62.魔力使用効率と魔力量(1)
「あれから寮の施設を借りて、料理を始めたんですよね。色んな調味料や調理法があって、とても有意義な時間でした」
「私も屋敷で野菜を切る練習をしているわ。絶対にテストには一回目で合格するつもりよ」
「僕は料理長から料理の話を聞いたな。どれも魔法以上に複雑で奥深い……。テストまでには間に合わせるさ」
「私はね! 家族に料理を食べてもらったんだ! 美味しいって食べてくれて、嬉しかったなぁ」
授業開始前、いつもの四人で集まって雑談をする。休日の勉強のお陰で、みんなの意欲が高まったらしく、別れてからも料理をしていたらしい。
料理が美味く作れなければ、実地訓練で十分な力を発揮出来ない。そう、ヘレナ先生に教わってから、真剣さが増した。
他のクラスメイトも料理の話でもちきりになり、あちこちで同じような話が聞こえてきた。みんな、自分で食べるものは美味しいものがいいからね。
そんな話をしていると、鐘が鳴り、私たちは席に着いた。すると、すぐに扉が開く。
「みんな、揃っているか!?」
大声で入ってきたのは、髭面の体格のいい男性だった。のしのしと教卓に近づくと、机に両手を付いて豪快に話す。
「俺はボルブル! 実地訓練の関係を受け持つ教師だ! これから、お前たちには実地訓練で必要なスキルを身に着けてもらう!」
なるほど、この人が実際に実地訓練に必要な事を教えてくれる先生なんだ。とても豪快そうで、厳しそうだ。
「まずは、お前たちがどれだけ出来るか見る必要がある。運動着に着替えたら、グラウンドに集合だ! 早くしろよ!」
それだけを言うと、ボルブル先生は教室から出ていった。なんとも、せっかちな先生だ。
私たちは席を立ち、運動着を持つと更衣室へと向かっていった。
◇
「よし、みんな到着したな!」
グラウンドに集合すると、ボルブル先生が待ち構えていた。その後ろには大きなリュックがたくさん並んでいる。
「今日から、お前たちには実地訓練で必要となる様々な技能を身につけてもらう! その第一歩として、まずは自分自身の限界を知ってもらうぞ!」
先生が胸を張って宣言すると、クラスのみんながざわめいた。すると、ボルブル先生は大きな手を一本掲げた。
「今日計測するのは二つ! お前たちの魔力使用効率と総魔力量だ!」
先生は教卓に立っている時とは比べものにならないほど大きな声で答えた。
「実地訓練では、魔法を一度使って終わり、なんてことは少ない! 戦闘でも探索でも、長時間にわたって魔力を使い続ける場面がある! そこで重要になるのが、自分の魔力をどれだけ効率よく使えるかだ!」
なるほど。魔法を一度だけ使うなら、どれだけ強力な魔法を使えるかが重要になる。でも、長い時間戦い続けるなら、魔力を無駄遣いせずに使い続ける必要がある。
そう考えると、とても大切な授業なのだろう。
「だがな! 魔力を継続的に消費させる方法にも向き不向きがある! 魔法を何度も使わせる方法では、個人によって消費量に大きな差が出る! そこで今回は――」
ボルブル先生が、後ろに並んでいた大きなリュックを指差した。
「身体強化魔法を使って走ってもらう!」
先生は満面の笑みを浮かべる。
「身体強化なら、常に魔力を消費し続けることができる! しかも、同じ条件で走らせれば、それぞれの魔力の使い方を比較しやすい!」
先生の説明を聞きながら、私はリュックを眺めた。ずいぶん大きい。中には一体、何が入っているんだろう?
「そして、条件を全員同じにするために――この百キロの重りを背負ってもらう!」
「ひゃ、百キロ!?」
「百キロって……二人分くらいあるぞ!?」
「そんなもの背負って走るの!?」
クラス中から悲鳴が上がった。百キロはかなり重い。でも、身体強化魔法を使うなら、それほど大変ではないのではないだろうか?
「身体強化魔法を使い、百キロの重りを背負った状態で、このグラウンドを走ってもらう! そして――己の限界まで走れ!」
「限界ってどこまで……?」
「倒れるまでってこと?」
「百キロ背負って走るだけでも無理だろ……」
と、不安そうな声が次々に上がった。しかし、ボルブル先生はそんな私たちを見て、むしろ嬉しそうに笑った。
「そうだ! 苦しくなったら終わりじゃない! もう一歩も走れない、その瞬間まで自分を追い込め! 今日の授業で知ってほしいのは、お前たちの現在の限界だ!」
先生の声がグラウンドに響き渡る。
「限界を知らなければ、実地訓練で無茶をする! 逆に、自分の限界を知っていれば、どこまで戦えるのか、どこで退くべきなのかを判断できる! 己の力を知ることは、生き残るために必要な技術だ!」
さっきまでの豪快な先生という印象が、少しだけ変わった。
ただ厳しいだけじゃない。私たちが実地訓練で困らないように、本当に必要なことを教えようとしているんだ。
「ただし、無理をして怪我をしろと言っているわけじゃない! 身体に異常を感じた場合は、すぐに申告しろ! 限界まで挑戦することと、無謀なことをするのは違うからな!」
先生がそう言ってから、もう一度拳を握った。
「さあ! 百キロを背負え! 身体強化を使え! そして――自分自身の限界を超えてみせろ!」
先生の熱い声に、クラスのみんなが一斉に気合を入れる。百キロを背負った持久走が始まろうとしていた。




