51.犯人の特定
あれから一週間が経った。
その間、私は毎日のように嫌がらせと思われる魔法を受け続けていた。けれど、飛んでくる魔法はどれも、私がその場で構築した魔法によって迎撃できている。今のところ怪我をしたわけでもないし、授業に支障が出ているわけでもない。
だから、これだけ防ぎ続けていれば、そのうち相手も諦めるだろう。最初は、そう思っていた。
けれど、諦める気配はなかった。それどころか、日を追うごとに魔法を放ってくる回数は増えているように思える。
相手も相当焦っているのか、とうとう授業中にまで魔法を放ってくるようになった。もちろん、それはすぐに先生に見つかり、大きな問題になった。
学園では、授業中に勝手に魔法を使用してはいけないという規則がある。特に魔法を扱う授業では、教員の許可なく魔法を放つことは厳しく禁じられているらしい。
先生もかなり怒っていた。
けれど、誰が魔法を放ったのかまでは分からない。教室にいる生徒は多く、魔法が飛んできた方向を特定することも難しい。そのため、先生と言えども、その場で犯人を捕まえることはできなかった。
「この件に関わった生徒が見つかった場合、厳正に処分する。覚えておくように」
先生は、いつになく厳しい口調でそう告げた。それだけ強く注意されたのだから、さすがにもう止まるだろう。
私はそう思っていた。けれど――魔法は止まらなかった。
相変わらず、授業中でも、それ以外の時間でも、時々どこからともなく魔法が飛んでくる。
とはいえ、私にとっては、それほど困ることでもない。飛んできた魔法を防ぐだけなら、今の私には難しいことではないからだ。
だから、私は平気だった。ただ――周りのみんなは、そうではない。
魔法が飛んでくるたびに、ロゼリア様たちが心配そうな顔をする。大丈夫かと何度も声をかけてくれるし、授業中には私の近くを気にしてくれる人までいる。
そのたびに、私は申し訳ない気持ちになった。私自身は平気なのに、私のせいでみんなに心配をかけてしまっている。それだけが、少しだけ心苦しかった。
だから、犯人の特定を急いだ。それには、魔法の分析が必要だ。どうして、魔法発動の気配が察知できないのかを考える必要がある。
まず、目に見えることから分析を始めた。私に嫌がらせをしている魔法について考える。
今の所、強い魔法は撃ってこない。本当に狙っているなら、強い魔法を使ってくるけれども、そんな様子がない。
だから、原因があるんだと思う。強い魔法を撃てない理由は様々考えられる。ただ単に威力が足りない、と考えれるが王立グランセリア学園に入学できる人物だからそれはありえない。
別の原因で考えられるのは、同時に別の魔法を使っていること。これだったら、低い威力しか出せないのも頷ける。
それを仮定して考えていると、今回使われている秘術と呼ばれる技術には二つ以上の魔法を発動する技術なんじゃないかと思えてくる。
二つ以上の魔法発動で魔法の気配を抑えられる。そんな魔法が――あった、隠遁の魔法。あの魔法は人の気配を消す魔法で様々なところで使われている魔法だ。
だけど、その魔法は人の気配を消す魔法。決して、魔法の気配を消すものじゃない。
この世には私の知らない魔法がいっぱいある。だとすれば、その可能性はゼロじゃない。隠遁魔法を独自に進化させれば……。
だったら、次の魔法が放たれた時に隠遁の魔法を消す魔法を組み込んでみよう。魔法を感知したら防御魔法が発動し、その魔法の隠遁魔法を消す魔法を組み込んで……よし、これで大丈夫。
後は、相手が魔法を放ってくれるのを待つだけだ。
◇
「では、今日の授業はこれまで。家や寮に帰ったら、ちゃんと復習をするように」
先生がそう告げると、教卓の上に置かれていた教科書を閉じ、教室から出ていった。それを合図に、張り詰めていた教室の空気が一気に緩む。
「やっと終わったー!」
「今日の課題、多すぎない?」
「寮に戻る前に食堂に行こうよ」
あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。私も机の上に広げていた勉強道具をカバンにしまい、椅子から立ち上がろうとした。
――その瞬間だった。目の前で、小さな火が灯った。
いつもの嫌がらせだ。反射的に魔法が構築、私と火の間に防御魔法が展開され、飛んできた炎が弾かれた。
だけど――今回は、それだけでは終わらなかった。防御魔法とほぼ同時に、もう一つの魔法を構築する。
炎を防ぐのではなく、その魔法そのものを解除するための魔法。解除魔法が炎に触れた瞬間――魔法の構造が崩れた。
そして、その直後。
「いたっ!」
教室の後ろから、短い悲鳴が上がった。その声を聞いた瞬間、教室中が静まり返った。
今の悲鳴、間違いない。教室の後ろへ視線を向けるとそこには、片手を押さえながら、驚いた顔で立っている一人の生徒がいた。
その足元には一本の杖が落ちていた。周囲がざわめく中、私はゆっくりと近づいていく。
「見つけました」
近づくと、相手の顔が見る見るうちに青ざめていく。そして、私はその目の前で足を止めた。
「あなたが――犯人だったんですね」




