57.野外活動の授業(2)
私たちは野外活動用のツナギに着替えると、校舎の外にある広場へと移動した。そこには、たくさんの道具が並べられていた。
ロープや火打ち石、水筒、毛布、食器、調理器具など、外で生活するために必要になりそうな物が、種類ごとに綺麗に並べられている。その隣には、生徒一人につき一つずつ、大きめのリュックが用意されていた。
「まず、みなさんにやってもらうのは、道具の整理です」
ヘレナ先生が、並べられた道具を指差しながら説明する。
「こちらにある道具は、野外活動で必要になる物を一通り揃えています。これらを必要な順番や用途を考えながら、自分のリュックに入れてください」
ただの荷造りか。それなら簡単そうだ。私はリュックを見ながら、どれをどこに入れようかと考える。
村にいた頃も、出かけるときには自分で荷物をまとめていた。必要な物を考えて、できるだけ小さくまとめて、重い物は下に入れる。そんなことは特に難しいことではない。
そう思っていたのだけれど――。
「……あんなにたくさんの物、どうやって入れるんだ?」
「圧倒的にリュックの方が小さくない?」
「そもそも、こんなにたくさんの荷物を自分で整理したことなんてないよ……」
周囲から、戸惑いの声が次々と聞こえてきた。
……あれ? 思わず周りを見渡す。みんな、目の前に並べられた道具とリュックを交互に見ながら、どうすればいいのか分からないといった顔をしている。
……そうか。みんなの家は貴族だったり、お金持ちだったりするから、こういうことは使用人さんがやってくれているんだ。
服を畳んだり、荷物をまとめたりするのも、自分でする必要がないのかもしれない。私は今まで、それが普通だと思っていたけれど――どうやら、ここでは普通ではなかったらしい。
「では、まず自分で考えて入れてみてください」
笑顔でそう言うと、クラスメイトたちは悲鳴を上げた。どうやっていいか分からないのに、やってみろと言うのだ。普通だったら困惑する。
だけど、私は違う。これだったら、きっと上手くいく。私は早速いつも通りに――魔法を発動した。
すると、地面に並べられていた道具が、ふわりと浮かび上がった。
ロープが宙に浮かび、水筒がその後を追うように持ち上がる。毛布や食器、調理器具まで次々と空中へ浮かび上がり、まるで目に見えない手に掴まれているかのように、私の周囲をゆっくりと回り始めた。
「ちょ、ちょっと待って!? ユフィちゃん、何をしているの!?」
「な、何をしてるんだ、ユフィ!?」
「えっと……荷物を詰めています」
「いや、そういう意味じゃないわよ!」
三人が慌てているけれど、私は気にせず作業を続ける。
水筒をリュックの横へ入れて、小さな道具を綺麗に並べてリュックの底へ。毛布は軽く折り畳んで、その上から入れる。食器はぶつかって割れないように布で包み、調理器具は隙間へ順番に収めていく。
道具たちは一つずつ、空中を滑るように動いていく。リュックの口を少し開ければ、そこへ吸い込まれるように入っていく。
「す、すごい……」
「何あれ……?」
「魔法で荷造りしてるの……?」
気がつけば、周囲のクラスメイトたちは作業の手を止め、私の方を見つめていた。
手で一つずつ運ぶより、この方がずっと楽だし、隙間にも綺麗に入れられる。そんなことを考えながら、最後に衣服を浮かせる。
「これも入れないと」
畳んだ服がふわりと浮き上がり、リュックの中へ入っていく。その光景を見ていたクラスメイトたちが、一斉にざわめいた。
「一枚ずつ空中で畳んでるぞ!?」
「どうやってあんな細かい動きを……?」
「そもそも、同時にあれだけの物を動かすなんて……」
そんなに珍しいことなのかな? 私は首を傾げながら、最後の一枚をリュックへ入れた。
「よし、終わりました」
最後にリュックの口を閉じる。我ながら綺麗に収まった気がする。すると――。
「い、今のは何ですか!? どうして道具が勝手に浮いて、リュックの中へ!?」
「あっ、ヘレナ先生。荷造り終わりました」
「えぇっ!? ま、まだ始まったばっかりよ! いや、それよりも……どうして道具が宙に!?」
「あっ、魔法で荷造りしたので」
「えぇっ!? そ、そんな魔法はないわよ! ど、どういうことっ!?」
ヘレナ先生が現れて、とても困惑した様子だ。その慌てようを見て、クラスメイトたちも戸惑う。
「えっと、私が便利にしたかったので、作った魔法なんですが……」
「そ、その年で新しい魔法の構築をっ!? ま、まだそれは授業では教えていないはずなのにっ!」
「田舎では色々と不便なので、少しでも楽にするために頑張って作りました。それよりも、リュックを確認してください。上手に出来たと思うんですけれど……」
そう言って、リュックを差し出した。ヘレナ先生は困惑しながらもリュックの中を確認する。そして――。
「か、完璧よ……。普通に手で荷造りをするのは難しいのに、さらに難しそうな魔法を使って荷造りをするなんて……」
「慣れてしまえば、魔法の方が簡単ですよ?」
「魔法の方が……か、簡単……はははっ」
素直な気持ちを伝えると、ヘレナ先生は引きつった笑いを浮かべた。




