59.野外活動の授業後
「今日一日、野外活動の授業、お疲れ様でした。上手くできなかった人は、今日教わったことを復習するか、これからの授業で少しずつ身につけていってくださいね」
授業が終わり、ヘレナ先生が今日一日のまとめをしていた。荷物の整理だけでも苦戦している子が多く、みんな疲れた様子で先生の話を聞いている。
私はというと、今日教わったことを頭の中で思い返しながら、静かに耳を傾けていた。
荷物の整理、テントの立て方、洗濯、料理。どれも外で生活するためには大切なことらしい。田舎では当たり前だったことも多かったけれど、改めて教えてもらうと、新しく知ることもたくさんあった。
これからの野外活動が、なんだか楽しみになってきた。
「え、えーっと、それで……ユフィさんだけが授業を完璧にこなしていました。なので、心苦しいのですが、次からの授業はユフィさんに先生の事を手伝ってもらうことになりました」
そう。私だけが授業で完璧にこなすことが出来てしまった。だから、これから授業でやることが無くなる。そこで、ヘレナ先生は手伝いをお願いしてきた。
その話を聞いて、クラスメイトたちはざわついた。
「せ、先生! わ、私たちはユフィみたいに魔法を使うことが出来ません!」
「だ、大丈夫! そこは大丈夫よ! 魔法を使わずにやってもらうことになったから!」
クラスメイトの質問にヘレナ先生は慌てて答えた。最初は魔法で教えようとしていたけれど、それはダメだと強く説得させられた。
だから、自分の手でこなせるように教えることになった。絶対に魔法の方が簡単だと思うけれど……かつてないほど真剣なヘレナ先生の目には逆らえなかった。
「では、皆さん。また、来週会いましょう」
そう言って、ヘレナ先生は笑顔で去って行った。ようやく終わった授業。疲れた体を癒すように背伸びをすると、ミレイ様が一番に駆け寄ってきた。
「ユフィちゃん、凄いね! 次から先生の手伝いだなんて!」
「田舎でやっていたことが、ここで活用出来るとは思いませんでした。これも、ちゃんと生きてきたお陰ですね」
「田舎暮らしって、そんなこともするんだねぇ。ねぇ、ちょっと今日の事で教えて欲しいことがあるんだよね……。この後、食堂で話さない?」
「はい、良いですよ」
「やったー! ユフィちゃん、大好きー!」
嬉しそうにミレイ様が抱き着いてきた。すると、ロゼリア様たちも近寄ってきて、一緒に復習をすることになった。
放課後まで一緒にいるなんて、初めて。いつもはなかった展開に心が自然と弾んでいた。
◇
「カカカカカッ、カレン先生!」
「わっ!? ど、どうしたんだ、ヘレナ先生」
私は職員室に行くと、すぐさまカレン先生に掴みかかった。
「ど、どういうことですぅ!? 生徒の中に上級宮廷魔法使いが紛れ込んでいるなんて、聞いてませんよ!?」
「い、いやいや! ウチのクラスに上級宮廷魔法使いはいない!」
「あの子をそう言わずして、なんと呼べばいいんですか! 規格外にもほどがあります! 実は、有名な魔法使いの生まれ変わりなんじゃありませんかっ!?」
「お、落ち着いて! 揺さぶらないで!」
必死に揺さぶって訴えるけれど、カレン先生はことの重要性を分かっていない!
「も、もしかして……ユフィのことか?」
「そそそ、そうです! 何ですか、あの子は! 授業を完璧にこなすだけじゃなくて、新しい魔法を披露して! 何が目的んなんですか!」
「も、目的は授業をちゃんと受けたいっていう気持ちじゃ……」
「そんなんで、どうしてあそこまでのことが出来るんですかー!?」
頭を抱えて、激しく縦に振る。そうでもしないと、理性が保てない!
「……また、ユフィが何かをしたのか?」
「な、何かじゃありませんよ! 普通、手で行うことを、魔法でさらに難しくやり遂げたんですから! 私の授業は魔法なんて使わないのに、やり方さえ分かれば誰だって出来る授業なのに! なんか、一人だけ次元が違いませんか!?」
「……まぁ、一人だけ次元が違うな」
目の前のカレン先生が遠い目をして、宙を眺めた。まるで、そんな現実を見てきたように。
「私、教師なのに、生徒に何も教えてあげられませんでしたー!」
「い、いや! ユフィにも分からないことがある! もっと専門的な事を教えれば――」
「どんなことを教えても『これはこうですよね』とか『ここはこうしたらいいです』とか、私が教えられているんですけどー! それで、私も『あっ、そのほうがいいかも』って思って、私、教師ですよー!?」
「そ、そうなのか……」
カレン先生に抱き着いて、泣き声を上げる。私の存在価値ってなんなのっ!? ちゃんとしたことを、教えてあげたいのに! それが出来ないなんて!
「え、えっと……ユフィが知らない事を教えればいいんじゃないか? 都会の事は疎いから、そこを中心に――」
「そそそ、そうなんですか!? ……なるほど、完璧超人生徒にも穴が!? ……分かりました、私……ユフィに教えられるように勉強してきます!」
あの子にも知らないことがあるんだったら、力になれる! そう思った私は、すぐに身支度を整えると職員室から出ていった。
見てなさい! あなたの教師が、ちゃんと分からないことを教えてあげるから!




