55.学生予備兵
入学式から二週間が経った。学園の授業にも慣れ、寮での生活にも少しずつ馴染めるようになってきた。
二年生に勝負を挑まれたり、嫌がらせを受けたりと、思い返してみれば中々に濃い二週間だったように思える。今まで田舎でのんびりと暮らしてきた私にとっては、毎日が刺激的で、とても楽しい日々だった。
何より、ここには魔法がたくさんある。
先生も、先輩も、同級生も。みんな当たり前のように魔法を使っている。授業では今まで知らなかった魔法を教えてもらえるし、休み時間に生徒が使っている魔法を見るだけでも楽しい。
村にいた頃は、魔法を使える人なんてゼロムスさん以外知らなかった。だから、朝起きてから夜眠るまで、魔法に囲まれて生活できる今の環境は、私にとって夢みたいな場所だ。
魔法理論の授業では本で読んだこと以外の知識を教えてもらえるし、実技の授業では実際に魔法を使える。一般教養の授業も意外と面白かった。
毎日が忙しくて楽しい。田舎では経験できないことが、ここでは経験出来た。
今日の授業も終わりを迎えようとした時、カレン先生が改まって話を始めた。
「入学から二週間が経って、みんなも学園に慣れてきた頃だろう。よって、そろそろ次の段階に進むことにした」
その言葉に教室中がざわついた。一体、何があるのだろうか? 私も周りの生徒たちと同じように、カレン先生へ視線を向ける。
「次の段階というのは、これから始まる学生予備兵制度についてだ」
聞き慣れない言葉に、思わず首を傾げる。
すると、カレン先生は教卓に手を置き、いつもより少しだけ真剣な表情で話を続けた。
「まず、君たちには知っておいてもらいたい。この国は、決して平和な場所ではない」
その言葉を聞いた瞬間、教室の空気が変わった。
「我が国は昔から、外敵からの攻撃に悩まされている。国境の向こうには敵国が存在し、国境付近では今も小さな衝突が起きている。また、国そのものを敵視する組織や、犯罪者集団との戦いもある」
そこで一度言葉を切り、カレン先生は教室にいる全員を見渡した。
「そして、人間だけが敵というわけでもない」
その言葉に、何人かの生徒が息を呑んだ。
「魔物だ」
短い言葉が、教室に響いた。
「この国には、街の外へ出れば魔物がいる。弱い魔物だけではない。村や街を襲い、多くの人命を奪うほど強力な魔物も存在する」
私は黙って話を聞いていた。魔物なら、村にいた頃にも何度か見たことがある。
森の奥から出てきた魔物を倒したこともあったし、ゼロムスさんから魔物の種類や生態について教えてもらったこともある。
でも、こうして改めて話を聞くと、この国にとって魔物はとても大きな問題なのだと分かった。
「つまり、この国は常に敵と戦っている。敵国、敵対する組織、そして魔物。ありとあらゆる脅威によって、国の存亡が揺るがされている」
カレン先生の声には、いつもの授業とは違う重みがあった。
「だからこそ、この学園が存在する」
教室の誰もが、黙って先生を見ている。
「君たちは卒業すれば、ほとんどが国を守る役職に就くことになる。魔法騎士になる者もいる。宮廷魔法使いになる者もいる。軍や国境警備に配属される者もいるだろう。形は違っても、君たちはいずれ、この国を支える側に立つことになる」
学園は魔法を学ぶ場所だと思っていた。もちろん、それは間違っていない。
けれど、学んだ魔法を使う場所は、ここだけではないのだ。
「そして、君たちはこの学園の生徒だ。将来、国を守る立場になる者たちだ。つまり、君たちはエリートとして戦場を駆けることを期待されている」
教室の中から、小さなどよめきが起こる。
戦場。その言葉を聞いて、さすがに緊張した。
「だが、いくら優秀な魔法使いでも、知識だけで戦場を生き抜くことはできない。実際に敵と対峙した経験がなければ、いざという時に何もできなくなる」
カレン先生はそこで腕を組んだ。
「だからといって、卒業したばかりの生徒を、何の経験もないまま本物の戦場へ送り出すわけにもいかない」
それは当然のことだと思う。魔法の練習と、本当に命を懸けて戦うことは違う。
「そこで設けられているのが、学生予備兵制度だ」
その言葉に誰もが真剣な顔になる。どうやら、周りはこのことを知っていたようだ。私は、初めて聞いた。
「簡単に言えば、学園に通いながら、実戦に必要な経験を積んでもらう制度だ。もちろん、いきなり戦場へ放り込むわけではない。最初は訓練から始める。戦闘訓練、野外活動、魔物への対処、集団戦闘、負傷者の救護、護衛任務など、実際の現場で必要になる知識と技術を学んでもらう」
思っていたよりも、本格的な内容だった。田舎から出た私にそんな事が出来るのだろうか?
「そして、一定の基準を満たした者は、実際の任務にも参加することになる」
「任務って……本職の人と一緒にですか?」
教室がざわつき、一人の生徒が尋ねる。
「そうだ。その任務は討伐だけとは限らない。街道の護衛や物資の運搬、魔物の生息域の調査、避難誘導なども含まれる。重要なのは、実際の現場でしか得られない経験を積むことだ」
カレン先生はそう答えてから、少しだけ厳しい目を向けた。
「ただし、勘違いしないように。学生予備兵だからといって、遊びではない。現場では君たちの判断一つで、自分だけでなく仲間の命まで左右される」
その言葉に、私は自然と先生の話へ意識を集中させた。
「だからこそ、これから君たちには、魔法の技術だけではなく、戦うための知識と経験も身につけてもらう」
楽しく勉強するだけだと思っていた。でも、この学園はそれだけでは、許されないらしい。
「君たちはまだ学生だ。だが、将来この国を守る者として、その準備を始める時期が来たということだ」
そこで先生は、教室にいる私たちを一人ずつ見渡した。
「来週の頭から、学生予備兵としての基礎訓練を開始する」
一体、どんなことを学ぶのだろうか。私は不安と期待で胸がドキドキとしていた。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
当初の予定では、一話前で一区切り完結させようかな、と思っていましたが、思ったよりも他サイトで反響があり、このまま続きを書いて行こうと思います。
どれだけ続けるかは作者の気力、体力、やる気次第なので、お約束が出来ないのが心苦しいですが……。もし、少しでも続きが読みたい、とか。面白い、と思ってくださいましたら、ブクマ&評価で応援していただけるとありがたいです。
また、続きの内容を考える時間を確保するため、次回から三日事に一度の更新頻度になります。いきなり、更新頻度が広がり、申し訳ございません。よろしくお願いします。




