52.犯人の自供
その人はあまり話したことのない人だった。私とは距離を開け、別のグループにいる男の子。
「な、何を言っているのかな? さっきのは角に手をぶつけただけで……」
「でも、杖を落としていますよ? 魔法を使っていたんですよね?」
「いや、これはカバンに仕舞おうとしていたところだよ。だから、俺は犯人じゃない」
問い詰めていくが、犯人の生徒は認めようとはしない。だけど、明らかに焦っている様子だ。どんなことを言えば、この人は認めてくれるのだろうか?
「第一、人に気づかれずに教室で魔法が使えると思う?」
「誰も、教室で魔法を使っているって言ってませんよ? どうして、そんな事を知っているんですか?」
「いやっ、これはっ、違くてっ! そ、そう! 教室の中にいる人を疑うの? 同じクラスの仲間を疑うなんて、ユフィって薄情だね」
「話をすり替えようとしても、無駄です。あなたは確かに魔法を使っていました。その証拠に――」
私は手を上げて指先をクイッと動かすと、犯人の腕が上がった。
「えっ?」
「あなたの魔法を放った道を辿って、魔力の糸を繋げました」
「な、なんでそんな事っ!? 感知出来ないはず!」
私の言葉に生徒は明らかに動揺した。その姿を見て、周囲のクラスメイトたちがざわめきだす。誰もがその生徒を疑っているような目で見た。
「ち、違う! 俺じゃない! い、今のはただそう思っただけで! 神に誓って、そんなことはしていない!」
慌てて弁解しようとするも、クラスメイトたちはその生徒の言葉を信じなかった。
「じゃあ、あの子が?」
「おい、正直に言った方が良いぞ」
「先生を連れてきた方がいいかも」
ざわざわと騒がしくなる教室内。その中でその生徒だけが顔を青くして、動揺していた。
何を言えば、この生徒は認めてくれるのだろうか? 私が考えて、言葉を口にする。
「じゃあ、使っていた秘術について話しても大丈夫ですか?」
「えっ?」
「魔法の発動を感知出来ないようにしたのは、隠遁の魔法を改造したからですよね?」
「な、なんで……それを……」
そういうと、今度は血の気が引いたように顔から色が消えた。
「隠遁の魔法は人の気配を消す魔法。それを魔法発動に応用させたものを使っている。それが、あなたの家に伝わる秘術なんですね」
ズバリ本当の事をいうと、その生徒はショックを受けた顔をした。体を震わせ、首をゆっくりと横に振る。
「な、なんで……それを……。これはずっと秘密にしていた、俺の家の……。誰にも、言ったらいけないのにっ」
「何度も私に見せたのが間違いでしたね。お陰で、この答えに辿り着くこ――」
「それ以上、言うな! 言わないでくれ! それは、俺の家の秘密だ! 感知できないのに、どうして……どうして、そこまでっ!」
「感知できないからこそ、気づきを得ました。それに、私も複数の魔法を同時に発動出来ますから。発動している魔法が一つではない事も気づくことが出来ました」
ニコリと微笑むと、その生徒に手を向けた。
「それにほら――私も使えるようになりましたよ」
その言葉を言い終わると、生徒の服の下に忍ばせていた光の球を出した。その瞬間、その生徒は呆然としていた。
「なっ!? こ、こんなに近くに魔法が!? 全然気づかなかった!」
「魔法発動の気配を消す魔法。結構難しい発動条件ですが、私でも使えましたよ。これを、あなたは使っていたんですよね?」
「…………」
生徒は答えなかった。ただ、私の手元に浮かんでいる光の球を、呆然と見つめている。その顔からは、さっきまであった焦りも怒りも消えていた。
代わりに浮かんでいたのは――絶望だった。だけど――。
「違う……違う違う違う! そんなわけがない! そんな簡単に使えるわけがないんだ!」
突然、生徒が頭を抱えた。教室中に響き渡る声。周囲の生徒たちが驚いて、一斉に距離を取る。
「俺は……俺は何年も……! 何年も練習したんだぞ! 毎日、毎日、魔力を使い果たして……失敗して、倒れて、それでも練習して……!」
震える手で、自分の髪を掻きむしる。その声は次第に大きくなっていった。
「父さんだって、祖父さんだって、誰も簡単には使えなかった! 家の中でも、この秘術を使えるようになるのは一人前の証なんだ!」
生徒は頭を抱えたまま、何度も首を横に振る。
「それを……一週間、俺が使ってるのを見ただけで! これは家に伝わる秘術なんだぞ! 何百年もかけて受け継がれてきた、俺たちの家だけの魔法なんだ!」
「魔法ですから、仕組みが分かれば誰にだって使えるんじゃないでしょうか?」
「――は? ……誰でも?」
私の言葉に生徒は絶句した。そして、力なく笑いながら、ふらふらと後ろへ下がる。膝が床に落ち、ぺたりと力なく座り込んだ。
「何百年と受け継がれた秘術が……こんな……嘘だ。誰でも、使える……。もう、俺の家だけの秘術じゃない……。ど、どうして、こんな……こんな……あ、あはは……」
そして、その生徒は壊れたように笑い続けた。その目からは涙が零れ、鼻からは鼻水が垂れ、ズボンは湿っていた。




