47.嫌がらせ
朝から、レイチェル様に言われたことが頭の中で繰り返されている。
教室には、私を敵視している人がいる。その人が、何かしてくるかもしれない。
その不確かな注意の言葉が、どうしても頭から離れなかった。
「敵視……って、どういうことなんだろう? 同じクラスメイトなのに、敵視するの?」
昨日までは、そんなことを考えたこともなかった。ロゼリア様やアルベルト様、ミレイア様と話をして、授業を受けて、お昼ご飯を食べて――。
楽しい一日で、学園に来るのが楽しみで仕方なかった。それなのに、レイチェル様の話を聞いてから、周りの人たちが少しだけ違って見えてしまう。
「私、何もしてないのに……」
思い返してみる。昨日は授業初日で、まだまともに話していなかった。だから、失礼なことはしてないと思う。なのに、敵視している人がいる原因が分からない。
「私、何か悪いことをしたのかな?」
考えてみても、心当たりがない。入学試験で頑張って、入学できた。授業は楽しいし、クラスメイトとも仲良くできている。
その中で、敵視しているような人はいなかったはずだ。私は腕を組んで、真剣に考え込む。ずーっと、考えながら歩いていると――教室に着いた。
考えても仕方がない。私は普通に生活するだけだ。
「おはようございます」
扉を開けて挨拶をすると、クラスメイトたちが挨拶を返してくる。私はロゼリア様のところに行く前に、席に座ろうとした。
その時――。
バシャァッ!
突如、頭上から大量の水が落ちてきた。その途端、周囲から悲鳴が聞こえ、騒然となった。
「な、なんだ!? 突然、水が!」
「どういうことなの!?」
「ユフィ、大丈夫!?」
クラスメイトたちが驚き、心配の声を上げる。突然のことで呆然としていると、ロゼリア様たちも近寄ってきた。
「ユフィ、大丈夫!? 今、乾燥の魔法をかけてあげるわ」
「私も! すぐ、乾かすね!」
「……なら、僕も」
すると、慌てたように三人が杖を持って乾燥の魔法を発動させる。すると、水浸しだった全身が一瞬にして乾いた。
「あ、ありがとうございます」
「とりあえず、すぐに戻ってよかったわ。でも、誰がこんな悪戯を……」
「ちょっと、誰!? ユフィちゃんにこんなことした人!」
「名乗り出るなら早いほうがいいぞ」
三人が周囲を睨みつけて声を上げる。だけど、他のクラスメイトは戸惑って周囲を見渡すだけ。名乗り出る人は誰もいない。
と、その時――。
「ほら、見なさい。言わんこっちゃない」
レイチェル様の声にみんなの視線が集中する。頬杖をついて、呆れたようにこちらを見る。
「昨日、言ったでしょう。あなたは目立ちすぎるって」
レイチェル様は小さくため息をついた。
「田舎育ちの平民。それなのに入学試験では一位。しかも実技でも、他の受験生とは比べものにならない魔法を使った。あなた、自分がどれだけ目立ったのか分かっていないでしょう?」
呆れたように目を細め、さらに言葉を続ける。
「あなたを妬む人が出てくるのは、むしろ当然よ。自分より身分が低く、家の力もない相手に、あっさりと実力を見せつけられたんだもの」
「だからって、こんなことをしていい理由にはならないでしょう? ユフィは何も悪いことをしていないわ」
その言葉にロゼリア様が反論の意を示す。だけど、レイチェル様は冷静に続ける。
「ここは実力主義よ。身分だけで評価される場所ではない。平民でも、実力があれば上に行ける。それはこの学園の良いところよ。でもね。実力主義ということは、同時に実力の差をはっきり見せつけられる場所でもあるの」
教室が静まり返る。誰もが同意しているように。
「努力してきた人間の隣に、何も知らない田舎者がやってきて、自分より上の結果を出した。そんな現実を、全員が素直に受け入れられると思う?」
「……」
「ましてや、この学園には貴族も平民もいる。将来、魔法使いとして国を支えることを目指している生徒も多い。だからこそ、順位や実力に敏感になるわ」
レイチェル様の視線が私に戻る。それは冷たいのに熱さのある視線。
「そういう環境で一番上に立ったのよ。だから、妬まれる。目をつけられる。それくらいは覚悟しておかないと――潰されるわよ」
レイチェル様も、ロゼリア様も、クラスメイトのみんなも……私のことを思ってくれているのがよく分かる。
だけど、それよりも私は――この魔法の発動方法が気になっていた。
何これ、凄い! 発動した時の気配が感じられなかった! 魔法を放たれた気配もなかった! なのに、魔法が発動した!
気配を感じられない魔法発動ってある!? 無いよ! どの本にも載っていなかった! 自分でも考えつかなかった!
これは、凄い魔法を見つけてしまった!




