63.魔力使用効率と魔力量(2)
「よし、並んだな。列を乱さず、一定の速度で走るんだ。よーい、スタート!」
ボルブル先生の合図で私たちは走り出した。百キロを背負いながらの持久走。一体、どれだけの距離を走れるのか、全くの未知だ。
みんな、余裕な顔をして一定の速度で走っている。流石は成績上位と言われるAクラス。誰もふざけてはいない。真面目に持久走を進めていた。
もう少しで一週目が終わろうとしていた時、ボルブル先生がコースの傍で何やら作業をしていた。
「おーい! 水を用意したぞ! のどが乾いたら、遠慮なく飲めよ!」
どうやら、飲み水を用意してくれたみたいだ。私たちの体調を気遣ってだろう。豪快な先生だけど、優しいから安心する。
だけど、一週目は誰も飲み水を取らずに素通りしていく。まだ、走り始めの為、誰も喉が渇いていないらしい。
「そのペースを維持していくんだ。もっと、魔力を効率的に使うことを意識して!」
離れていくと、ボルブル先生のアドバイスが飛んでくる。その言葉には懐かしさを感じる。私も昔、無茶をして魔力切れになって大変になったことがあったな。
そしたら、ゼロムスさんが魔力をきちんと使えば、もっとたくさん使えるよって教えてくれたっけ。それから、魔力を効率的に使う練習をした。
魔法を使うのとは別の楽しさがあった。どんな風に発動すれば、無駄なく魔力が使える、とか。魔力から魔法に変換する時にどんな力を入れれば、効率がいいとか。そういうの、突き詰めていったよなぁ。
一時期、それにどっぷりと嵌って、寝る間も惜しんで使っていたっけ。まるで、遊びのような感覚でやっていたから、都会でどれだけ通じるかは分からない。
だから、この授業でそれが分かれば、目安になっていい。ここは、ボルブル先生が言っていた通り、自分の限界に迫って行こう。
そうして、五週目に差し掛かった頃――。
「もう、ダメッ……」
「魔力、限界……」
「ぐっ! 重っ!」
次々とクラスメイト達がリュックに押しつぶされるように倒れ込んだ。どうやら、本当に限界まで走っていたらしい。
すると、そのリュックが宙に浮き、体から離れていく。
「お前たち、ナイスファイトだ! だが、最後は魔力使用効率が雑だったぞ。もう少し、集中して使えていたら、あと二百メートルは走れたぞ」
どうやら、ただ見ていただけでなく、魔力使用効率もちゃんと見ていたらしい。倒れた生徒は悔しそうに頷き、コースから外れていった。
それから、次々とクラスメイト達がリュックに潰されていく。魔力が無くなり、百キロの重みに耐えられなくなったらしい。その度にボルブル先生が助けに入る。
十週目に入る頃には、私たち――上位五人にまで減っていた。
「残った五人、やっぱりすげー!」
「まだ、平気そう? 信じられない!」
「どこまで走るんだろう?」
先に倒れたクラスメイト達が興味津々でこちらを見てくる。誰かに見られるのは恥ずかしいけれど、応援は力になる。より一層魔力使用効率に気を付けながら走って行った。
「……この中でユフィとレイチェルは規格外だから、除外するとして。残った僕たち三人で誰が最後に残るか……」
その時、アルベルト様がポツリと呟いた。どうやら、アルベルト様、ミレイ様、ロゼリア様の中で誰が最後まで残るか考えているようだ。
「……私、負けないから。試験ではどっちも四位で中途半端だったけれど、実践では使えるって証明する」
その言葉にミレイ様が乗っかった。その顔つきは真剣で、友達だけど対抗心を燃やしているように見える。
「私も負けないわ。三位、とても欲しいから」
「僕もだ」
ロザリア様もアルベルト様も負けてはいない。初めて見る、対抗心を燃やした三人の姿。同じクラスメイトだとしても、私たちは競う立場にあるってことを知らしめる。
レイチェル様はそんなことに興味がないように、真剣に走り続けている。レイチェル様も自分の限界と戦っているんだ。私も気を引き締めていかないと。
そして、私たちは十一周、十二周、十三周目に突入した。すると、ミレイ様の息が荒くなった。
「はぁはぁ、まだ……」
そう言って、突然地面に倒れた。魔力が切れる寸前まで、身体強化を発動していたらしい。倒れると、ピクリとも動かなくなった。
「僕と君、どっちが残るか……勝負だ」
「望むところよ」
二人はミレイ様を横目で見送ると、真っすぐ前を向く。そして、全身に力を入れて、走り出していった。
二人の息が上がる、背中が丸まり、全身に力が無くなる。それでも、二人は三位を目指して走り続けた。
そして――。
「ぐっ!」
アルベルト様が地面に倒れ込んだ。勝ったのはロゼリア様だった。だけど、アルベルト様を見ることなく、走り続けていく。
そうして、半周した頃には――。
「あっ」
躓くようにロゼリア様も地面に突っ伏した。三人の勝負はロゼリア様が勝ったらしい。今、三人はどういう心境なのだろうか?
そう思っていると、前を走るレイチェル様がこちらを見た。
「やっぱり、最後まで残ったのね。ここから、私たちの勝負よ」
どうやら、レイチェル様は私と勝負がしたいらしい。三人の熱い戦いを見て触発された私は、小さく頷いた。
「負けませんから」




