48.知らない魔法を知るチャンス
「ようやく、身の程を知ったかしら?」
レイチェル様の言葉に私は頷いた。期待に目を輝かせて、溢れんばかりの笑顔を浮かべて。
「はい! 魔法発動を感じないほどの精細な技術、私の知らない魔法があることを知りました!」
「……は?」
「これは凄いですよ! 魔法発動には魔力の高まりや波動で分かるようなものですが、今のは一切感じませんでした。そこまで技術を昇華させるなんて……まだまだ知らないことがあるんですね!」
「な、何を言っているの……この子」
レイチェル様が不思議な物を見るような目でこちらを見てくる。だけど、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
どうやって、魔法を発動したのか気になる! あの一回だけなんて、解析するのに全然足りない! もっともっと、受けたい!
「ちょ、ちょっとユフィ。あなた、大丈夫? 今のは嫌がらせなのよ? 受けたら、悲しいでしょ?」
「全然悲しくありません! むしろ、もっと受けたいです! だから、どんどん私に嫌がらせしてください!」
「え、えーっ!? ユフィちゃんってそういう気があるのー!?」
「ど、どんな根性をしているんだ……」
私がそう言うと、周囲はとてもざわついた。まるで、信じられないようなものを見る目を向けている。
「流石は都会ですね、私の知らない魔法があるなんて……。ぜひとも、教えていただきたいですけれど……どなたが発動したんですか? 教えてください!」
周りの事なんて気にせずに声を上げる。だけど、周りはざわつくだけで何も答えが返ってこない。
「ちょっと、来なさい!」
その時、勢いよく距離を詰めてきたレイチェル様が私の手を引いた。教室から出ていくと、壁に肩を押し付けられた。
「あなた、分かっているの? あなたを排除しようと、嫌がらせをされているのよ?」
「水をかけられたぐらいでは、どうも思いません。今まで村では嫌がらせを受けていたので」
「例えば?」
「腐った卵を投げつけられたり、石の入った泥団子をぶつけられたり、食べ物に針を入れられたり」
「……あなた、結構酷い目に合っているのね」
憐れみの目でレイチェル様が見てくる。だから、そんな嫌がらせに比べれば、水をかけられたくらいでどうともない。
「最初は水かもしれないけれど、これから酷くなる可能性もあるわ。魔法の気配を察することが出来ないのであれば、不意を突かれて魔法を使われるかもしれない」
「あっ! あれ、一回切りじゃないんですね! よ、良かった……」
「喜んでるんじゃないわよ! よく、考えなさい! 不意を突かれるというのは、身の危険もあるし、最悪命を狙われる可能性だってあるのよ」
「そ、それだけ凄い魔法ってことですよね……。うわぁ、解析したい!」
話を聞けば聞くほど、その魔法のことが知りたくなってくる。魔法発動の気配を消すなんて芸当、思いつきもしなかった。
レイチェル様は怒った顔をしたけれど、少し深呼吸をすると、今度は真剣な視線を向けてくる。
「普通だったら、魔法発動の気配を消すなんて芸当は出来ない。これは、魔法使いの家系に代々伝わる秘術かもね」
「秘術、ですか?」
「その家にしか伝わっていない技術のことよ。門外不出にされた、高度な魔法よ。習得するには小さい頃からの鍛錬が必要だし、身に付くまでに十年、いえ数十年はかかるものもあるという噂よ」
魔法使いの家系にだけ代々伝わる技術。そんなものがあるなんて知らなかった。本には書いていない魔法がこの世にはある。それを考えると、ワクワクが止まらなかった。
「そんな大層なものをどうこうしようがないじゃない。しかも、魔法発動の気配を消す? そんな対処しようがないじゃない」
「えっ? そんなことありませんよ。魔法発動が分からないけれど、発動した時には表に出るんですから、その時に対処すればいいんです」
「はっ? 発動してから、対象に当たるまでにどれだけの時間しかないと思っているの? 一秒あるかないか。その時間であなたは対処出来るの?」
「タイミングが大事ですから、何度か受けるとどうにか出来そうな感じですね」
「何度かって……凄く危険な行為よ。やめなさい」
レイチェル様は怒りの視線を向け、私の肩を強く掴む。いつもなら怒られると萎縮してしまうけれど、今回は怖さを感じない。だって、レイチェル様は私のために怒ってくれているって分かるから。
「えっと、心配してくださってありがとうございます。レイチェル様っていつも気遣ってくださって、嬉しいです」
「えっ、なっ、べっ、別にそういう訳じゃ……。ただ、何も分からないあなたを見ているとイライラするだけよ」
感謝の言葉を伝えると、レイチェル様はしどろもどろになり、背を向けた。
レイチェル様は村の人に比べたら、凄く優しい。冷たい目で見ないし、軽蔑したりもしない。嫌がらせだってしないし、罵声を浴びせたりもしない。
「とにかく、これから目立つことはやめなさい。命が狙われるかもしれないのよ」
そう言って、レイチェル様は先に教室へと戻っていった。




