?」
「一体、どれだけの魔力があるの!? いや、魔力使用効率が高いの!?」
「どっちも凄いから、ここまで走れるんじゃないか!?」
走っている私たちを見て、クラスメイトは盛り上がる。どっちが勝つかなんて分からないから、こっちも予想に白熱していた。
「二人とも、別格に魔力使用効率がいいぞ! その調子で、限界まで走り切るんだ!」
ボルブル先生の応援が届く。褒められると嬉しいから、さらに上手に使えるように意識していく。
魔力はまだ残っている。この魔力が尽きるまで、しばらくかかりそうだ。だから、負ける気がしない。
今までに感じたことのなかった、高揚感に胸が躍る。勝負なんてする人がいなかったから、この時間が特別なような気がしてきた。
この調子でまだまだ走る。そう思っていると、耳にレイチェル様の呼吸音が届いた。荒くなっていて、とても苦しそうだ。もしかして、限界が近いのだろうか?
話しかけようとするけれど、邪魔をしちゃいけない。でも、話しかけてみたい。そんな葛藤をしていると、レイチェル様の小声が聞こえてくる。
「……絶対に負けないっ。勝つ、勝つのよ。私が勝って、一番になって、それで……」
ブツブツと何かを言い始めた。すると、レイチェル様の姿勢が少し崩れたような気がした。
そっと、レイチェル様の魔力の流れを見て見ると――とてもか細くなっている。身体強化の強さが弱まっているように感じた。
今の身体強化じゃ、何キロか負荷がかかっている状態だ。その状態でレイチェル様は走っていた。
どんどん姿勢が悪くなり、歯ぎしりする音も聞こえてくる。呼吸は荒くなっていて、今にも途切れてしまいそうだった。
大丈夫だろうか? そう心配していると、レイチェル様から魔力の流れた途絶えた。途端に百キロの重みが体にのしかかる。
それでも、レイチェル様は走っていた。体の節々の悲鳴が聞こえた時、私は自然と大声が出た。
「ボルブル先生! レイチェル様が魔力が切れたのに、走ってます!」
「ちょっ!」
「何ぃぃっ!?」
そう叫んだ瞬間、レイチェル様の体が宙に浮いた。ボルブル先生が咄嗟に杖を持ち、強制的に浮かび上がらせたみたいだ。
「コラ、レイチェル! 限界を目指せとは言ったが、無茶はダメだと言っただろう!?」
「……ですが、私は負けるわけには」
「何を言っている! それで、体が壊れたらそっちの方が問題だろう!? 止めたユフィが正しい!」
荒い息をしながらなんとか言葉を搾り出すレイチェル様に、ボルブル先生は怒ったように声を上げた。
すると、レイチェル様はしょぼくれて、完全に覇気が無くなった。そして、恨めしそうにこちらを見る。
「……どうして、私のことを見ていたのよ。見ていなかったら、走れたのに……」
「姿勢が崩れて、魔力の流れがおかしくなっていたので……心配になって……」
「あ、あの状態で、そこまで見ていたの……。普通なら負けないように自分に集中するものじゃないの?」
「この授業は無理をするものじゃないですから。自分の限界を知る、ただそれだけの授業です」
真っすぐそういうと、レイチェル様は気まずそうに視線を逸らした。
「ユフィのいう通りだ。ちゃんと、授業の内容を理解している。それに比べて、レイチェルは自分の気持ちを優先したな。実地では気持ちを優先するのは、命取りになる。だから、ユフィみたいに冷静に判断する思考が大切だ」
「……はい、すいませんでした」
ボルブル先生が改めて注意をすると、レイチェル様は反省したように項垂れた。だけど、私に視線を向けると――。
「あなたの事、まだ侮っていたわ。……助かったわ、ありがとう」
小さな声で感謝を言われた。初めて感謝を言われて、ビックリした。私のことを敵視していると思っていたから、ちょっとだけ仲良くなれたみたいで嬉しい。
「よし、ユフィはまだ走ってよし! 己の限界を見極めるんだ!」
「はい!」
まだ、私は走れる。自分の限界を知るために、私はまた走り出した。
◇
そして――夕方。
「お、おい……ユフィ、まだか?」
「あと、もうちょっとなんですが……」
クラスメイトが帰り、私は一人でグラウンドを走っていた。それに付き添ってくれるのは、もちろんボルブル先生。顔面蒼白で私のことを見ている。
そうして、走っていくと――ストンと体の力が抜けた。百キロの重みが体にかかり、その場に座り込んでしまった。
「あっ、先生! 魔力が完全になくなりました!」
「えっ……。魔力がなくなったのに、普通なんだが……! 普通は喋るのもきつくなるんだぞ!」
「魔力切れにも慣れてしまいまして、普通に話せますし動けますよ?」
「そこまでの領域に達成するために、どれだけの魔力切れになったんだっ!? 何この子、怖い!」
ボルブル先生は震えだし、今までの熱血な姿とは変わってしまった。でも、これで自分の限界を知れたことだし、いい経験になっただろう。
もう少し、魔力使用効率を詰めていけば、夜まで走れそうだ。




