53.少しの本心
「先日、問題を起こした生徒だが、自主退学となったことを報告しよう」
カレン先生がそう言うと、教室中がざわついた。重い処罰が下ると思っていたのに、結果として自主退学という形で終わったのだから。
「正確には、学園から退学を命じたわけではない。本人と保護者を交えて話し合いを行った結果、本人が自主的に退学することを決めたそうだ」
カレン先生は教室を見渡し、生徒の顔色を窺いながら続ける。
「今回の件では、魔法を無断で使用したことだけではなく、特定の生徒に対して継続的に魔法を放っていたことも問題になった。また、授業中にも魔法を使用していたため、周囲の生徒を巻き込む危険性もあった」
先生の声が、いつもより重く響く。その重さに教室が静かになっていく。さっきまで驚きの声を上げていた生徒たちも、今は誰も口を挟まない。
「そこで、今後このようなことが起こらないよう、明日は一時間分の授業を使って、改めて学園の禁則事項を確認しようと思う。知らなかったでは済まされない規則もある。特に魔法に関する禁則事項は、皆の安全に直結するものだからな」
その言葉に、教室の空気が少し引き締まった。その様子を見て満足したのか、カレン先生は退出していった。
◇
「これで、ユフィに嫌がらせをする人はいなくなったわね。ホッとしたわ」
「まさか、ユフィちゃんが自分で解決するとは思わなかったよ。まさか、秘術を解明しちゃうなんて」
「ホント、君は理解の範疇を越える」
下校時間、ロゼリア様たちがそんな事をいう。これで、三人に迷惑をかけられずに済むと思うと安心した。
「これからは、また同じように楽しく学園生活が送れそうね」
「全く、あなたは能天気ね。これで済むと思っているの?」
笑顔で答えていると、スッと通り過ぎたレイチェル様が呟いて、こちらに鋭い視線を向ける。
「誰が腹の底で何を考えているか分からないわよ。誰が味方かなんて分からない。注意するべきよ」
「そんな、不安の煽るような事を……」
「事実を言ったまでよ。あなたが潰れない事を祈ってあげるわ」
ロゼリア様が苦言を呈すが、レイチェル様はツンとソッポを向く。そして、先に進んでいってしまった。
「もう、レイちゃんって厳しい」
「まぁ、浮かれるよりも注意をした方がいいだろう。きっと、レイチェルなりの気遣いなんだろう」
レイチェル様が私を気遣って? その言葉にじんわりとした温かい気持ちが広がった。
「すいません、ちょっとレイチェル様と話してきます!」
いてもたってもいられず、私は駆け出した。先に行ったレイチェル様に追いつくと――。
「レイチェル様、えっと、ありがとうございます!」
すぐに声をかけた。すると、レイチェル様が振り向き、ツンとした表情をする。
「別にあなたのためじゃないから。ただ、気になっただけのことを黙っていられなかっただけ」
「それでも、気にかけてくださったんですよね? ……どうしてですか?」
何がレイチェル様をそうさせたのだろうか。それを知ることが出来れば、もっと仲良くなれる気がする。
だけど、レイチェル様は不機嫌そうに眉間にしわを寄せるだけ。喋ろうとはしなかった。
でも、目はこちらを見ている。何かを伺っているような、そんな様子。
「……昔の私を見ているようでほっとけないのよ」
「昔のレイチェル様……?」
「……私も昔は、周りからは立場に見合わないだの、身の程を知れだの、色々と言われたわ。自分では何も悪いことをしていないのに、ただ能力があるというだけで目をつけられることもあった」
レイチェル様は一度、視線を逸らした。
「あなたを見ていると、そんな頃の自分を思い出すのよ。あなたは世間知らずで、危機感も足りない。そのくせ、自分の能力については驚くほど無頓着」
「……」
「しかも、あなたは私以上に目立つ」
その言葉に、私は思わず目を瞬かせた。
「地位が高いわけでもない。後ろ盾があるわけでもない。それなのに、学園で誰も見たことのないような魔法を平然と使う。そんな人間が周囲からどう見られるのか……少し考えれば分かるでしょう?」
「……そう、なんですね」
「だから、見ているとハラハラするのよ。いつか誰かに利用されるんじゃないか、妬まれて足を引っ張られるんじゃないか……余計なことに巻き込まれて、酷い目に遭うんじゃないかって」
そこまで言って、レイチェル様は小さく息を吐いた。そして、少し言い辛そうに言葉を続ける。
「私は今まで、自分より優れた同年代なんてほとんど見たことがなかった。だから、あなたが現れてから……どうしても気になるのよ」
「私が……?」
「ええ。あなたが次に何をするのか、どんな魔法を作るのか。そして、あなたを越えることが出来るのか」
真っすぐな視線が向けられた。
「あなたはもっと、自分がどれだけ特別なのか自覚しなさい。私が興味を持つくらいには――あなたは、とんでもない魔法使いなんだから」




